『三十代の初体験』インタビュー・後編

「えいや!」でとりあえず予定を入れる…初体験を楽しむコツ

「えいや!」でとりあえず予定を入れる…初体験を楽しむコツ

新しい年を迎え、新しいことに挑戦したいと思っている人も多いのでは?

作家の羽田圭介(はだ・けいすけ)さん(36)が初体験に挑戦する『三十代の初体験』(主婦と生活社)が2021年11月26日に発売されました。

週刊誌『週刊女性』の連載をまとめたエッセイ集で、ジェルネイルやダンス教室、女装、ボルダリング、狩猟体験などに挑戦しています。

31歳から34歳までの期間にさまざまな“初めて”に挑戦した羽田さんにお話を伺いました。前後編。

【前編】「こだわりが強かったんだ…」70超の“初体験”を通じて羽田圭介が至った境地

「家事代行」を通して見えた、他者との関わり方

——「家事代行」のエピソードに書かれていた羽田さんの人間観察が、とても面白かったです。家事代行を体験して最終的に「もっと人々が、自分の好きなことや得意なことを仕事にできるような土壌が整っていくことを、望む」と書いていたのが印象に残りました。

羽田圭介さん(以下、羽田):家事代行もそうですけど、身近な人に頼むよりも、お金を払うという儀礼を通してやってもらったほうがいいことって、たくさんありますよね。「血縁だから」「友達だから」といって、なあなあでやってもらうよりもお金を払ってやってもらう。きちんと要望を伝えることも礼儀だと思うし、それに対して相手がやり切ってこちらが満足したら、相手も喜んでくれるわけじゃないですか。

だから、全然知り合いじゃない人に対価を支払って労働を提供してもらう“美しさ”のようなものをたびたび感じました。知らない人と関わりをもってプロの技に接した際の感動は、身近な人間関係から飛び出さないと触れられないわけですよね。「家事代行」という単なる外注であっても、知らない人に何かを依頼するというのは、感動があるなと思いましたね。

——お金を介在させて物事をお願いするほうがこちらも頼みやすいし、プロへのリスペクトにもつながりますね。

羽田:そうですね。僕は、「いろいろなことをお金を払って解決すればいいんじゃない?」と思います。一昔前は、「お金で解決するのははしたない」というネガティブなニュアンスがあったと思うんです。でも、お金はそもそも道具なので、使わないと意味がない。だから、「お金を出して頼むのははしたない」って言っているほうが、お金に対して幻想があるんじゃないかって。

今は仮想通貨等でゲーム的に巨額のお金を稼いだりする人もいますよね。だから昔ほど、お金を稼ぐことが尊敬されないわけです。だから、誰がお金持ちになるかも分からないし、お金だけ持っていても仕方がない。やっぱり、お金を使って何かに触れるっていうことのほうがとても大事だと思います。

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初体験を通して得た収穫

——あとがきで「初体験に過剰な期待を抱いても仕方がない、ということも本連載を通じて学べた」と書かれていましたが、どういうことでしょうか?

羽田:連載が始まった時点では、芥川賞を受賞して1年後くらいだったので、たくさんの人がたくさん仕事をくれて、行ったことがない場所にたくさん連れて行ってもらうようになっていました。未知の経験の連続だったわけです。それに、「もっと人気を得たい」みたいな気持ちもあった。でも、人気を得てできることって、周りに色々お膳立てしてもらってなにかするとか、ほとんど受け身のことなんですよね。受動的にできることって、似たような経験になる。他人は他人に対して、自分のことほど本気になって考えてくれないから。だから、人気を得て体験できることって、実は大したことないかもなって思ったんです。

それよりも、僕は一人で書きたい小説を書いて、それを読んでもらいたい。それができるかできないかは人気とは関係ない。なぜならそれは自分の主体的な問題で、他者は介在していないから。結局、自分が満足できるかどうかって、自分が主体的に行動したときだけで、人気は関係ないことに気づけたのが大きな収穫でした。

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「えいや!」でとりあえず予定を入れる

——新年になって「今年はいろいろなことに挑戦したい」と思っている人に向けてアドバイスをお願いします。

羽田:やりたいことを「ToDoリスト」に書いている人も多いと思うんですけど、予約できるものやチケットを買うことができるものだったら、とりあえず機械的に予約したり、買ったりすればいいと思います。まずは「予定を入れちゃったからやる」というところから、初体験をこなす癖をつければ、おのずとほかのことにもチャレンジしやすくなるのかなと思います。

——自分をやらざるを得ない状況に持っていくというのは大事ですね。

羽田:人間って「変わりたくない」っていう欲望が、めちゃくちゃ強いので。初体験をしても、結局元に戻ったりして、恒常性が強いというか……。だから、小さなことでも、「やったことがないことに挑戦する」「自分が変わるかもしれない体験をする」ことに対して、腰が重くなっちゃうんですよね(笑)。機械的に予約する「えいや!」も大事だと思います。

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(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)

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