乳がん日記~おっぱい作り直しの巻⑤

おっぱい作り直しの手術から復帰した女社長、ジムでかけられた思いがけない言葉

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「女社長の乳がん日記」
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女社長、運動が解禁になる

2019年1月16日「三カ月検診」

術後やっと三カ月。今日の診察でコルセット生活からやっと放免されることとなった。

足のむくみ具合なども診てもらって、

「できれば下半身コルセットのみ、今後も装着が望ましい」

と指導されたが、日常的にマストではないとのこと。今後も着けるか着けないかは私の美意識と我慢強さを問われるところだ。どうしよっかなー。

それにしても長かった。

この三カ月間、クリスマスも忘年会もお正月も、マリー=アントワネットばりのコルセットで過ごしてきた私は、今、解放感でいっぱいだ。

関係ないが「マリー=アントワネット」と言えば、ウエストが細ければ細いほど美しいと言われていた当時、下のろっ骨2本を折って、それをコルセットで固定していたという説を聞いたことがある。当時の医療技術でそんなアクロバティックなことをやっていたとはさすがマリー。本当のところはどうか分からないが、「欲深い女」の代名詞としてふさわしいエピソードである。

そして本日、もう一つ解禁になったことがある。それは、「運動」だ。

乳がんの外科手術から2年以上続けてきた週一(半日)のジムとウォーキングを、この三カ月間禁止されていたのだった。

コルセットをしていなきゃならないから、という理由もあったが、一番の禁止理由としては、私の未熟なニューおっぱい、揺らすことによって折角(せっかく)入れたMY脂肪の定着率が悪くなるかららしい。

ただ正直なところ、運動解禁となって「やったー!」という気持ちは湧き起こらない。

2年以上続けてきたからと言って私の運動嫌いは、昔同様変わっていないからである。

確かに、汗をかく気持ち良さを知ったり、基礎体温が上がったり、体重キープができていたりしてたので、運動はこの先も続けていくつもりだ。ただ、それはあくまでも治療のために病院に行く、毎日薬を飲むのと同じ、所謂(いわゆる)「乳がんになった者の義務感」に近い。

それと、別にお酒を飲むことを止められたりしてはいないのだが、周囲をいろいろ巻き込んで乳がんの手術を受けた身としては、「運動すること」をビール飲む免罪符にしている感がある。

そう、できる限り美味しくいただくため、要はビールを飲むために私は、毎回「よっこらしょ」と重い腰を上げてジムに通ってきたのかもしれない(良い子のがん患者は真似しないでください)。

女社長、袖振り合うも…

2019年1月17日

今日は予定通り、三カ月ぶりのスポーツジムへ。相変わらず高齢のメンバーが汗を流しているのに安心する。

こんなに間が空いたから、明日、もしくは明後日は確実に重い筋肉痛になるだろうと思いながらマシンをこなしていると、

「お久しぶりですね! お仕事お忙しかったんですか?」

と、よく見かけるお爺さんに話し掛けられた。

私は通い始めてからずっと、このジム内では誰とも人間関係をつくらないように徹底していた。ただでさえ運動そのものも、それに付随する化粧落としたりシャワー浴びたり、長い髪をその都度乾かしたりすることも面倒なのに、そこに「社交」が加わったら絶対に通えなくなる自信が私にはあったからだった。

私は仕事上、多い時には月に100人以上、新規の人と名刺交換をする。そこから発展するご縁もあり、人のご紹介もあり、今までのプライベートのご縁つながりも数えると、新たな場で新たな人間関係を紡ぐのは完全にキャパオーバーになるからだ。

なので毎回「忍びの者レベル」に気配を消して黙々と運動していたわけで、顔だけは良く知っているお爺さんの突然の声掛けに目を丸くする。

同時にお爺さんの隣の50代とおぼしき女性までも、

「そうそう、最近見なかったから心配してたのよ~」

と、言うではないか。

一瞬面食らった私は、

「ああ、胸の手術で。いや、豊胸っていうか、豊胸なんですけど、そもそも乳がんで左胸を摘出しまして……」

と、訳の分からない、言わなくてもいいことまでべらべらしゃべってしまっていた。

そして、サウナでも同じように、顔見知りではあったけれど一度も話していなかった年上女性たちに、

「心配してた」

と、言われて私は、同じように驚いて返答するのだった。

どんなに自分が割り切っていようと、入れ代わり立ち代わりのすれ違う「場」であろうと、2年以上顔を合わせていればその他者を認識し、友人・知人じゃなくても人は人を気にかけるものなのだなぁと、恥ずかしながらアラフィフになって知る。

煩(わずら)わしいことだと思っていたはずなのに、なぜか温かな気持ちになったのはサウナ内の出来事だからというわけではないだろう。勝手に無駄だと認識しているものが人よりたくさんある気がする私だが、これからはジム内でも自然に袖振り合う人間関係を模索してゆきたいと思う。

そして、本日のメインイベントは運動後の体重計だった。

手術前は朝と晩に乗っていた体重計。運動もできず、日常生活の運動量も減ったこの三カ月間、私は体重計の存在を視界に入れないようにしていた。

要は、確実に太ってるから乗りたくないと現実逃避をしてきたのだ。

ホルモン治療で太り、食べないダイエットを医者に止められ、嫌いな運動に黙々と着手してきた2年が多分チャラになってる数字が表示されるのを、薄目を開けて確認するとそこには手術前と変わらない体重が!!!

どういうことだ? 私は混乱した。

確かに、コルセットしてたから暴飲暴食はできなかったし、コルセットがきつかったので多少のカロリー消費はあったかも。
でも、だ。

毎回半日びっちり運動してるからキープできてると思い込んでたのに、もしかして運動いらなくね? と、私の中の悪魔と怠け心がささやく。だって、3カ月休んでいて同じ体重なんだから、「嫌いな運動や面倒なジム通いは必要ない!」という証拠ではあるまいか?

私は家に帰り、この発見をボディトレーナーの夫に滔々(とうとう)とプレゼンした。運動しない人生を取り戻せるかもという禍々(まがまが)しい期待を胸に。

すると、

「あ、それ、筋肉量が落ちただけだよ、少しついてきた筋肉が休んで脂肪にかわっただけ」

と、あっさり返されたのだった。筋肉って脂肪より重いのね……。

やはり私の「運動する人生」は、これからも続いてしまいそうである。

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女社長の乳がん日記

「がん宣告」を受けた女社長・川崎貴子(44)が、「乳がんプロジェクト」と自ら命名して己を奮い立たせ、がん宣告から手術・治療までの日々をリアルタイムにつづっていた日記を初公開します。

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