『いちばん親切な更年期の教科書【閉経完全マニュアル】』高尾美穂先生 インタビュー3・最終回

「せめて、身体のことくらい」高尾美穂さんが語る、わがままの条件

「せめて、身体のことくらい」高尾美穂さんが語る、わがままの条件

閉経前後の10年間を指す「更年期」。月経のある人にとっては、身体の大転換期とも言えるこの時期。どんなことが起こるのかわからなくて怖い、自分の身体に起きていることがわからなくて怖い……といった不安を抱えている人も少なくないのでは?

そこで、2021年10月に『いちばん親切な更年期の教科書【閉経完全マニュアル】』(世界文化社)を上梓した、産婦人科医の高尾美穂先生に、なぜ今「更年期」が注目されているのか、この時期をどのように捉えたらよいのか、お話を伺いました。全3回のインタビューの第3回です。

高尾美穂先生(写真提供:世界文化社)

高尾美穂先生(写真提供:世界文化社)

「〇〇らしく」に囲まれて

——11月には『心が揺れがちな時代に「私は私」で生きるには』(日経BP社)も発売されました。私たち(特に女性)は何かと「女性らしく」とか「母親らしく」と、誰が作ったのかわからない基準に振り回されがちです。そんな中で「自分の人生をどんな時間にしていくか、本来は自分で決められるはず」という先生の言葉に励まされる人も多いと思います。どうしてそう思うようになったのか、少し聞かせていただけませんか?

高尾美穂先生(以下、高尾):『心が揺れがちな時代に「私は私」で生きるには』は、去年始めた音声配信「高尾美穂からのリアルボイス」をまとめた本です。楽に生きるための考え方や、生活上の工夫など、私たちの人生をよりよくするための私なりのヒントを詰め込みました。

実は、この本でも「自分らしさ」とはなんだろう、を最初のテーマにしました。私であれば「女医らしい」とか「お母さんらしい」とか言われるわけですけれども、それはある意味——他人から言われるにしても、自分自身で思うにしても——ステレオタイプに当てはめた考え方ですよね。その範疇にいれば「らしい」と言われ、はみ出せば「らしくない」と言われる。

いろいろな「〇〇らしい」がありますが、「自分らしい」という言葉だけは、自分で決められるものだと思うと書きました。自分らしさって、なんだろうと考えたみたことはありますか?

——自然体でいるとか、常識に縛られずにのびのび生きる……みたいなことでしょうか。

高尾:そのように言い換えることもできるかと思います。だけど、ほとんどの人はそう思っても困ってしまうのではないでしょうか。なぜなら、社会の中では「こうあることが望ましい」という枠組みが強く、思い描く「自分らしい」部分は社会のそれと一線を画しているものが多いから。たとえば、20代で入職したら5、6年はちゃんと働いて、30代くらいになってから周囲の様子も見ながら産休を取って……というような。入職して数ヶ月で妊娠を報告すると「え? 非常識じゃない?」みたいな空気になるわけでしょう?

——そうですね、まだそういうリアクションをされると思います。

高尾:社会がイメージする「働く女性のあるべき姿」があるからですよね。ある意味、常識や、同調圧力を受け入れているから、そこから外れた人に違和感や居心地の悪さを感じるわけです。だけど、主軸を世間に置かないで「決めるのは自分だ」と思えたらどうでしょう。

計画的かどうかに関わらず、自分がその時期に産みたいと思ったのなら妊娠・出産を選べばいいわけで。どんな選択をしても、自分らしさに軸があればその先の人生は変えていけると私は考えています。その結果として、「社会人らしくない行動だ」と言われるのは甘んじて受け入れるしかない。でも、会社の中でそのような評価を受けたからといって、自分自身の人生の評価とイコールではないはずです。

わがままの条件

——その職場での自分が人生の全てではないですからね。

高尾:会社や周囲によくない評価を受けたことが、20年後にまで何か影響があるかあると思いますか? 私は全然ないと思いますよ。とはいえ私たちは「今」に囚われて、すぐ不安になってしまう。不安だから、外の評価を優先してしまいがちなんです。

そうではなく、自分自身が自分を評価して、今の自分はOKと思えるなら、それでいいじゃんと私はすごく思うのですが……。だから「わがままに生きてほしい」というメッセージを発信しているんです。

『いちばん親切な更年期の教科書』のあとがきにも書きましたが、私たちは我慢することに慣れ過ぎています。そしてそのことに、女性自身も気づいていないケースが多い。

——我慢強いことがいいことだという思い込みもあります。

高尾:社会生活の中での我慢は、——社会はすぐに変わるものではありませんから——残念ながら私たちが涙を飲むしかない場面もあります。けれど、自分の身体ぐらいは我慢から解放してあげてもいいと思いませんか?

それなのに、ピルを飲むとこう思われそうとか、ホルモン補充療法は怖いとか……よくわからない情報に惑わされてしまうと判断が揺らいでしまうんですよね。正しくない情報も多いのに。ですから、女性のみなさんに何度でもお伝えしたいのは、「正しい情報を手に入れて賢くメリットを受け取る」という強い意志を持ってほしいということ。それがわがままの条件だと思います。

身体と心は両輪

高尾:私がお伝えしている「わがままに生きる」というのは、人に迷惑をかけてもいいとか、自分自身を傷つけても構わないということではありません。自分自身を守るために、科学的・医学的に正しいスタンダードとされていることを前向きに受け入れて、それが自分にとって賢い選択であるという状態を続けること。

——それがどうしてわがままの条件なんですか?

高尾:身体の調子の良さが整っていれば、何かを手にするために何かを諦めなくてはならないという状況を回避できる可能性があるから。たとえば、妊娠したら出世は諦めなきゃいけない、とかですね。妊娠も出世も両方したっていいじゃないですか。両方手にできる自分でいるために、賢く何かを取り入れようということです。

当たり前のことなのですが、身体の不調があると心の調子も悪くなっていきます。身心一如(しんじんいちにょ)という言葉があるように、心身は互いにフィードバックし合っている。心の状態は目に見えず、調子をよく保つこともなかなか難しい、だったらまず身体ぐらいは調子良く保とうよというのが私の考え方のベースです。

今の時代は、科学的な進歩によって、身体の不調に対してはある程度の対応策があります。原因がはっきりしない病気は、心にトラブルがある可能性が高いのですが、身体に比べると心のほうは目に見えないし、アプローチしづらい。

——そうですね。

高尾:だから、まず身体の問題から対策してみて、その過程で心が良い状態を保てるようになったら、心のためにできることにも取り組んでいけるといいですよね。物事の捉え方、考え方を変えていくとか、日常的に選ぶ言葉を変えていくとか。身体の健康も、心の健康も両方、自分で守っていく。これからの長生きできる社会において、私たちが自分の望む人生を生きていくために、自分の身体のベースを作るような生活習慣を今から意識する。私は粛々とそれを伝えていきたいと思っています。

(取材・文:安次富陽子)

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