「辞める。」 episode7

アイドルからの転身 彼女が「ぽっちゃり女子の気持ちがわかる」スタイリストになるまで

アイドルからの転身 彼女が「ぽっちゃり女子の気持ちがわかる」スタイリストになるまで

「辞める。」
の連載一覧を見る >>

“ぽっちゃりさんの気持ちがわかるスタイリスト”として、お笑いタレントの渡辺直美さんや柳原可奈子さんが絶大な信頼を寄せる大瀧彩乃さん(35)。

このたび初の著書『ぽっちゃり女子のファッションbook』(主婦と生活社)を発売しました。同書には、決してぽっちゃり体型の女性だけはなく、普通体型の女性にも参考になるスタイルアップのコツやオシャレな着こなしのヒントがたくさん詰まっています。

実は大瀧さんは、スタイリストになる前はアイドルグループ「チェキッ娘」のメンバーとして活動していたという過去を持ち、その時の経験が今の仕事にも役立っているといいます。アイドルからスタイリストに転身した理由、スタイリングを通して伝えたいことなどを聞きました。

スタイリストの大瀧彩乃さん

スタイリストの大瀧彩乃さん

<大瀧彩乃さんの「辞める。」ヒストリー>

 
17歳 アイドルグループ「チェキッ娘」に加入。
19歳 芸能界を引退。
20歳 古着店で働く。
21歳 テレビ業界向けのスタイリング会社に入社。
24歳 アシスタントからスタイリストに。
32歳 スタイリストとして独立。

 

舞台の上より舞台裏が好き

高校2年生の時にアイドルデビューした大瀧さん。きっかけはなんだったのでしょう?

「芸能事務所に入っている先輩に誘われて、遊びで写真を送ったら、受かったんです。そんな感じだったのでアイドルとして“前に前に”という気持ちはありませんでした。ただ、洋服やおしゃれをするのが大好きだったので、私服撮影のときにメンバーの服を選ぶのを手伝ったりしていて。舞台に出るよりみんなのことをキレイにするのが楽しいという気持ちがありました」
 
アイドルとして約1年間活動し、グループが解散した後はタレントとして活動。

そこからスタイリストを目指した理由については「ソロで活動してもあまり面白いと感じなかったんです。みんなでワイワイしているのが楽しかっただけで、タレントになりたかったわけではないと気づきました。でも、スタッフさんやメンバーと一緒に仕事をしたいという気持ちは強かった。どうやったら一緒に仕事ができるか考えた時に思いついたのがスタイリストだったんです」。
 
スタイリストになると決意した大瀧さんはその一歩として、古着店で働くことに。
 
「学校に通うことも考えたんですが、お金がなかったので働きながら服のことを学ぼうとブランド古着を扱うお店に就職しました。国内ブランドからインポート、ビンテージの見分け方、『こういう音楽が好きな人はこういうファッションが好き』といった服にまつわるあらゆることを学びました」
 
1年ほど古着店で働いた後はテレビのバラエティ番組が得意なスタイリスト事務所に入りました。
 
「スタイリストの事務所はそれぞれファッション誌が得意とか広告が得意といった専門分野があるんですが、私はアイドル時代のメンバーはもちろん、音声さんやカメラマンさんなどスタッフの人たちとも仕事をしたかったのでバラエティ番組に関われる事務所に入りました」
 
事務所に入った最初の数年はアシスタントとして“下積み”が続きました。”下積み”と言うと、キツいイメージがありますが……。
 
「入った会社がいい会社で。最初から、師匠とマンツーマンでタレントさんのスタイリングを一緒にやらせてもらえたんです。もちろん、片付けや準備といった地味な作業もありました。例えばモデルさんやタレントさんが外を歩いても靴を汚さないように靴の裏にガムテープを一晩中貼ったり、使用した服や小物のブランドのクレジットを一個一個記録したり……私は、物覚えが悪かったので死ぬほど怒られたこともたくさんありました」
 
つらいときは、どう乗り越えたのでしょうか?

「同じ時期に入ったアシスタントの男の子と、励ましあって乗り越えました。どっちかが『辞めたい』とか言うと、お互いに引き止めていました(笑)」

0603wotopi-0086s

 

“ぽっちゃりさんの気持ちがわかる”スタイリストに

 
事務所に入って3年半が経った時、師匠から認められていよいよスタイリストに昇格。師匠が担当していた柳原さんのスタイリングを引き継ぐことになりました。ここで柳原さんの専属になったことが、大瀧さんの転機となります。

「柳原さんは当時、ギャル芸でブレイクしたのもあって、服装もギャルっぽかったんですが、私は彼女のかわいらしい部分を引き出したかったんです。女性らしいキュートなファッションにした結果、まわりから『かわいい』と言ってもらえることが多くなり、それをきっかけに直美ちゃんもオファーしてくれて……と仕事が増えていったんです。柳原さんとの出会いは大きかったですね」。
  
今でこそ“ぽっちゃりさんの気持ちがわかるスタイリスト”として引く手あまたの大瀧さんですが、最初からすんなりスタイリングできたわけではないといいます。
 
「どこで服を借りたらいいかもわからなかったし、肌を出しすぎると肉厚な印象になっちゃうので、最初は試行錯誤しました。だけど、そのうちに“ぽっちゃり”と言っても、人それぞれ体型は違うとわかったんです。

例えば、可奈子ちゃんは上半身ががっちりしていて下半身が細い。直美ちゃんは全体ががっしりしている。そうすると同じ”ぽっちゃり”でも着る服が変わってくるんです。ご本人の気になる部分をどうカバーできるかを考えてからスタイリングしたところ、うまくいくようになりました」
 
さらに大瀧さんがスタイリングで大切にしていることは、「本人に似合っていて、見ている人も楽しくなる」こと。

「担当させていただくことになった場合、初対面の時に好きなものを聞いていきます。好きな音楽もファッションに関係するので、好きなアーティストを聞いたり。なるべくその人の好みに近いものを提案できるように日々考えています」。
 
また、スタイリングをする上でもう一つ、大瀧さんが意識しているのは「他の人との差別化」です。
 
「ぽっちゃりさんの服は借りる先がだいたい決まっていてスタイルがかぶることがあるんです。タレントさんも誰かと同じ服を着るのは嫌かなと思って、できる限り他人とはかぶらないファッションを提案するために、国内よりは海外に目を向けて、海外に買い付けに行ったり通販も利用したりしています」。
 
ちなみに、アイドル時代の経験がスタイリストとして役立っていることは?

「現場で10代のアイドルやタレントさんと一緒になることもあるんですが、彼女たちはまだ言葉を知らない分、いろいろ悩みながら収録に臨んでいます。『こんなこと言っちゃったけれど、視聴者やまわりの人に誤解されないかな』とか。私も当時、同じような気持ちでした。話を聞くことくらいしかできないですが、それによって少しでも彼女たちの心により添えればと思っています」

0603wotopi-0021s

ドラマの現場に初挑戦

 
スタイリストになって12年。現在は12組のタレントを担当し忙しい日々を送っている大瀧さんですが、この夏、新しい仕事に挑戦することになりました。7月18日からスタートする連続ドラマ『カンナさーん!』(TBS系)で、主演の渡辺さんのスタイリングを担当することが決まりました。
 
同じテレビとは言っても、バラエティ番組とは畑違いのドラマの現場。

「タレントさんの好みでなく、役柄やシーンに合わせて服を持っていくので、いつもと違って結構大変ですね。台本に書いてある用語の意味もわからなくて。例えば『3番用意して』と言えば、『3体同じものを用意して』ってことを初めて知りました。日々勉強です」。
 
初の現場に奮闘する日々を送りつつもとても楽しそう。改めて、ドラマへの意気込みを聞くと……。

「(渡辺さんが演じる主人公の)カンナさんも直美ちゃんと同じように明るくて元気なキャラクターなので、どう差別化するかが勝負だと思っています。直美ちゃんは普段はミニスカートを履かないのですが、衣装合わせで着てもらったらとてもかわいくて。ドラマでは脚を出してもらおうかなと考えています」。

最後に、大瀧さんにスタイリングを通して伝えたいことを聞きました。

「ぽっちゃりさんではなくてもコンプレックスは誰にでもあると思うんです。下っ腹が出てきたとか足が太いとか……。みんながそれぞれ自分の“ぽっちゃりポイント”を持っている。でも首や足首を出すだけで細く見えたりと、着こなしをちょっと変えるだけで見違えたた印象になるんです。体の中の細い部分は出していくというのが、スタイルアップには大切なこと。ぽっちゃりさんに限らず、自分のサイズを知るということを、より多くの人に知ってほしいですね」

0603wotopi-0130s

(構成:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る

この連載をもっと見る

辞める。

辞めるのは決して逃げでも挫折でもない――。転職が珍しくない世の中になっているものの「辞める」というと、ネガティブなイメージもあることは事実。しかし「辞めた」ということは、新しい世界への一歩を踏み出したということ。一見、キラキラして見える人にも、必ず何かを辞めてきたヒストリーがあります。彼女たちが何を選択し、どんな道を歩んできたのかに迫ります。

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

アイドルからの転身 彼女が「ぽっちゃり女子の気持ちがわかる」スタイリストになるまで

関連する記事

編集部オススメ

2022年は3年ぶりの行動制限のない年末。久しぶりに親や家族に会ったときにふと「親の介護」が頭をよぎる人もいるのでは? たとえ介護が終わっても、私たちの日常は続くから--。介護について考えることは親と自分との関係性や距離感についても考えること。人生100年時代と言われる今だからこそ、介護について考えてみませんか? これまでウートピで掲載した介護に関する記事も特集します。

記事ランキング