夫も息子も家を去り、今は新興宗教をよりどころとする主人公・依子を筒井真理子(つつい・まりこ)さんが演じた映画『波紋』が、5月26日に公開されます。
『かもめ食堂』や『めがね』、『彼らが本気で編むときは、』などを手掛けた荻上直子(おぎがみ・なおこ)監督の最新作で、依子の視点を通じて放射能、新興宗教、介護、更年期障害など、現代社会を取り巻くさまざまな問題を浮かび上がらせています。
新興宗教を信仰し、穏やかな日常を送っていた依子の元に、長年失踪していた夫が突然帰ってくる。そして、息子は障害のある彼女を結婚相手として連れて帰省する――というストーリー。
同映画について主演を務めた筒井さんと荻上監督にお話を伺いました。
新興宗教にハマる人たちを撮ったきっかけ
——荻上監督は、同作の企画をずっと温めていたそうですね。
荻上直子監督(以下、荻上):撮影が始まる2年前には、すでに脚本を書き終わっていました。なかなか難しいテーマだったのですが、最終的に、テレビマンユニオンのプロデューサー・杉田浩光さんが手を挙げてくださいました。
——新興宗教というと、去年の7月には安倍晋三元首相の銃撃事件がありました。映画の内容を伺った時にてっきりこの事件に着想を得て作られたのかと思いました。
荻上:映画はそんなに短期間では制作できないので……。

映画『波紋』の1シーン
筒井真理子さん(以下、筒井):たまたまこの脚本があって、そのあとに事件が起きた。私たちからすると、そういう感じでした。ただ、事象は続いているんでしょうけど、明るみになったのが去年の事件のタイミングだったということで。荻上さんはなぜ今回のような話を書こうと思ったんですか?
荻上:自宅の近所に、いくつか宗教団体の施設があったんです。本当にきれいな格好をされた奥さまたちが、出入りする姿を見ていたんです。雨の日にすごくたくさん傘があって、うわーと思ったんですけど……。なんかよく分からない、どうしても理解できない人たちを、「やっぱり知りたい」という気持ちになりました。「昼間にきれいな格好をしてそこに行くくらいだったら、働けばいいのに」と普通は思ってしまうけど、「そうじゃない人たちがこんなにいるのはどうしてだろう?」と。そんな疑問が、この作品になりました。
依子については最後まで私は共感できませんでしたけれど、家族が出て行ってしまったあとの自分の置き場所が分かんなくなっちゃったのかな? と思って。
筒井:宗教にハマったきっかけも夫が出て行ったことから、(宗教に)自分の居場所みたいなものを感じたんですよね。依子は、そこからまた離れていきますけど。
荻上:最後は、本当に解き放たれた感じですもんね。
頼りになるのは「これまで依子がどう生きてきたか」
——筒井さんは、依子を演じるにあたって、難しかったことや意識されたことはありますか?
筒井:難しかったというか、台本を読んで、新興宗教から目が覚めるところなど「ここは自分はどうなるんだろう?」というポイントはいくつかありました。頼りになるものは、「これまで依子がどう生きてきたか」ということだけなので。私ではなくて、別の人生を生きてきた依子の人生の、おなかの中を耕さなきゃいけない。自分なりには精いっぱい依子を生きたつもりですが、ご覧いただいた方々に伝わっていたらうれしいです。
■映画情報
映画『波紋』
2023 年 5 ⽉ 26 ⽇(⾦)TOHO シネマズ ⽇⽐⾕ほか全国公開
配給︓ショウゲート
コピーライト︓(C)2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ
【出演者】
筒井真理⼦、光⽯研、磯村勇⽃ / 安藤⽟恵 江⼝のりこ 平岩紙、津⽥絵理奈 花王おさむ、柄本明 / ⽊野花 キムラ緑⼦
【監督・脚本】 荻上直⼦