「まさかの糖尿病予備群…健診で指摘されたら」と題し、糖尿病専門医・臨床内科専門医で、『糖尿病は自分で治す!』(集英社)など多くの著書がある福田正博医師に連載にてお話しを聞いています。
前々回(第14回)から、糖尿病の三大合併症の1つ、「糖尿病性腎症」について尋ねています。
「第14回 腎臓は毎日200Lの血液をろ過する…糖尿病が原因で障害も」では腎臓の働きについて、「第15回 糖尿病の三大合併症の1つ…腎症は怖い病気」では糖尿病性腎症の検査法や早期の状態について紹介しました。今回は、糖尿病性腎症のつらい状態について詳しく伺います。
4期は腎不全、5期は人工透析が必要に
——前回(第15回)、糖尿病性腎症は1期~5期に分類され、1期は異常なしの状態、2期は「早期糖尿病性腎症」で「微量アルブミン尿」(アルブミンとは血液中のタンパク質の主成分)が検出される状態だということでした。では、3~5期とはどういう状態でしょうか。
福田医師:3期は病状がさらに進行し、タンパク尿(第15回参照)が出現した状態です。また、4期は老廃物が溜まってきた腎不全期、5期はさらに進行して「人工透析療法」が必要になる状態です。
腎臓が老廃物を濾(こ)す機能の評価には、血液検査にて、腎臓の糸球体(しきゅうたい。第14回参照)で1分間にろ過された血液の量を示す「GFR(糸球体ろ過量)」という数値を用います。
血液中には、主に筋肉由来の老廃物の「クレアチニン」という物質が流れています。通常は尿中に排泄されていますが、腎臓のろ過機能が悪くなってくるとこれが血液中に溜まり、血液検査で判明する数値が上昇します。最近はこのクレアチニンの数値と、さらに、年齢、性別から簡便な計算式で求める「eGFR(推算糸球体ろ過量)」の数値による評価を重要視しています。
eGFRは健康な場合はおおむね100mL/分前後ですが、腎症の進行とともに低下していきます。60を下回ると腎機能が低下していると評価し、タンパク尿が出ていなくても腎症の3期と見なします。 また30を下回ると4期の腎不全期となります。eGFRが15未満は5期となり、人工透析療法が必要になります。
——タンパク尿が出ていなくても、eGFRという数字で診断するということですね。
福田医師:最近は、タンパク尿があまり検出されないままにeGFRが低下する患者さんが増加しているからです。とくに、高血圧や肥満の症状もある患者さんや高齢者ではその傾向が強くなり、注意が必要です。
また腎機能は、年齢とともにゆっくりと少しずつですが低下します。実は1つの腎臓に100万個ある糸球体も、1時間に1個くらいはつぶれています。誰しも、腎臓の糸球体は1日に24個ずつ減っているわけです。健康でも加齢によって1年間で8,000~1万個は減り、eGFRは年間1〜2つずつ低下することが知られています。つまり、この減り方をいかにゆっくりさせるかが重要です。
人工透析療法を受ける原因の1位は「糖尿病性腎症」
——人工透析療法は、腎臓の病気の治療法としてよく耳にします。
福田医師:人工透析療法とは、人工的に血液を体の外に出して、透析器で血液をろ過して余分な水分や老廃物を取り除いてから、きれいな血液を体に戻す治療です。
1998年以降、日本では、人工透析療法を受ける原因の1位が糖尿病性腎症であり、全体の約43%にのぼる(2014年)という統計があります。しかもこの場合、5年生存率は50%という厳しい現実もあります。糖尿病の増加が著しい日本では、毎年1.3万人以上の人がこの療法を開始しています。
糖尿病が原因ではない慢性腎炎などでは、人工透析療法を受けていても精力的な活動が可能なケースは多くあります。しかし、糖尿病性腎症の場合は経過は良好とは言えません。その理由は、糖尿病で人工透析療法が必要となると、全身の血管に動脈硬化が進行しているため、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞などを起こしやすい状態だからです。糖尿病性腎症は、進行すると命に関わる病気です。
聞き手によるまとめ
糖尿病が怖い理由のひとつに、糖尿病性腎症を合併する場合があること、進行すると人工透析療法の必要性が出てくること、しかも人工透析療法を受ける原因の1位は糖尿病性腎症であるということです。こうした情報を知っておき、糖尿病予備群と指摘されたら、必ず医療機関を受診して積極的に詳しい検査をしたいものです。
次回・第17回以降は、糖尿病の新しい合併症と言われるうつ病、認知症、がん、歯周病について順に紹介していきます。
■これまでの連載を読む
【第1回】私がまさかの糖尿病? 血液検査のどこを見ればいい?
【第2回】肥満とメタボの計算式で体型を確認! 脱・糖尿病予備群のためにできること
【第3回】3年以内に糖尿病になる…? リスクをセルフチェックする方法
【第4回】おなかのぜい肉は内臓脂肪? 皮下脂肪? 体に悪いのはどっち?
【第5回】脂肪が気になる体型はリンゴ型?洋ナシ型? メタボの診断基準は?
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【第7回】内臓脂肪を減らしたい! 腹やせウォーキング法
【第8回】「かるゆるスクワット」で内臓脂肪を減らし、腹やせを実現!
【第9回】内臓脂肪も減らせる! 家事・生活動作の「ながら筋トレ」の消費カロリーは?
【第10回】基礎代謝が下がるいくつもの理由…上げるにはどうする?
【第11回】まさかの糖尿病予備群と言われた…何が怖いかを専門医に聞く
【第12回】糖尿病の三大合併症のひとつ…神経障害が怖い理由
【第13回】失明に至ることも…糖尿病性網膜症が怖い理由
【第14回】腎臓は毎日200Lの血液をろ過する…糖尿病が原因で障害も
【第15回】糖尿病の三大合併症の1つ…腎症は怖い病気
(構成・取材・文 藤井 空 / ユンブル)