未来はいつだって不確かなものだけど、自分の人生は自分で舵を取りたい——。
そう願う女性たちに向けて、歌手で俳優・演出家の夏木マリさんが6月16日、「渋谷ヒカリエ」(東京都渋谷区)で開催されたイベント「ELLE WOMEN in SOCIETY(エル・ウーマン・イン・ソサエティ) 2018」に登場し、「映画界で女性が働くということ」をテーマにトークセッションが行われました。
MeTooと言っているだけでは解決しない
対談の相手を務めたのは、ELLE編集長の坂井佳奈子さん。現在公開中の映画『Vision』(河瀬直美監督)の撮影の感想や、男女の監督の仕事ぶりに何か違いがあるかなどが夏木さんの視点で語られました。
中盤では「#MeToo」問題へ。坂井編集長は、82人の女性がレッドカーペットに集結した時のことを出し「欧米での報じられ方と比較すると、日本は積極的ではない感じがした。世の中でそういうことが起きていると知るだけでも変わると思う」と述べました。
それを受けて夏木さんは、変化するには大事なことが2つあると言います。
「これまで映画界でセクハラ・パワハラ問題は(声をあげようとも思わないほど)当たり前に行われていました。ソーシャルネットワークの時代になり、社会問題として言い出せるようになったのはいいことだと思います。けれど、『MeToo』と言っても、そこから行動しないと解決しません。
もう一点は、これは女性の問題だと思いがちですが、男性の意識を変える運動だと私は思います。だからまず、男性の意識を変えていただく。そして女性たちが動く。1ミリずつになるかもしれませんが、将来に向かっていい流れになることを願います」
おばあちゃん役を目指したくて
夏木さんは、「MeToo運動によってフェミニズムの概念が変わってきたと感じる」と言い、自身が仕事を始めた45年前より「男女平等が当たり前になっている」と言いました。それを受けて、坂井編集長は「夏木さんが“女優”と名乗らないのはなぜか」と質問します。
「私のイメージですが、女優という言葉は、きらびやかでメークが厚い感じがするんですよね。“女”が強調されるみたいで。俳優でいいのではないかと思ったきっかけは、おばあちゃん役を目指し始めたこと。『千と千尋の神隠し』の湯婆婆や、『ピンポン』のオババ、『Vision』では1000年生きる女性……ってもうおばあちゃんも超えちゃっていますけれど(笑)。
とにかくおばあちゃん役を演じたいという自分の気持ちがあって、メークやヘアスタイルに構っている段階ではないな、その人の生きる時間を演じたいなと思ったんです。その時間に、男だから、女だからということは、あまり関係ないと思えます。それで、俳優と名乗りたいなと思うようになりました」
できることではなく、できないことを探してきた
さらに、夏木さんは表現者としての自分について次のように話しました。
「(歌、演技、パフォーマンスなど)いろんなアプローチをしてきました。その中で、私はいつも、自分ができることではなくて、できないことを探しているような気がします。どの仕事も結果的には自分の生き様が反映されるものです。
私は、アプローチを変えながら、自分探しをしているようなところがあります。でも、死ぬまで答えは出ないと思います。大変な仕事を始めちゃったなぁと気づいたのは40年目くらい(笑)。80歳まで精進しようって思っていたんですけど、人生100年時代ですって? あと20年伸びちゃった。もうちょっと頑張らないとなと思う今日この頃です」
夏木さんが『印象派』の活動を始めたのは40歳、坂井編集長は「働く女性の間で、40代でキャリアチェンジ、ワークシフトをする人が増えている」と話します。夏木さんは当時を振り返って「失敗はいっぱいしていい」と話し始めます。
「今の私は、印象派の活動で教えられたことがベースになっていると思います。それ以前はプレパレーション(準備・予習)という感じ。失敗しても、そこから覚えられることがあります。若い時はいっぱい失敗すればいいんです。私自身はスロースターターなところがあるので、ちょっと時代に乗り遅れたなと思うときもありますが、全然大丈夫ですよ。(人生は)100年に伸びましたから、40歳くらいで自分らしくなったらいいと思います」
「Women in Society(ウーマン・イン・ソサエティ) 2018」はファッションメディア「ELLE(エル)」(ハースト婦人画報社)が主催。今年で5回目を迎えるイベント。今年は「私の未来設計図」をテーマに、スペシャルセミナーやワークショップを開催。
ゲストスピーカーとして、夏木マリさんのほか、テニスプレーヤーの伊達公子さん、建築家の永山祐子さん、芸術家のエマ・キャサリン・ヘプバーン・ファーラーさん、フードエッセイストの平野紗季子さん、モデルのSHIHOさんらが登壇しました。
(ウートピ編集部:安次富陽子)