「中堅と言われる立場だけど、いつまでたっても自分に自信が持てない」
「自分の感覚が古いのではないかと時々不安になる」「自分が“老害”になりそうで怖い」--。
そんな迷える中堅世代以上の人たちに向けた『モダンエルダー 40代以上が「職場の賢者」を目指すこれからの働き方』(日経BP)が、2022年1月に発売されました。
著者のチップ・コンリー氏は、ホテルチェーンを創業して経営した後、IT系企業の経験がないまま、米シリコンバレーのスタートアップ「エアビーアンドビー」に50代で入社。20歳ほど年の離れた若者たちと働くなかで、「モダンエルダー」としての知恵と経験を生かして活躍し、彼らから頼りにされる存在となっています。
そこで今回、同書の出版に携わり、累計発行部数100万部のベストセラーとなった『ファクトフルネス』をはじめ、 『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』など、翻訳書を多数手がける編集者・中川ヒロミさんにお話を伺いました。
「答え」よりも「質問」 良い問いを発するためのコツは?
——新しい環境に飛び込んだチップ・コンリー氏が質問を投げかけて会社の盲点を浮かび上がらせていく部分が印象的でした。「モダンエルダー」として素朴な問いを発することも大事だと強調されていましが、自身を振り返ると「答え」を出すことを求められてきたので、「問い」を発することに慣れていないように感じます。
中川ヒロミさん(以下、中川):おっしゃる通りで、答えがあることを教えてもらうのが、今までの日本の教育なんですよね。でも、世の中がどんどん変わってきて、どれが正解か分からないということは往々としてある。疑問に思ったことを聞いてみる力が、以前に比べて必要になってきていると感じています。
ただ、年を重ねていくと「こんなことも知らないのかって思われるのが恥ずかしい」「バカだと思われるんじゃないか」と考えて、聞くに聞けなくなっちゃったり……。でも、プライドは少し脇に置いておいて、素直に質問することが大事なのかなと。そのためには、「自分は間違っている」という前提で聞くことも大切だと思います。最初はなかなか難しいかもしれませんが、それが“質問する力”につながると思います。
——「強い意見を弱く持つ」ですね。中川さんは記者もされていたということで、良い質問をするためのコツはありますか?
中川:「恥ずかしいから」「頭が悪いから」「バカに見えるかも」なんてことは思わないで、自分が不思議だなと思ったことを素直に認めることが大事だと思います。実はみんな結構分かってなかったりするんですよ。だから、本当に素朴な質問でいいんです。
例えば、社内でなかなかSlackを返してくれない上司がいたとして「時代に乗り遅れている上司」とバッサリ切ってしまったらそれで終わりです。でも、「あの人はなぜ返事をすぐに返してくれないのか?」と考えると、文章を書くのが苦手かもしれないし、対面でのやりとりのほうが好きなのかもしれないし、ただの意地悪かもしれないし(笑)、とにかくいろいろな可能性が出てくるわけです。もし意地悪だったらあまり関わらないようにすればいいだけなのですが、対面でのコミュニケーションを重視する人だったとしたら、「時代に乗り遅れている上司」と判断して終わらせてしまうのは、少しもったいない気もします。
あとは、あまり尊敬できない人が社内外で偉くなっていたりすることもあると思うのですが、私は「あの人は何がすごかったんですか?」と聞きます。「いや、実はここがすごかったんだよ」と教えてくれたりすると、「そんな良いところがあったのね」と納得したり。まあ納得しないこともあるのですが(笑)、自分が見いだせていない良さが分かれば一緒に仕事がしやすくなりますし、不思議に思ったことを聞いてみるのはお勧めです。
何歳でも、どのタイミングでも学べる
——そのためには本でも触れられている通り、不安を好奇心に変えたり、常に新しいことを学んだりする姿勢が大事なんだと痛感するのですが、最近、芸能人やキャリアを積んだ社会人が大学や大学院にいくというニュースを見聞きすることが多いです。“人生100年時代”だからこそ、40代や50代から新しいことに挑戦できるということもあると思います。
中川:おっしゃる通りです。60代や70代が平均寿命だった時代と、50歳になったときに「まだあと50年ある」という時代では、気持ちがまったく違いますよね。それに、10代で習ったことが、100歳になるまで正しいとも限りません。弊社でも『Unlearn(アンラーン)人生100年時代の新しい「学び」』という本を出していますが、一回習ったことが正しいわけではなくて、時代が変わればどんどん更新されていくわけです。だから、一回習ったことをもう一度学び直しすることも大切ですし、10代や20代で興味がなかったことを、年を重ねてから学んでみたら楽しくなるかもしれない。「学び」はいつやってもいいと思います。
——メソッドも更新されていますもんね。
中川:だから、昔習ったときはどうも自分に合わなかったけど、今習ってみたら楽しいっていうこともあるかもしれないですよね。
「とりあえず手を出してみる」シリコンバレーの人たちから学べること
——前回、シリコンバレーと日本の管理職に対する考え方の違いについて伺いましたが、シリコンバレーの人たちは、新しいものに対してどのような態度なのでしょうか?
中川:シリコンバレーで活躍する人たちは、新しいものが出たらとりあえず何でも手を出します。Appleの新製品が出たら、みんな毎年買っていますし。私も買おうと思うんですけど、10万円以上と高価なので2年に一回くらいのペースで(笑)。VRグラスが出たらVRをやってみたり、本当にすごいなっていつも思います。でも、確かにやってみないと楽しいのか楽しくないのかも分からないですよね。
シリコンバレーの人たちや日本のアーリーアダプターの人たちに共通しているのは、まずは「やってみる」こと。新しいアプリやサービスが出たら試してみるとか、新しいSNSが出たら使ってみるとか。何でもやってみて、自分に合わなかったらやめればいいという人が多いです。なかなかそこまで行けないのですが、私も見ていると真似(まね)してみようかなという気持ちになりますね。
——合わなかったらやめればいいんですよね。つい、「途中で投げ出すなんて」「自分は飽きっぽいんじゃないか」と落ち込んでしまうのですが……。
中川:みなさん真面目だから、そう考えちゃいますよね。でもそこは「だって、つまんないんだもん」でいいと思いますよ(笑)。
「自分が正しい」前提で進めない…「モダンエルダー」になるには?
——そうですね! では最後に読者へのメッセージをお願いします。
中川:40代や50代の方で、これからの働き方や人生に対して不安に思っている方たちに読んでもらって、元気になってもらえたらうれしいです。「年上だから、いつも教える立場じゃないといけない」とか、「年上の言うことを聞かなきゃいけない」という時代ではなくなってきています。何十年か前は、それこそ昭和や平成の時代は「長く生きている人ほど知識が豊富で、いつでも正しい」という考え方や風潮が主流だったと思うのですが、どんどん変わっていく世の中なので「自分が全部正しい」と思い込まずに、若い人たちの意見に耳を傾けたり、疑問に思ったことを質問してみたりするといいかもしれませんね。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)