老後に2000万円不足するという*、いわゆる「老後資金2000万円問題」が話題になって約2年。コロナ禍もあり、老後のお金について不安を抱えている人は少なくないのでは?
天海祐希さんがお金の災難に見舞われる主婦をコミカルに演じた映画『老後の資金がありません!』(前田哲監督)が10月30日に公開されます。ある家族が直面する切実なお金の問題をユーモアを交えて描いたコメディで、経済ジャーナリストの荻原博子(おぎわら・ひろこ)さんが天海さん演じる主婦・篤子に老後資金の大切さを突きつける本人役として出演しています。
老後は何となく不安だけど、具体的にどんな対策をとればいいのか分からない……。そんな老後資金に関する疑問を荻原さんにぶつけてみました。前後編。
*総務省統計局による2017年「家計調査報告」に記載されていた「高齢夫婦無職世帯の家計収支」をもとに、毎月の実収入額と実消費額から生じた不足を、単に30年分計算した数字。
家庭の悩みの7割はお金のこと
——天海さん演じる篤子は会社員の夫の給料と、自分のパート代で家計をやり繰りしています。節約を心がけ、自分にかけるお金といえば、ヨガ教室の月謝5000円程度。そんな篤子に、夫の失業、義父の葬儀代、浪費癖のある義母との同居、娘の派手婚費用など、次々と“お金の災難”が襲いかかります。お金のトラブルのオンパレードですが、デフォルメではなく、実際このような家庭は多いのでしょうか?
荻原博子さん(以下、荻原):もっと大変なご家庭はいっぱいありますよ。今の家庭の悩みの、だいたい7割くらいはお金ですね。逆に言うと、お金の問題をしっかりクリアしておけば、いつまでも仲よく暮らせる家庭が多いのだと思います。
老後を考えるのは50歳からでOK
——荻原さんは映画の中で、夫婦2人では老後資金が2000万でも足りないと警鐘を鳴らします。それを聞いた篤子は慌てるわけですが、「不安だけど具体策は考えたことがない」という人は30代、40代の読者にも多いと思います。まず、何から家計を見直せばいいでしょうか?
荻原:見直すというより、老後のことを考えるのは50歳になってからでいいと思います。老後のことって、すごく先の話じゃないですか。30代、40代で考えなければいけないのは、住宅ローンや教育資金のことです。
35歳くらいでマンションを買って、35年ローンを組むとすると、返済する頃には皆さん70歳になりますよね。70歳になると年金生活になっています。年金で暮らしながら住宅ローンを払っていくなんてムリですよ。そこで破綻してしまう。
だから、住宅を買った人は繰り上げ返済に専念すること。これは映画の中の展開とちょっと違うのですが、とにかくお金ができたら繰り上げ返済して、住宅ローンを減らす。そうして、50歳で返済してしまうのです。
借りた金額により異なりますが、例えば100万円繰り上げ返済すると、平均的に140万円くらい総返済額が減るんです。今100万円を投資して、必ず140万円になる投資先はないですよ。だったら、100万円あれば繰り上げ返済するのが最良の策だと思います。
——まずは住宅ローンを片づけるのですね。
荻原:あとは教育費を貯めておくことです。今は子供1人に1千万円くらいかかります。若い親御さんは子供がかわいいあまり、小さい頃にお金を使ってしまい、高校、大学に行かせる資金を貯めていない人が多いんです。いざ進学させようと思った時には、奨学金を借りたり、その他いろいろ借金をしなければいけない。奨学金が原因で自己破産する親子もたくさんいます。
もし、50歳の時点で子供が社会人になり、住宅ローンの返済が終わっていれば、それまで払っていたローン代と子供にかかっていた教育資金を貯金できます。ローンと教育費で年間100万円くらい払っていたなら、それをそのまま貯金に回せる。さらに子供が手を離れて共働きであれば、その収入も貯金できます。それで年間200万円から300万円貯金できるとして、60歳まで続けたら老後資金2000万円は楽勝です。65歳まで働ければ3000万円も夢ではない。
お金にまつわる三つのハードル
——篤子の家庭は長男が大学生で長女はフリーター。いくら切り詰めても支払いにばかり追われ、「なぜこんなにお金が出ていくの……?」と頭を抱えています。住宅ローンの問題はとてもイマドキの方法で解決されるのですが、まずは払うべきものを払ってしまうことが大事なのですね。
荻原:人生にはお金にまつわる3つのハードルがあります。住宅ローン、教育ローン、老後資金。この3つは順番に越えていかなければいけません。そうすると、最初にするべきことははっきりしていて、まず住宅ローンを全力で返せばそれでいいんです。
賃貸派はとにかく現金を貯める
——私の場合、今も、おそらくこれからもずっと独身。住まいは賃貸マンションです。
荻原:賃貸の人は現金でひたすら貯めておけばいいですよ。今はデフレで貨幣の価値が高いので、全力で貯めておけば、あとは何にでもなります。住宅を購入した人は全力でローンを減らすこと。まずはここから始めましょう。
——独身の場合、資産としてマンションの購入を考える人も多いと思うのですが……。
荻原:買わないほうがいいですよ。将来老人ホームに入る資金も必要ですから、ひたすら現金で貯めておきましょう。
マンションを購入しても、賃貸でも、最終的にトータルは変わらないんです。マンションは30年、40年たつと資産としての価値がなくなりますから。建て替えもできないし、どこかに移り住むということもできない。最終的に賃貸のほうがローンより身軽かもしれません。
ローンと賃貸、それぞれ月に10万円払うとします。マイホームの場合は、その他にも管理費や修繕積立金、固定資産税などがかかってきます。賃貸の場合、多少の管理費は必要かもしれないけれど、それらの必要がありません。しかもボーナス払い分も貯金できます。
それに、せっかく買っても隣人トラブルなどで引っ越すという事態もあり得ますよね。そうすると、3000万円で買った物件も1500万円くらいで売ることになり、借金だけが残る。
これから不動産価格はそんなに高くならないです。東京都内の空室率は1割くらいですが、対策を講じなければ2040年には約4割が空室という予想まであるくらい。空室が山のようにあれば、物件価格は上がりません。マイホームを買ってもいいけれど、資産にはならないので、無理して買う必要はないと思います。
■映画情報
『老後の資金がありません!』
公開日:10月30日(土)全国公開
(C)2021映画「老後の資金がありません!」製作委員会
出演者:天海祐希/松重豊/新川優愛、瀬戸利樹/草笛光子
(聞き手:新田理恵)