部屋の掃除をしなければ、たまっている録画番組を観なければなどとさぼり、あっという間に運動シーズンが過ぎていきます。
ですが、そんな我々にも朗報です。アメリカの糖尿病に関する医学的研究で、「立ったり座ったりする。部屋の掃除をする。テレビを立って観る」など、日常の動作でも、続ければ運動効果が得られるということがわかっているというのです。
これを「NEAT(ニート)」と呼び、いまメタボリック・シンドロームや糖尿病の改善などに推しょうされています。
いったいどういうことなのか、糖尿病専門医で臨床内科専門医でもある福田正博医師に詳しく聞いてみました
「ニート」とは日常の動作で生じる熱量
——「NEAT(ニート)」とは、どういう意味で、何のことなのでしょうか。
福田医師:「ニート」とは、「運動ではない日常生活で発生する熱量(Nonexercise Activity Themogenesis)」の頭文字をとった造語です。運動とは言わない、家事やオフィスワーク、立ったり座ったりといった動作など、誰でも行っている無意識の活動で消費するカロリーの量を指します。
「運動ではなくても、こうした活動の回数を増やす、また動きかたを大きくすると消費するカロリーが積み重なって、高めることができる。だから寝ころんだままや座ったまま過ごす時間を減らして動こう」という考え方です。
——日常生活での動作の量が、医学的に推しょうされるほどになるとは驚きます。
福田医師:「肥満の人は、やせている人よりも1日平均で約2.5時間座っている時間が長く、歩く時間が少ない」という報告があります。
立っている時間を1日に2.5時間増やすと、約350キロカロリーのエネルギーを余分に消費した計算になり、これはショートケーキ1個分になります。1週間では2,450キロカロリー、1カ月では1万500キロカロリーにも膨らみます。積もると、大変な差になるわけです。
——日常での動作は無意識であるだけに、動くことをすぐに忘れそうです。具体的にどうすればいいのでしょうか。
福田医師:たとえば、テレビを観る場合でも、座ったままや寝ころんだままの時間が長い場合と、立ったり座ったりしながらの場合では、消費するカロリーの量は違います。
「週末にまとめて部屋の掃除をするか、毎日するか」、「買い物に車で行くか、歩いて出かけるか」では、使うカロリーの量にかなりの違いが生じます。
「立ったり座ったり」という動作では、意識をして姿勢を整えればスクワットをしているとも言えて、筋肉を鍛えることにつながります。ちょっと意識を高めれば、半年後には筋肉が引き締まっている可能性もあるでしょう。そうした経験は、やがて習慣として身につくと考えられます。
まずは、いつもの動作に「ニート」を少しでも意識することから始めてください。忘れないように、付箋に「ニート」と大きく書いて、テレビや机など目につく場所に貼っておくのもよいでしょう。
自分の「ニート」を見直し、意識を高めて実践する
——自分のニートがどの程度なのか、不足していないかが気になります。
福田医師:次のチェックポイントを挙げてみましょう。毎日の活動について、確認してみてください。
□職場や家で、座ったままの時間が長いと感じる
□歩く距離が短く、1日の歩数は3,000歩もない
□階段を使っていない
□デスクワークやテレビを観るとき、必要なものは動かなくても手に取れるようにしている
□ロボット掃除機や全自動洗濯乾燥機などを愛用している
□食後、片づけは後回しにして、座ったまま、あるいは寝ころんだまま1時間ほど過ごす
□テレビを観ているときは座りっぱなしか寝ころびっぱなし
このうち、1つでもあてはまったら、「ニート」は少ないと言えます。家で「ニート」を増やすには、次の方法を心がけるようにしましょう。
・リモコンを手元に置かず、常に離れたところに置き場所をつくり、チャンネルを変える、ボリュームを変えるなどのたびに立ち上がって取りにいく
・家ではスマホやタブレットの置き場所を決めておき、操作したいときには立ち上がって取りにいく
・スマホやタブレットの操作は、座らずに立ったままで行う
・家事をするなど、いままでの生活よりも「立ったまま」で過ごす時間を増やす
・テレビやDVDなどは、「立って足踏み(その場ウォーキング)」や「つま先立ち」、「かかと落とし」、「足首回し」、「軽いスクワット」、「ストレッチ」などをしながら観る時間を増やす
・お皿洗いや歯磨きは、「立って足踏み(その場ウォーキング)」や「つま先立ち」をしながら行う
・掃除の頻度を増やす
・床や窓はモップを使わずに手で掃除をする
このほかにも、自分の生活に合わせて工夫をしてみましょう。
——会社でデスクワークの場合は、何か良い方法はありますか。
福田医師:今、欧米では「立ったまま仕事をするほうが、業務の効率がアップして健康にもよい」という考え方があり、立ったまま作業する机(スタンディング・デスク)が多くの企業で取り入れられています。
日本でも導入する企業が増えているようで、勤務先にあれば積極的にスタンディング・デスクを利用しましょう。導入していないなら、ひとりで立って仕事をするのは難しいと思いますので、立ったり座ったりする回数を増やすとよいでしょう。
また、デスクワーク中に、伸びをしたり腰から上をひねったりなどのストレッチを、また、かかとの上下や、ひざから下を床と平行になるように持ち上げる、足首回しなどの動作をするのも有用です。
ランチタイムはニートを増やすチャンスと考えてください。デスクで食事をせずに、離れた場所にある店や公園で食事をするようにしましょう。
通勤時には、ひと駅かふた駅は手前で降りて歩く、駅やビルの階段や、道路では歩道橋を使う習慣を身につけましょう。
日常生活の過ごし方を考えた場合、これほど効率的なメタボ予防法はないと考えられます。健康診断で黄色信号だった人はとくに、すぐにでも始めてください。
——ありがとうございました。日常的な動作はできるだけ立って行うこと、積もれば大きなカロリー消費になって医学的にメタボの予防になることがわかっているということです。やる気が出てきました。これからは毎日、できるだけ動き回るようにします。
(取材・文 堀田康子・藤井空/ユンブル)