第5回のゲストは、エッセイストの紫原明子(しはら・あきこ)さん。
高校卒業後、起業家の家入一真さんと結婚・出産。専業主婦として、起業家の夫を支えながら2人のお子さんを育てていたところ、夫の浮気が発覚! 離婚を機に一念発起して、31歳で社会人デビューと、超濃厚な人生経験を持つ紫原さん。
デビュー作『家族無計画』(朝日出版)に続き、子どもたちへのインタビューから現代の家族のカタチを探った新刊『りこんのこども』(マガジンハウス)も話題になっています。紫原さんが働く上で大事にしていること、家族との時間について聞きました。
「今の時代は病まないことが一番大事」
小沢あや(以下、小沢):明子さんは、執筆活動のかたわら、週2回会社に行くという働き方をしているんですよね。
紫原明子(以下、紫原):はい。一カ所にどっぷり所属せず、片足突っ込むくらいが自分にはちょうど合ってるみたいで。もともと小学校の頃から帰属意識が薄かったんです。クラスにいても「私はこの子たちと違う」みたいな過剰な自意識もありましたね(笑)。何かのチームの一員になれたことが一度もなかった。昔はそれがコンプレックスだったけれど、今はそれでよかったなと思います。どっぷり浸かっちゃうと、密室みたいになっちゃうし。週2だから、会社の仲間とも仲良くやっていけているんだと思います。
働き方にもいろいろな意見があって、「クリエイターは専業になった方がいい」って言う人もいますよね。「全部捨てて、覚悟持ってやるべきだ」って。でも、私の場合、それだと心を病んじゃいそうだなって思うんです。今の時代、まずは心を健康に保つ努力をすることが一番大事だなと。
小沢:バランスを保っているからこそ、お子さんに対しても穏やかでいられる部分もあるんですかね?
紫原:残念ながらいつも穏やかではいられないですけど(笑)そうありたいなとは常々思ってますね。だって生活や精神状態が追い詰められていると、どうしても子どもとの関係もギスギスしちゃう。ただ、仕事のバランスとるように考えていても、やっぱり浮き沈みがあったりするから、自分を保つのは本当に難しいですね。
小沢:ストレスを減らす術を知っておくのは大事ですね。
紫原:確かに。私は副業でコミュニケーション支援の仕事を受けることもあるので、人とよく関わるんですけど、人と深くコミットするにも一長一短あるなと感じます。仕事も人付き合いも、ある程度距離を保って、お互い気持ちいいままで付き合ったっていいんじゃないですかね。
小沢:そういうテンションでうまくやっていきたいですね。私は独身ですけど、『東京タラレバ娘』も『セックス・アンド・ザ・シティ』も、いっつも同じメンバーで一緒にいるのが不思議に思ったりします。「がっつり仕事して、どっぷり語れる親友がいて、楽しんでないと独身でいてはいけない」という強迫観念があるような気がしてしまって。本当は、それだけじゃないと思うんです。
紫原:そうそう。「いつも人の輪の中にいないと寂しい人」みたいなハードルがありますね。そして人の輪の中で幸せでいなきゃいけない。
小沢:しかも、判断軸は「他人目線からの幸せ」だったりして。
紫原:女性はつい「楽しくないから自分はダメ」「楽しくないから失敗してる」ってなりがちだけど、年がら年中楽しいわけないですからね。そういう時期も受け止めるしかない。もし不幸でも、「今の自分、間違ってるな、どうにかしなきゃな」ってなるより、「こういう時期なんだな」くらいでやり過ごせた方がいいと思いますね。
離婚は必ずしも「不幸」ではない
小沢:『りこんのこども』は、実際に両親が離婚した家庭の子に話を聞いてできた本ですよね。
紫原:この取材で出会うまで縁のなかった、6家族、9人の子どもたちから話を聞きました。1時間くらい学校の話や雑談をしてから、「実は私も離婚しているんだ」と切り出すと、だんだん「親が離婚した時はこうだった」と話してくれるようになって……。
取材の許諾をいただけた家庭のお話なので、ある意味では離婚という課題を「乗り越えた」子どもたちの物語になっています。
世の中には、いろいろな家庭がありますね。親が離婚をしていなくたってそうです。「シングル家庭も、結局は多様な家族の中にある一つのケースだよ」ということを伝えられたらいいなと思いながら書きました。
親も広い世界を知ったほうがいい
小沢:前向きに生きている現状を伝えたいと。母子家庭は「経済的な事情で母親がいっぱい働いて、子どもに寂しい思いをさせる」というパターンに当てはめられることが多いです。けれど、子どもと交換日記をするとか、時間がない分、コミュニケーションの質を高める工夫をしている家庭もあります。明子さん自身、働きだしてからお子さんとのやりとりで工夫していることや変わったことはありますか?
紫原:離婚してしばらくは働き詰めだったんですが、最近やっと子どもたちとゆっくり過ごす時間も確保できるようになって。「子どもが何を求めているのかな?」とじっくり考えることが増えました。子どもは年齢が上がるにつれて手はかからなくなるけれど、精神的に大人になるにつれて、話し相手としての役割を求めてくることが増えてきました。特に娘はニッチな趣味を持っているので、学校に趣味の合う子がなかなかいないんですよね。
小沢:(娘さんは)織田信長が好きなんですよね。
紫原:歴女で、腐女子なんです(笑)。都心の小学校だから、ただでさえ生徒の人数も少なくて、同じ趣味を持っている子がなかなかいない。そうなると、家が発散の場になるから、毎日ダーッと楽しそうに歴史の話をするんです。それを受け止めてあげる時間が必要になってきたなと思います。
ただ話を延々と聞く、というのも結構体力のいることで。仕事で疲れて帰ってきた後なんかはしんどいこともあります。その点、家庭に(父親と母親の)大人が2人いると、役割も負荷も分担されるからいいなあと思うこともあります。ただ、良かれと思う子どもへの接し方が父親と母親で違ったりして、「そういう言い方やめてよ!」なんて、夫婦間でケンカになるケースもあるみたい。シングルは、そのストレスがないところがメリットですね。
小沢:息子さんについては?
紫原:息子は中3で、母親にべったりしてほしくない年頃。だからしつこく「何があったの?」なんて聞かないけれど、話したいことがある時は彼の方から話してきてくれるので幸いにも、今のところ会話はありますね(笑)。
息子と接する上で気をつけてるのは、、彼に父親や夫を重ねてしまって、頼りすぎてしまわないようにってことです。我が子ながら、うちの息子はユーモアがあって、年の割に落ち着いてて、正直、超いい感じに育ってるなと思いますが、だからといって息子は私の彼氏じゃないですからね。
小沢:明子さんは苦手な事務作業とか、フリマアプリ「メルカリ」への出品を息子さんにお願いしているそうですね。
紫原:そうそう。ただ、お金払ってますよ!(笑)メルカリ売り上げの20%をお小遣いにするという契約です(笑)。息子はお金が大好きなんですよ。確定申告のための領収証の整理とか、頼むとすごくきっちりやってくれます。
小沢:経済感覚も身につくし、「メルカリ」では売れる写真やテキストを考えなきゃいけないから、勉強になりますよね。頼りながら、生活の中で、上手に得意分野を伸ばしているんですね。
紫原:離婚したりして、いろいろ苦労もかけてるんで、私が何を彼らに与えられるか、って常に考えますね。東京で暮らしていると、選択肢が多い分「本当に子どもにいいことってなんだろう?」と考える機会が増えます。で、そのときについ、自分が親から育てられたように育てるのが正解、みたいに思っちゃいがちなんですが、現実には時代は変わっていて、その通りやろうとしても無理なことがあるんですよね。なるべく柔軟に、広い視野で正解を見つけていけたらいいなと思っています。
後編は11月2日更新予定です。
『家族無計画』刊行を記念して、紫原さんと作家の山崎ナオコーラさんによるトークイベント「山崎ナオコーラさん×紫原明子さんの『家族と社会』にまつわるトーク」が11月11日に東京・渋谷の「スマートニュースイベントスペース」で開催されます。
詳細はコチラ
■店舗情報
café chillax (カフェ チラックス)
住所:東京都目黒区中目黒1-4-6
営業時間:
平日 11:30~24:00(L.O.23:00)
金・土・祝前 11:30~2:00(L.O.1:00)
定休日:なし
電話番号:03-5794-8848