女優のエマ・ワトソンさんが主演するディズニー映画『美女と野獣』(ビル・コンドン監督)が『アナと雪の女王』を上回るヒットスタートを記録し、ただ今上映中です。
本作のヒロイン、ベルは読者家で聡明なヒロインですが、閉鎖的な村では浮いた存在で「ここではないどこか」を探しています。“女性はこうあるべき”という周囲からの固定概念に窮屈さを感じていて、彼女の悩みはまるで現代の女性が抱える悩みの一つでもあるように重なります。
そこで、ウートピではシリーズで、女性のしがらみとなってしまっている「その、呪われたドレスを、脱ごう。」をテーマに著名人に話を聞いてみることにしました。
3回目は経済誌『Forbes JAPAN』の副編集長兼WEB編集長の谷本有香(たにもと・ゆか)さんです。
知性のない女性は一人もいない
——今日は取材を受けていただき、ありがとうございます。今、ウートピでは「その、呪われたドレスを、脱ごう。」と題して、女性にかけられたさまざまな「呪い」を解いていくシリーズ企画を掲載しています。
私自身もそうですが、「結婚したほうが幸せ」しかり、「仕事に生きる女は『オンナ』を捨ててる」しかり、世間の価値観を女性自身も知らないうちに信じ込んで、苦しんでいる部分があると思うんです。
知性もその一つだと思うんですが、「女はやっぱり愛嬌」「ハイスペ女性は幸せになれない」など、「呪い」が存在すると感じています。今日は谷本さんに、そんな女性の知性にまつわる「呪い」についてお話を伺いたいな、と。
谷本有香さん(以下、谷本):よろしくお願いします。面白いテーマですね!
——谷本さんは、スターバックス元CEOのハワード・シュルツ氏やユニクロの柳井正会長兼社長など世界のVIPを始め3000人以上の取材も手がけています。常に世界的視野で物事を見ていると思うのですが、谷本さんは女性の知性についてどう思われますか?
谷本:知性の定義が大事だと思っています。アカデミズムに紐づけられることもありますが、必ずしもそうではなくて、生きる術や賢さを指すこともある。そう考えると知性を持ち合わせていない女性は一人もいない。賢くない女性も一人もいない。生きる術や生活する術をみんな持ち合わせていると思うんです。
例えば、古い時代から子育てやお金がない中でのやりくりを担っていたのも女性。やりくりはファイナンスですよね。「オンナの知性は邪魔である」という“呪い”も解く必要はないし、知性を持っているのが当たり前の状態だからわざわざ打ち出したりアピールしたりする必要がないのかなと思います。
もし呪いというものがあるとするならば、呪いを解くのは男性のほうなんじゃないかなと。「女性はおバカでかわいいのがいい」という呪縛を持っていたのは男性。そろそろ解き放たれるべきでは?と男性に言いたいですね。
すでにある知性を自信に変えて
——知性はすでにあるんですね。とはいえ21世紀になった今でも女性の知性が十分に生かされていないようにも思えます。
谷本:世の中にはいろいろなバイアスがあって、例えば役員になりたいという女性に「え?」って思ったり、「大学院に行きたい」とか「もっと勉強したい」という女性に対して「女だからそこまで勉強しなくてもいいんじゃない」って言ったりする風潮や文化があるのは確か。女性がもっと輝きや能力を増大させていくようなことを行っていくのは大事かなと思います。
すでに持っている知性に付加していく作業というか「あなたはすでに賢いからこそ、それを自信に変えて強みにして」というメッセージを発信することは必要だと思います。
自分で鎧をまとっていた
——せっかく持っているよい部分が自信になるどころか足かせになってしまっているのは残念ですよね。自分で自分の能力にフタをしてしまうというか……。今回のテーマである「呪い」にも通じてくるのかなとも思うんですが、谷本さんは自分自身にかけてしまっていた呪いはありますか?
谷本:そうですね。私も、これまでトップのリーダーにお会いすることがたくさんあったんですが、例えば国の首相に会う時は「自分は日本の代表なのだから」と肩肘張っていた時代がありました。「自分は賢いジャーナリストである」と言い聞かせて。でも、そういう態度ってハレーションを起こしやすいんです。相手も警戒して、私の質問に答えてくれるというよりはメディアに答えてくれるというか、見たことがある答えしか返ってこないんですね。今思えば、呪いというか、鎧を着ていたんだと思います。
——まさに”呪いのドレス”ですね。ドレスというか鎧を脱いだきっかけは?
転機になったのは外資系のテレビ局でキャスターとして働いていた時ですね。年齢で言ったら、34、35歳くらいの時。鎧を着続けて無理をしていた結果、原因不明の皮膚病で顔が腫れてお化粧でカバーできないくらい荒れたんです。荒れているというか、特殊メイクのようにただれていました。体が悲鳴をあげていたんですね。
そんな私の姿を見た視聴者からも「なんであんな人を出しているんですか?」ってクレームがくる。自分は鎧を着たままなので、精神的にも辛い。キャスターは愛されつつも完璧じゃないといけないっていう思い込みもあったけど、なんでこんなに人から憎まれるんだろうって思ったんです。しかもあえて自分自身じゃない自分を演じて嫌われてなんでこんなに苦労しているんだろうって。ここまで戦う必要があるのだろうか?って思った時が鎧を脱いだ瞬間でした。
いざ鎧を脱いで自然体で仕事をするようになると何よりも自分が楽になったし、副産物も大きかった。そのうち谷本さんじゃなきゃインタビューを受けないという人も出てきて、ポジションも年収も上がって全てがうまく回り出した。それが私の鎧からの脱却だったと思います。
——鎧を脱ぐ瞬間は勇気がいりますよね? ある意味、自分を守ってくれるものでもあった鎧を脱ぐというのは裸になることだと思うんです。
谷本:鎧を着ている時はむしろ怖くて。SNSが今ほど活発じゃない時代で、今でこそ有名人がプライベートをさらけ出すのがウケている時代ですが、当時はそんな戦略もない。特に虚像で成り立っている世界だからこそ、バックヤードが見えないからこそピカピカにしなきゃと思っていたんです。
視聴者、顧客から見て憧れの存在じゃなきゃいけないと思ってガチガチに鎧を着込んでいた。「普段の谷本さんは面白いのになんで仕事の時は怖いんですか?」って聞かれることも多かったですね。鎧は脱いじゃいけないし、それが私のブランディングと思っていたんです。
呪いに苦しむ時期も必要
——谷本さんのお話を伺っていて、「賢くあらねばならない」という呪いというのもあるのかなと思いました。35歳くらいの時に鎧を脱いだというお話でしたが、このくらいの年代ってまわりからも「もうできて当たり前だよね」って期待もかかる年代だと思うんです。ちょっとでもしくじったら「あいつはダメなやつだ」って思われるんじゃないかって自分で自分を縛ってしまう。
谷本:そうですね、今思えば呪いだし鎧ですけれど、呪いに苦しむ時期も絶対必要だと思うんです。最初から解き放たれている人もいないんじゃないかな。解き放たれる前の状態を知っているからこそ、ジャンピングの高さも大きいし、苦しむ人の気持ちがわかるし、人間の幅も広がる。苦しむことに向き合うことをしたほうがいいのかなと思います。
——なるほど。確かに、野獣も魔女から呪いをかけられたわけだけれど、自分にかけられた呪いに向き合ったからこそ解き放たれて本当に大事なもの、真実の愛を見つけたとも言えますよね。
谷本:そうそう。まずは、何が自分にとっての呪縛になっているかを精査してみる。親なのか恋人なのか友人なのか。親からの一言や考え癖、自身のこだわりの部分とか……。何か思い当たることってあるものなので、それをさらってみることをするといいんじゃないかなと思います。
30代は苦しくも楽しい年代
——呪いに向き合う時期も必要だと。30代って言ったら余裕があるように見えるので、苦しんでいる自分は未熟なのかなと思っていました。
谷本:トップの女性にインタビューするとみんな30代が楽しかったって言うんです。苦しくも楽しかったって。苦しさの中にしか楽しみってないんじゃないかな。もしくは、苦しみがあるからこそ、楽しみがわかる。苦しさが楽しみだったり、幸せだったり、成功だったり、上昇の起因になるエネルギーになる。すべてはそこにある気がするし、そういう苦しい時期がないとステップアップがしにくい。自分の幸せや楽しみのベースが30代ってみんな言います。
——そう言われると希望というか勇気が湧いてきます。この苦しさは無駄じゃないんだなって。谷本さんの30代はどんな日々でしたか?
谷本:苦しいだらけだったし、もがき苦しんだ日々でしたね。まさに大変な時期が一番楽しい。惰性で仕事が回ったり経験値だけで回せたりするのって面白くないし、刺激もなくて何よりハートが燃えない。辛いことしかなかったけれど、楽しい日々を挙げるとしたら私も30代を挙げるんじゃないかな。辛さに挑戦したほうが幸福度も満足度も増すんじゃないかなと思いますね。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)