上野千鶴子×田房永子トークショー・前編

“18歳のおっさん”を再生産しないために必要なこと【上野千鶴子×田房永子】

“18歳のおっさん”を再生産しないために必要なこと【上野千鶴子×田房永子】

母からの過干渉に苦しんだ自身の経験をつづったコミックエッセイ『母がしんどい」で知られるマンガ家の田房永子(たぶさ・えいこ)さんと社会学者の上野千鶴子(うえの・ちづこ)さんと母娘問題やセクハラ、結婚、恋愛、子育てなどについて7時間ぶっ続けで語り合った共著『上野先生、フェミニズムについてゼロから教えてください!』(大和書房)の出版記念イベントが1月16日、東京都内で開催されました。

「フェミニズムとは何なのか?」をテーマに熱いトークが展開された様子を一部編集し、前後編にわたってお届けします。

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上野千鶴子が東大の祝辞で気付いたこと

田房永子さん(以下、田房):まずは、なぜこの本を作ることになったかというと、上野先生の東大入学式の祝辞*が衝撃だったんです。世の中がザワザワと……。

私の周りでも、「(上野さんの)名前は知ってるけれど、どんな考えの人なのか知らなかった。自分たちの話をしてるんだ」という反響がありました。フェミニズム自体が、普通に暮らしている私たち女性のことについて話しているということが、全然分かっていませんでしたね。アカデミックな事柄だと思っていました。

*2019年4月12日に行われた東京大学入学式での上野千鶴子名誉教授が述べた祝辞

上野千鶴子さん(以下、上野):それを聞くと、「伝わらなくてごめんなさい」という気持ちになりますね。私があのスピーチで気を付けたことは、予備知識が何もない18歳の子どもに伝わる日本語で話そうと思ったこと。今回の本も、フェミニズムについて、田房さんに通訳してもらったという感じです。

田房:やっぱり、祝辞がセンセーショナルだったじゃないですか。テレビのワイドショーでも、パネルにフェミニズムやフェミニストという言葉が印字されていることにビックリして。地上波に映るということに衝撃を受けました。

ただ、世の中にフェミニズムという言葉は流通しましたが、「フェミニズムって何だろう?」という疑問にメディアは答えてくれなかった。そこで、この本を作りました。

上野:そうそう。この本だって、タイトルがすごくベタじゃない? 10年前や20年前に、「フェミニズム」がタイトルに入った本を出版しようとしたら、編集者から「売れないからやめてくれ」と言われたものです(笑)。

この本なら、小学校や中学校の図書館に置いても読んでもらえると思う。田房さんの言葉と、マンガという伝達ツールで、フェミニズムをちゃんと通訳してくださったことがとてもうれしいです。

田房:こちらこそありがたいです。

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“おっさん”の再生産 5歳や18歳のおっさんもいる

上野:ちなみに、スピーチが衝撃的だったっていうけど、どこが衝撃的だったの? 私にとっては、昔から言っている当たり前のことを繰り返しただけなんだけど……。

田房:私や周りの人たちがTwitterとかに書いたら、めちゃくちゃ批判されるようなことを、れっきとした東大という場所で上野さんがお話されていて、それでやっと世間がしっかり聞いてくれるんだなということに、痛快でもあり、複雑でもありました。

上野:東大ブランドのお墨付きを得たからなのね。でも、あんな当たり前の発言に、Twitterで反発がくるんですね。確かに、新入生の18歳の男子が、「こんなに東大男子をディスっていいのか。ちっとも祝われている気がしない」とツイートしていました。そこで私は、「おっさんって年齢じゃないんだな。18歳からちゃんと再生産されているな」とつくづく思いましたよ。

田房:5歳くらいからいますからね。「君たち、僕のお嫁さんになりなさい」「女の子は一人で赤ちゃんは産めないから、僕と結婚しなさい」って言う子がいるって話を聞いたことがあります……。

上野:子どもは親の背中を見て育つから、親から学ぶんですね。娘は母親、息子は父親に同一化するから、父親のやることを学んで、5歳の“おっさん”になるんじゃないかな。両親の関係が変わらない限り、息子もジェンダーを再生産するでしょう。

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次のテーマは「息子をどう育てるか」

田房:今、息子が2歳なんですが、息子をどう育てるかということが大きなテーマですね。子どもは親の背中を見て育つから、夫がおっさんのままだと、息子にフェミニズムを理解させるのは至難の業だと思います。

上野:ときどき、女性で「もう夫は諦めたからいいんです。だから、私は息子をちゃんと育てようと頑張っています」という人がいるでしょう? 「そんなの無理よ。自分の夫を変えられなくて、息子をちゃんと育てられるわけがない」って言うんだけど。

田房:そうですよね。「『男の子の育て方』を真剣に考えていたら夫とのセックスが週3回になりました」(大和書房)という本を書いたんですけど、息子の育て方を考えているうちに、夫と仲良くなったということは、私の中で辻褄(つじつま)が合っていて。「タイトルが刺激的すぎて、買いづらい」ってよく言われますが(笑)。

上野:タイトルを見たとき一番気になったのは、「それってセックスの回数が増えたの? 減ったの?」ってことだった(笑)。

田房さんは、夫に気持ちを伝え続けて戦って、夫を変えたのよね。夫も偉かったのは、逃げ隠れしなかったところ。日本の男性って、すぐ逃げ隠れするのよ。女性がワーッて言っても、石像になって台風が通り過ぎるのを待つだけ。耳にピタッとふたをしているから、妻の言うことが届いていないのよね。妻の不満や愚痴はやり過ごせばいいと思ってるの。

その夫を、コーナー際に追い詰めて逃がさないっていうのが女性の力技なんだけど、「なぜ、それを女性たちはやらないのだろう?」と不思議でしょうがない。「どうせ変わらないから、もういいんです。ギブアップしました」という女性が、若い世代にもいます。

夫とコミュニケーションをしないで、他の誰とコミュニケーションをするのよ。よそでガス抜きして、なぜ直接夫に迫らないのか、まったく理解できない。

田房:どうやっても伝わらない夫に絶望してるのかもしれないですね。

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夫の愚痴をSNSで発散する理由は?

田房:最近は、SNSで発散できるし、Twitterの裏アカで「#旦那死ね」というハッシュタグが流行っているとワイドショーでやってました。そこで憂さ晴らしができちゃうのかも。

例えば、夫が一口分だけ残して冷蔵庫に戻した麦茶の写真と一緒に、「人に麦茶作らせようとするな。このくらい自分で飲んで自分で作れ!」ってツイートを「#旦那死ね」のハッシュタグ付きで投稿すると、みんなが共感してバズったりするんですね。

上野:夫に言いたいことをSNSで発散しちゃうわけ? SNSで「いいね!」をもらっても、夫婦関係はちっとも変わらないでしょ。家庭を営む上での基本的な生活習慣を、子どもにはちゃんと教えるのに、なんで夫に教えられないんだろう?

田房:同じ文面と写真をハッシュタグなしで本人にLINEで送ればいいと私も思っちゃうんですが、そういうことではないみたいです。別のツールで発表することで、何万人という人が賛同してくれる高揚感があるのかな。単純に、夫と2人で話すより気持ちいいっていう、快楽的なものが発生しているんじゃないかな。

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「結婚ってこんなもんか」の再生産

上野:そんなにコミュニケーションを取れない相手と、セックスして子どもをつくっているなんて謎。そういう両親を見ている子どもが、「夫婦ってこんなもんか。結婚ってこんなもんか」って育ってしまうと、そういう男女関係が世代的に再生産されてしまう。

女性たちは、「いちいち文句を言って、夫の不快な顔を見るより、私がサッと動いたほうが早いから」ってよく言うけど、それだと何も変わらない。その点、田房さんは、家庭の中で夫に伝え続けて戦っているところがすごいですよね。

田房:夫に一から訴えて一つ一つ変わってもらうって、根気のいる過酷な作業だから、すでに家事育児を抱えている女性たちは、「訴える時間も気力ももったいない」っていう気持ちになるのかも。

上野:人間関係って、もともと面倒くさいもの。時間がもったいないような相手となんで付き合うの? 時間がもったいない相手と、なんであんなに面倒くさいセックスをするの? 本当に理解できない。

田房:私個人としては、「確かにそうですね」としか言いようがないです(笑)。

上野:私たち世代にも「あるある」感満載の思い当たる男女関係が、もっと下の世代にも再生産されていくのかと思うと、すごくむなしく情けない思いがする。歴史というものは、こんなにも変わらないものなのかしら。

でも、私たちの世代と田房さんの世代では確実に変わったところもあるし、今度は田房さんたちが育てる次の世代がどうなるのか、期待したいですね。

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【後編】母からの期待に応えてきたけれど…“ガマンしない娘”が増えてきた

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