映画『波紋』インタビュー

「こうあるべき」に縛られていた筒井真理子が楽になったきっかけ

「こうあるべき」に縛られていた筒井真理子が楽になったきっかけ
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夫も息子も家を去り、今は新興宗教をよりどころとする主人公・依子を筒井真理子さんが演じた映画『波紋』が、5月26日に公開されました。

『かもめ食堂』や『めがね』、『彼らが本気で編むときは、』などを手掛けた荻上直子(おぎがみ・なおこ)監督の最新作で、依子の視点を通じて放射能、新興宗教、介護、更年期障害など、現代社会を取り巻くさまざまな問題を浮かび上がらせています。

新興宗教を信仰し、穏やかな日常を送っていた依子の元に、長年失踪していた夫が突然帰ってくる。そして、息子は障害のある彼女を結婚相手として連れて帰省する――というストーリー。

荻上監督と筒井さんの対談をお送りした前編に引き続き、後編では依子を演じた筒井さんにお話を伺いました。

依子が抱える“生きづらさ”のワケ

——前編でも依子について伺いましたが、依子というキャラクターについてはどう思われましたか?

筒井真理子(以下、筒井):台本をいただいたときに、すごく面白くて。ちょっとしたトゲと、社会性と、コミカルなことが、すごくバランスよく融合されてる作品です。ただ、役としては、自分と共通点もありましたし、そうではないところもありましたね。

共通点で言えば、私は、心理学が好きなのですが、自分の中の信条というかビリーフ(信念)のようなものがあるんです。それは私だけではなくて皆さんも持っているものだと思いますが、例えば私の場合は「弱い者は助けなければいけない」「すべての人を愛さなければならない」そういう思いがあるんです。「~すべき」「~しなければいけない」という。

依子も、「仕返しなんかしちゃいけない」「最期まで(義父の)面倒を見ないといけない」という気持ちがあり、その「〜すべき」が自分を苦しめてしまっている。そのあたりは、自分に似ているなと思いました。作品の中で、依子がそんなビリーフを自分で少しずつ剥がしていく瞬間も描かれていて、自身の体験と重なる部分がありました。

映画『波紋』の1シーン

芝居を通じて自分が解放されていった

——「こうあるべき」や「こうしなければいけない」と思って自分自身を縛ってしまう人も多いと感じています。ウートピ編集部ではそれを「呪い」と呼んでいるのですが、呪いを解く方法があるとすればどんな方法があると思いますか?

筒井:私の場合は、両親が「他人のために」とか「世の中のために」ということを大事にしていて、私もそれが当たり前だと思って育ちました。もちろん大事なことではあるのですが、そればかりでなくてもいいと気づきました。

例えば、日記でも「醜い」とかネガティブな言葉を書けなかった。日記って本音を書くものなのに、そういう言葉を使えなかったんです。苦しかったですよね。(笑)

——今は使えるようになった?

筒井:芝居をやるようになってから使えるようになりました。だから、芝居をやっているのかもしれない。芝居って「この人には共感できないよな」という人も演じなければいけないのですが、そうすると「この人はなぜこんな考え方をするのだろう?」と、その人になるために心理学の本を読んだりするんです。それが「こうあるべき」と思っていたことや自分を縛っている何かを解放していくことにもつながってすごく楽になりました。

例えば、誰かから強制されているわけではないのに、母親は母親の顔をしなければいけない。「母親」という役割を演じてしまうんだと思うんです。でも、芝居は無理やりにでも自分ではないところに行かないといけないので、すごく解放されると思います。自分とまったく違う人を受け入れられるようになるかもしれないし、「こんなことを考えているんだ」「こういうことがつらかったんだ」と他者を思いやれるようになる効果はあると思います。

そういう意味で芝居をすることですごく楽になった気がしています。自分の小さな器がほんの少しずつですが広がっていくような感覚です。イギリスでは、義務教育にドラマという授業があるそうです。子供の頃にそういった体験ができる。日本でもそんな授業があるといいなと思います。

■映画情報

映画『波紋』
2023 年 5 ⽉ 26 ⽇(⾦)TOHO シネマズ ⽇⽐⾕ほか全国公開
配給︓ショウゲート
コピーライト︓(C)2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ
【出演者】
筒井真理⼦、光⽯研、磯村勇⽃ / 安藤⽟恵 江⼝のりこ 平岩紙、津⽥絵理奈 花王おさむ、柄本明 / ⽊野花 キムラ緑⼦
【監督・脚本】 荻上直⼦

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