2021年3月に母親を見送った新田恵利さん。振り返ってみると、介護の期間は自分が老いていくための「予行練習」だったと言います。介護を経験した新田さんが見つめる、そこから先の生き方とは? 前編に引き続き、新田さんにお話を伺いました。
罪悪感を背負う前に、親の希望を確認
——親の介護をすることで自分のキャリアを失わないために、できるだけ介護をアウトソーシングしたいと考えている人も多いと思います。罪悪感なくアウトソーシングするためのアドバイスはありますか?
新田恵利さん(以下、新田):必死にいっぱい稼げば良いんですよ(笑)その分、他人に頼むことが可能ですよね。もちろん介護保険を使ってヘルパーさんにお願いできます。介護度に点数が決められていて、その点数の中でお願いできるサービスを決めるのですが、オーバーする分は必死に働いて稼いでお支払いするしかないですよね(苦笑)。
だから自分で親を見られない、あるいは見たくないという方は、働いて働いて頑張ってお金で解決する。私はそれが悪いことだとは絶対に思わないし、親御さんの中にも、年がら年中ケンカしながら面倒を見てもらうくらいなら、他人にお世話してもらうほうがいいという方もいらっしゃるでしょう。
だから、まずは介護される人の意見や気持ちを聞いてみる。「私がいい? お金がいい?」って(笑)。そして、その人の気持ちを尊重してあげる。その希望がかなうことが一番だと思います。
うちの母は、私と兄にみてもらいたい、在宅介護がいい、最後も家がいいと希望したので、母の気持ちにそったまでです。施設で同年代の人と趣味を楽しみながら老後を送りたいという親御さんも、もちろんいると思います。
——お母さまの希望をかなえてあげられたということで、『悔いない介護』なんですね。
新田:自分が見なきゃいけない、どうしよう……と悩む前に、まずご両親の希望を聞くことが大事だと思います。
介護は自分の老いの予行練習
——新田さんは親の介護によって、ご自身のキャリアや人生が奪われるような恐れはありませんでしたか?
新田:まったくなかったです。お仕事をしてらっしゃるのであれば、続けたほうがいいと思います。介護に関係してらっしゃる方が口をそろえて言うのは、「介護離職は絶対しないほうがいい」と。
経済的なこともありますが、介護ばかりに奔走していると当然ストレスがたまります。お仕事に行くと、その数時間は介護を忘れないと仕事ができない。忘れることによって気分転換になるし、ストレス解消にもなります。
だから、お仕事は絶対続けてほしい。それで両立に苦労する場合は、今は受け皿がいっぱいあるので、ケアマネージャー等に相談することも大事だと思います。
——介護というと「大変そう」というイメージが大きすぎて、見送ったあとに続く人生がイメージできません。
新田:それまで老後は漠然と考えるだけでしたが、親の介護を通して、自分がどういう最期を生きたいのか、どういうところに住みたいのかなど、考えが具体的になってきました。
私は今53歳なので、もし母の年齢まで生きるとしたら、あと約40年もあるんですよ。今まで生きて来たのと同じくらいの時間があると思うと、もっとしっかり考えないとという気持ちになります。
うちは何でも話し合う夫婦なので、老後のことも夫と話し合いました。夫は何年か前に自分の夢をかなえたので、次は私の夢を叶えてとお願いして、その実現のために熱海に中古の家を買い夫婦二人でDIYリフォームをしています。
——介護を経験したことで、自分の未来をイメージできたのですね。
新田:親の介護を通して人の人生を最期まで見ると、「自分の時には、あれはいいけど、これは嫌だ」と選択できるようになる。予行練習みたいな感じですよね。自分が老いる時のシュミレーションができる。
母には「かわいいおばあちゃんでいてね」と常々言っていて、本当に皆さんから「かわいいおばちゃんですね」と言ってもらえるような人でした。自分もやっぱり、最後は「かわいいおばあちゃんだね」って言われたいですよね。
——おしゃれが好きなお母さまだったそうですね。
新田:ある日、母とテレビを見ていたら、たまたま死に装束の話題を放送していて。まだそういう話題を笑い飛ばせる頃だったので、「お母さんは何着る?」と聞いたら、母がしばらく考えて、「ウエディングドレス」と答えたんです。
ああそうか、やっぱり女なんだなって思いました。昭和の初期の人は、ウエディングドレスを着て結婚式はしていないので。
その時はなんとなく、どこかで白いドレスを買えばいいやと思っていたんですけど、だんだん最期が近づいてきて、いろいろ調べてみた時に、「待てよ、死後硬直というものがあるのに、どうやって着せるの?」普通のドレスじゃ駄目だと気がついたんです。
それでネットで調べてみたら、ガウンタイプのエンディングドレスというものが売られていました。着物や洋服を作るハンドメイドも得意なので自分で作ろうと思ったんです。
私には子供がいないのですが七五三と成人式の着物、ウエディングドレスを子供に作ってあげるのが夢でした。でも、いないものはしょうがない逆に「娘の作ったものを最期に着られるなんて、いいじゃない!」と母のために作ろうと決めました。
最期が迫ってから作り始めたので、完成させたら本当に死んでしまうような気がして、未完成のまましばらく置いていました。母をみとったあと、泣きながらミシンを踏んで完成させたことを覚えています。訪問看護師さんや、皆さんに、「いいね」「すてきだね」と言っていただけたけど、唯一の心残りは、母自身が見ていないこと。介護に悔いはないけれど、みとりには1つだけ悔いが残りました。
——考えたこともなかったですが、確かに、最期は好きな服を着て旅立ちたいかも……。
新田:こういうものを広めたいと考えるようになりました。来年の母の一周忌を機に、エンディングドレスのブランドを立ち上げようと準備しているところです。
——すてきですね!
新田:介護が必要になるのも、死んでしまうのも、お年寄りだけじゃありません。不幸なことに、若くして亡くなってしまう人もいます。自分のパートナーに必要になるかもしれない。子供に必要になるかもしれない。自分もそうなるかもしれない。自分に置き換えたときに、「私が今死んだら、何を着たいだろう?」と考えることって、なかなかないですよね。やっぱり、きれいな格好で私自身は逝きたいと思います。
帰省のお土産は介護者の好物を
——我々世代では、親がその親世代を介護しているケースも多いです。もうすぐ年末ですが、たまにしか帰省できない人が介護者のためにできることは何でしょう?
新田:私にも姉がいるのですが、年に2回ぐらい帰ってきて、いいとこだけ持っていくんですよ(笑)。お土産も母にだけ買ってくる。「違うの! 面倒見てる兄や私に持ってきて!」と思うんです(笑)。
例えばですが、お土産の予算が3万円あるとします。そしたら1万円は親に、残りの2万円は看ている人にあげてほしい。
——確かに、寝たきりの父母に食べ物を贈っても仕方ないかも……。
新田:次はぜひ介護者の方に「毎日ご苦労さま」って好きなものを買って持っていってあげたり、好きなものを食べてとお金を渡してみてください。
そういう心遣いをしてくれたら「兄弟姉妹から、介護を押し付けられている」という不満ではなく「任せられている」と思ってくれるかもしれません。
(聞き手:新田理恵、写真:宇高尚弘)