『僕はメイクしてみることにした』インタビュー後編

『僕メイク』は、昔の自分に読んでほしい。原案者に聞く「ふだんづかいのセルフケア」

『僕メイク』は、昔の自分に読んでほしい。原案者に聞く「ふだんづかいのセルフケア」

2019年9月に「週末セルフケア入門」と題して、自身が試してみたセルフケアについて発信を始めた鎌塚亮さん。2020年7月に書いた記事「メンズメイク入門の入門」が反響を呼び、美容誌「VOCE」での連載を経て、2022年2月10日に自身の体験を下地にした漫画『僕はメイクしてみることにした』(講談社)が発売されました。WEBの連載は累計1000万PVを超え、単行本が発売されると即重版が決まるなど本作に対する注目度は日に日に増しています。

マッサージをする、甘いものを食べる、アロマを焚く、花を飾る……。鎌塚さんが発信する「週末セルフケア入門」を読むと、私たちが日々、さまざまなセルフケアを実践していることに気づかされます。後編では、鎌塚さんが意識したという「ふだんづかいのセルフケア」について聞きました。

ラクになるための選択肢は多いほうがいい

——「セルフケア」をテーマにメディアプラットフォームのnoteで発信を始めたのはなぜでしょうか?

鎌塚亮さん(以下、鎌塚):30歳を過ぎてから自分の生活を見直す必要性を感じ、セルフケアについて考えてみようと思ったことがきっかけです。男性にとってのセルフケアって、サウナとかジム通いとか「何かを我慢する」「自分を律する」みたいな方向に行きがちなんですよね。でも、本当はもっと選択肢があるはず。むしろ、“男らしくない”と見なされてきたことの中にヒントがあるのではと思い、覚え書きのつもりで発信を始めました。

——「パジャマを着る」「花を飾る」など、誰でも実践しやすい方法を取り入れているのがいいなと思いました。

鎌塚:意識を低くもって続けられる「ふだんづかいのセルフケア」を基準にしました。『僕はメイクしてみることにした』の中でも、主人公の前田一朗は、実は美容以外にもいろいろなことにトライしています。ジョギングを始めたり、甘いものを食べたり、自分がしっくりくるものを素直に受け入れることで、生きるのがラクになっていく。

——漫画では、メイクすることに対して、一朗が「ちょっと飽きちゃったかなって思う時がある」と言いますよね。あのセリフを読んで、途中でやめるのも選択肢のひとつなんだなって、気持ちが軽くなった気がしました。

鎌塚:私もあのセリフがとても好きです。そう、やめてもいいんですよね。一朗も、友だちからメイクを批判されたときに「こんなことでメイクやめちゃダメですよね」と同僚の真栄田(まえだ)さんに相談しますが、「やめてもいいと思いますよ」と言われて、少しラクになれる。呪いが解かれた瞬間だと思います。

本書より/©️糸井のぞ・鎌塚亮/講談社

本書より/©️糸井のぞ・鎌塚亮/講談社

何かを“しないでおく”セルフケア

——鎌塚さんは37歳ですが、X世代やミレニアル世代って、親や先生から「常に頑張らないと成長できない」「他者よりも優れていなければならない」と言われ続けてきた人も多いと思うんです。だから、ついセルフケアも「ちゃんとやらなくては」みたいに気負いそうになりがちになります。鎌塚さんはそういうプレッシャーは感じませんでしたか?

鎌塚:感じますよ! たとえばメンズ美容の連載をしていると、「いつもきちんとメイクしている人」だと思われることがあります。実際は毎日メイクして出社しているわけではないので、「メイクしていないんですね」って指摘されるんじゃないかと、以前は不安でした。セルフケアとして始めたはずなのに、いつの間にか義務のように感じてしまう。「メンズメイクしましょう」「セルフケアしましょう」と言われたら、高いツールを買ったり、何かしら投資をしなくちゃいけないと思ってしまう人も多いと思います。

——時間やお金をかけた分、リターンを得られる気がしてしまいますね。

鎌塚:私が最近考えているのは、何かを“しないでおく”ことも、セルフケアのひとつではないかということ。「今日はちょっと疲れたから、自炊はしません」とか。いつもすることを手放すことで時間ができるので、そのあいだに好きなことができますよね。

——自分にとってどういう状態がラクなのか。セルフケアを考えることは、自分を知ることにもつながるんですね。

鎌塚:そうですね。セルフケアは「自分との関係を考え直す」こととも言い換えられますが、決して自己完結するだけのものではないんです。メンズ美容にしても、世の中にこれほど興味がある人がいるなんて、記事を発信するまでは知りませんでした。自分について考えることで、人とのつながりや対話が生まれるかもしれません。

届けたいのは「昔の自分」

——こんな人に読んでほしいと思う人はいますか?

鎌塚:「昔の自分」でしょうか。一朗の親友の長谷部じゃないですが、今振り返ると「あの時は“男らしさ”みたいなものにこだわりすぎていたな」「もっとラクなほうを選んでもよかったのでは」と思う瞬間があるんですよね。今ならばあの頃の自分に、もっとうまく自分を労わることの大切さを伝えられるような気がしています。

——今回、担当編集のUさんも、作品に手ごたえを感じているとか。

担当編集Uさん:はい。男性の生きづらさが女性に押し付けられるような問題が起こるたびに、男性が生きやすくなるにはどうすればいいか、そのためのヒントを考えなければいけないと感じていました。そういうことが自分のテーマとしてあった中で、鎌塚さんのVOCEの連載をコミカライズしようという話をいただき「ああ、これだ」とピンときました。「セルフケアのひとつとしてのメンズ美容」という、個人的にも大切だなと思うテーマに携わることができて、うれしい気持ちでいっぱいです。

鎌塚:自分自身に対する解像度が上がれば、周囲に対する解像度も上がるんですよね。例えば、私はメイクをするようになってから、周囲の人がメイクしていることに気づけるようになりました。何かストレスを感じた時にも、セルフケアの習慣があって初めて、「ここまでは自分でケアできるけど、これ以上は環境のほうで改善してもらわないと厳しいな」とわかる。だから、個人的なことを考えることが、おのずと周囲や社会を考えることに繋がっていくのではないか——。この作品がそんな問いかけになればいいなと思っています。

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(取材・文:東谷好依、編集:安次富陽子)

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