著書『フランス人は「ママより女」』(小学館)で、「自由」や「自立」を重んじるフランス人のライフスタイルを紹介した国際ジャーナリストのドラ・トーザンさん。大きな反響があった前回のインタビュー(https://wotopi.jp/archives/34656)に続いて、今回はドラさんと、『男がつらいよ』(KADOKAWA)や『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社)の著書が話題の社会学者・田中俊之(たなか・としゆき)さんが対談します。
テーマは、「男の生き方、女の生き方」。日仏を行き来するドラさんの目から見た日本の男性は、果たして女性から「愛される男」なのでしょうか?
フランスでは、まず自分の幸せを考える
−−ドラさんは新著『愛される男の自分革命』(徳間書店)の中で、日本人男性に対し「もっと自分時間を大切に」と呼びかけています。
ドラ:私が東京とパリを行き来していて一番強く思うのは、まさにそこですね。日本の男性は、自分時間の使い方が上手じゃないなと。でもそれは、今の日本社会のシステムや慣例、習慣などのせいでもあるようです。時間を自由に使いづらいですよね。
とはいえ、生まれてから死ぬまでの時間をどう使うか、もっと主体的に考えてほしい。時間はお金よりも大切なのですから。
田中:僕もドラさんと、まったく同意見です。以前、定年退職者にインタビューしたことがあるのですが、40年働いた挙句、いったい自分の人生は何だったのかわからなくなってしまう人が、とても多いのです。ずーっと仕事ばかりしてきたから、仕事がなくなると友達もいないし趣味もない。奥さんとの関係ともうまくいかない。本当に深刻なトラブルを抱えています。そうならないよう、男の人にも「自分の人生」を生きてほしいですね。
−−男性の価値観が、仕事に寄り過ぎてしまうのはなぜなのでしょう?
田中:日本ではまだまだ「男性の稼いだお金で、ごはんを食べさせてほしい」と思っている女性がいます。一方の男性も、「働いて、お金を稼いでくること」が自分の仕事だと思っている。「働いてくれるのがいい夫」ということですよね。そういう考え方がいまだに根強い。「あの人、いい男だね」っていう評価基準が、「仕事」や「年収」しかないんです。
ドラ:そう、私もそれびっくりしたの。
田中:そうなっちゃうと、「働くしかない」ということですからね。その逃れようのなさもあって、私は『男が働かない、いいじゃないか!』というタイトルの書籍を出したんです。ドラさんは、働きづめの日本人男性を見た時に、「自分の人生を大切にしていないな」と思っちゃうわけですよね。
ドラ:日本人男性は、グループのため、家族のため、会社のために働いているように見えます。フランスは個人主義の国だから、まずは自分の幸せが一番。自分も幸せなら家族も幸せだし、国も幸せっていう考え方です。日本とは正反対なんですよね。
田中:自分の幸せを後回しにしていたら、死ぬまで誰かのために働くことになりかねない。
ドラ:まったくその通りです。もちろん私も仕事は大好きだし大事なんですけど、仕事への向き合い方、考え方が根本的に違うのかなって。確かに高度成長期の時は、景気も右肩上がりで「一生懸命頑張りましょう」でよかったと思うのですが、不景気になっても同じ考え方でいるのはおかしいでしょう。
不景気だからこそ、もうちょっとペースダウンしてもいいんじゃないかと。311が起きた時に、ちょっとそういう、足元を見直す空気もあったのに、いつの間にか元に戻ってしまいましたよね。とても残念です。
田中:そういう意味では、フランスの「週35時間労働制」(労働時間を常勤で年平均週35時間に法的規定した2002年のフランスの法措置)は面白いですね。日本もフランスのように、「週35時間労働制」まではいかなくても「週40時間労働制」にしてしまえばいいのに(笑)。そうすれば、余った時間に何をしたらいいのか、否が応でも考えざるをえなくなるんじゃないでしょうか。
「レディのたしなみ」は恋愛のコミュニケーション
−−前回のインタビュー(https://wotopi.jp/archives/34656)でも新著でも、ドラさんは「アムール(恋愛)」の重要さについて述べておられますが、アムールってそんなに大事ですか? 他に夢中になれるものがあるなら、別に恋愛しなくてもいいっていう考え方もありますよね?
ドラ:それはダメ。アムールは絶対に大事。
田中:(笑)。どうして?
ドラ:もちろん、一人で自立して生きることは大事です。新著でも書いたように、一人旅をしたり、趣味に打ち込んだりするのは大切。ただ、フランス人はアムールやセックスもないとダメ(笑)。
田中:でも、ドラさんの新著を読んで、「ジェントルマンでいるのは面倒くさいなあ」って思っちゃいました(笑)。毎日「愛してる」って言わなきゃいけなかったり、デートではエスコートしなくちゃダメだったり。ドラさんはそれを「騎士道」と言いますけど、見方を変えればマチズモ、男女差別ですよね?(笑)
ドラ:あははは(笑)。確かにそうですね。でも、最近はデート事情が少し変わってきているみたい。若いカップルはデートが割り勘だったりして。私は反対ですけど(笑)。
田中:本当ですか? 私は割り勘でいいと思いますけど。
ドラ:男女平等と考えつつも、やっぱり私はジェントルマンが好きです。そこは、アメリカ人とフランス人の、もっとも違うところかもしれないですね。面白いところじゃないかしら(笑)。
−−男女の役割を、あまりに均一化してしまうと、今度は「アムール」が生まれにくくなってしまうかもしれないですよね。
田中:「ジェントルマンのふるまい」や「レディのたしなみ」は、恋愛やコミュニケーションの「ロールプレイ」ということなら納得がいきますけどね。
>>後編に続く
(黒田隆憲)