「仕事もプライベートも充実させなくちゃ」「もっとスキルアップしなきゃ」なんて、日々全力で走り続けて、ちょっと疲れていませんか?
そんな女性たちに対して「誰かに拾ってもらいながら、ヌルっと生き抜いてもいい」と話すのは、2009年より単身でアフリカに渡り、アフリカ人の魅力を伝える写真を撮り続けてきたフォトグラファーのヨシダナギさん。
このたび『ヨシダナギの拾われる力』(CCCメディアハウス)を上梓したナギさんに、5回にわたって話を聞きました。最終回となる今回は、ナギさんならではの「後悔せずに生き抜く力」についてお聞きします。
【第1回】思わず応援したくなる。ヨシダ流拾われる力
【第2回】騙そうとする人は顔を見ればわかる。選択する力
【第3回】ヨシダナギが語る期待しない生き方
【第4回】アフリカにもヨウジヤマモトを着ていく
主演以外のオファーは受けない
——著書の中に、「かすり傷より、爆死したい」という章がありますよね。「チョイ役をやって“下手クソ”と囁かれるくらいなら、主演を張って“この大根が!”とみじん切りにされたほうがずっといい」って。潔さに、思わず声を上げて笑ってしまいました。
ヨシダナギさん(以下、ナギ):そうです。何かするなら、中途半端に手を出すよりも、二度とはい上がれないくらい打ちのめされて諦めたいですね。中途半端に手を出して、同じ失敗を何度も繰り返すのがイヤなんですよ。
恋愛でも、同じようなオトコに引っかかって失恋するのはイヤです。なので「このオトコに手を出すと、痛い目見るぞ」というくらいの人物と付き合って、ボロボロになるほうがいい。次は絶対に手を出さないので(笑)。
——(笑)。仕事でも言えるかもしれませんね。働く女性は、「あなたリーダーやってみない?」と言われると、「いやいや、私なんて……」と謙遜したり、辞退しちゃったりすることもあると思うんですよ。やってきたチャンスに対して腰が引けてしまう人がすごく多い。そういう人に「爆死する覚悟で」と言ってあげたいなと思いました。
ナギ:本にも書きましたが、爆死なら、それ以上傷つく心の隙も体力も失います。そうすると、諦めがつきますよね。かすり傷で済んでしまうと、「ああすれば良かった」「次はこうしたらうまくいくかも」と、“あと一回だけ”をずるずる繰り返すことになる気がして……。
失恋をしたときも、1年とか3年とか、ずっと未練を引きずっている人っていますよね。「体力あるなぁ」と、ある意味感心します。もう終わったものを追いかける体力は私にはないので、すごいなと思いますが、「その時間、もったいなくない?」と感じてしまうんですよ。
小さなゴールをたくさん決める
——非常にコスパがいい (笑)。著書の中にも、「1から10のうち、2〜9をスッ飛ばしている」とマネージャーのキミノさんから言われるというエピソードが出てきますね。
ナギ:私は、例えば貯金にしても、「何年計画でこの金額を貯める」というのができないんですよ。長距離が苦手なタイプで、すぐにでも結果を出したいんです。大きくて全容の見えない目標や、到達までの道のりが長い目標は、時間がかかりすぎて耐えられない。
だから常に、できるだけ近くにゴールを設けます。小さな目標をポコポコ作って、達成できたら自分を褒めて甘やかすんです。
——それなのに、効率は気にするというのが面白いところです。
ナギ:人が効率悪いことをしているのが、すごく嫌いなんです。効率よくやるのは、基本的に他の人の仕事だと思っているので(笑)。……と言うと、自分は怠けて人に仕事を押し付けているようですが、私もやるべきことはやらなきゃいけないと心得ています。本番を頑張らないと、助けてくれる人がいなくなってしまいますから。
例えば写真展を開催するときも、自分の出番がくるまでは、キミノや周りのスタッフに動いてもらいます。それを第三者的に見て「こうしたらいいんじゃない?」と言って調整していくのが、最短距離で物事が進む方法かなと思うんですよね。
目標を高く設定する必要はない
——ナギさんは今もそうですが、テレビやイベントに出演するときも、いつも笑っていらっしゃいますよね。ご機嫌でいる秘訣はありますか?
ナギ:私は、自分の苦手なことに向き合う時間が、本当に耐えられないんですよ。「それでも歯を食いしばってやるべき」という体育会系の思考が、かけらもないんです。そういった、苦痛を感じるようなことがなければ、基本的に楽しいし幸せに過ごすことができます。
言い方を変えれば、ほかの人よりも、楽しいとか幸せと感じるハードルが低いんですよ。例えば、スマホを片手にずっとゲームをして夕方になっても「今日はムダな時間をいっぱい過ごしてやった」と、ものすごく満ち足りてしまうんです。
——私もそうですが、幸せを手に入れるためには、何か達成しなきゃいけないと考えている女性は多いと思います。そのために、あくせく働いたり、スケジュール帳を予定で一杯にしてみたり……。ナギさんの余裕は、ムダな時間を楽しめるところからきているのかもしれませんね。
ナギ:私の場合は「これを買ったから幸せ」とか「こういう地位までいけたから幸せ」とか、そういう価値観が一切ないんです。向上心が高くて、常にギアをトップに入れて走れる人ならいいですが、そうでなければ、目標を高く設定して動く必要はないと思います。
何か目標を達成するのは嬉しいことではありますが、家の中でスマホゲームをして、ムダな時間を消費できることも幸せです。身にならない時間を楽しめるのが、何よりも贅沢だと思っているので、その時間があれば、いつでも機嫌よくいられる自信があります。
(取材・文:東谷好依、写真:面川雄大)