アルテイシア・太田啓子 対談 最終回

見たことがないものにはなれない? 壁を乗り越えるために必要な心構え【アルテイシア・太田啓子】

見たことがないものにはなれない? 壁を乗り越えるために必要な心構え【アルテイシア・太田啓子】

連載「○○と言われて微妙な気持ちになる私」を更新するたびに、「あるある!」と共感の嵐を巻き起こす、作家のアルテイシアさんとジェンダー問題について考える特別企画。

今回は、8月に刊行された『これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン』が話題となった、弁護士の太田啓子さんをゲストに招きました。最終回では、私たちが一度刷り込まれてしまった性差別を「学び落とす」ことの重要性、そしてこれからの社会を生き延びるためにどのような心構えが必要かについて、希望のある未来を見据えつつ語っていただきました。

大御所のハラスメントに警告を促す若手芸人

——連載1回目でアルテイシアさんが、「いまの若い男性たちを見ていると、ジェンダーロールの呪縛から解き放たれて、フラットな生き方をしているのがわかる」というお話をされていました。これから先、社会はいい方へ変わっていくと思われますか?

アルテイシアさん(以下、アル):時間はかかると思いますけど、そうあってほしいですね。彼らの話を聞いていると、いまだに会社でおじさん上司から付き合っている女性の見た目を品定めされたり、仕事のあと風俗に誘われたりといった経験をしているらしいんです。

ただ、それをとても不快に感じているし「断れることは断ります」と言っていて。ちょっとずつだけど浄化されていくかもな、と思っています。おじさんの方は一向に変わらないんだけど。

太田啓子さん(以下、太田):いまの30代が役員クラスになる頃には、自然に良くなっている可能性はあるかもしれない。でもあと20年も待ちたくないな。

アル:我々の寿命が尽きてしまって、その世界を見られないよね(笑)。でもテレビを見ていても、少しずついい方へ変わってきているのは感じていて。老害みたいな大御所芸人が「お前らホモか」と言うのに対して、若手芸人が「今どきそんなこと言うの、●●さんくらいですよ」と指摘したりしていますよね。あの絶大な権力構造のなかで先輩を注意するのって、すごく難しいことだと思うんですよ。そう考えると希望かな、と。

太田:そういうツッコミを支持する、歓迎する層が一定数いるとわかっているから、若手が大御所に注意できる流れができ始めているんでしょうね。それを見て「待ってました!」とばかりにSNSで話題になったり、応援の声が出てきたりしますし。

アル:お笑い界では特にそういう動きが顕著ですね。バービーさんをはじめとする女性芸人さんたちが、セクシズムに対して声を上げるようにもなってきている。とはいえ個人的な話をすれば、私も太田さんも、男性からものすごい嫌がらせのクソリプを受けているんですよ。「ブス」「ババア」はまだいい方で、猥褻な画像を送りつけられたり。

太田:品性を疑うようなひどい単語を連発されたりね(苦笑)。

アル:それに対して太田さんは、「この人たちも、生まれた時はふにゃふにゃのまっさらな赤ちゃんだったんだよね。なんでこんな風になってしまったんだろう、可哀想になる」と言っていて。「菩薩……」と拝んでしまいました(笑)。

太田:何周かして、本気でそう思っています。

歪んだジェンダーロールを「学び落とす」

画像はイメージです。

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アル:そういう言動を見るたび「どこで止められた?いつなら止められた?」と考えるんですけど……。やっぱり子どもの頃から有害なジェンダー観を刷り込まないようにすることが、大事なんだろうなって。オギャーと生まれた瞬間から男尊女卑の人間なんていないんだから。

太田:本当にそう思う。一度刷り込まれてしまったとしても、大人になってから自覚して変わっていく人もいるけど、それってすごく大変なんですよね。英語で「Unlearn」、日本語だと「学び落とす」という言葉があるんですけど、一度学んだものを削ぎ落とすのは大変な作業だから。まず「身につけさせない」ということに大人が注意を払うべきだと思う。

家庭でいくら注意しても社会が刷り込んでくるからこそ、私はこの本を書いたんですけど、私の力だけじゃもちろん足りないですから。

アル:それを国がやろうとしないからな……。『ボーイズ 男の子はなぜ「男らしく」育つのか』(著:レイチェル・ギーザ/翻訳:冨田直子)という名著に、「包括的性教育」について書かれていて。愛情や親密性の育みを大事にした性教育を行うことによって、支配やコントロールじゃなく、双方の敬意と充足感のある健全な男女関係が育めるようになる、というんです。

包括的性教育はオランダなどで大きな効果が出ているそうですが、そうやって国が正しい性教育をしようとするスタンスは、日本ではあと200年くらい待たないと無理なのかなって…我々はゾウガメじゃないんだけど(笑)。

太田:学習指導要領レベルで、根本から変えていかないといけないと思います。おじさんやおじいさんだけの多様性のない政治で大事なことを決めているから、見過ごされる人が出てきてしまうわけで……。

アル:それでも、太田さんの本が売れていることは希望だなと思います。

太田:ありがたいですよね。アルテイシアさんの記事だってSNSですごくバズっているじゃない。反響があるということは、この状況にうんざりしている人が多いということだから。フェミニズムの運動がこの数年でここまで伸びたのも、SNSのいい側面ではありますね。

アル:記事がバズると赤潮みたいにアンチフェミからのクソリプが発生するけど、それによってさらにバズる。「クソリパー諸君、ありがとな!」と言いたいです(笑)

私たちは、見たことがないものにはなれない

画像はイメージです。

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アル:Netflixで「ミス・レプリゼンテーション 女性差別とメディアの責任」という作品を見たんですけど、そのなかに「見えないものには、なれない」「お手本がないと、女の子はそれを目指せません」という言葉が出てくるんです。

7歳の男の子と女の子に「将来大統領になりたいか」と尋ねると半々くらいがなりたいと答えるのに対して、15歳の子達に聞いてみると、なりたいと答える女子の人数だけがガクンと下がってしまう。

太田:つまり、ロールモデルがいないからピンとこない、ということですね。

アル:そうそう。たとえばエロコンテンツの論争になると「創作物に影響なんて受けるはずないだろ」クソリプが湧いてくるけど、「『キャプテン翼』をみてサッカー始めた人、どれだけいる?」って話じゃないですか。

太田:『スラムダンク』を見てバスケを始めた人もね(笑)。少なからず影響を受けているはず。

アル:私の同級生には、女性医師や女性弁護士が主役のドラマを見て、医師や弁護士になった女性たちがいます。だから、野木亜紀子さん*みたいな脚本家に、女性総理が主役のドラマを書いてもらいたい!!

*脚本家。主な作品にテレビドラマ『MIU404』『アンナチュラル』『逃げるは恥だが役に立つ』などがある。

太田:そうそう。ロールモデルは別にフィクションでも構わないんですよ。

アル:私たちは女性の政治家はおろか、女性の管理職を目にする機会さえ少なかった。存在するとしても、特別に有能なスーパーウーマン的な女性像が多いじゃないですか。

そうじゃなく、普通の女性が結婚や出産をしながら普通に働いて管理職になる姿を見たことがないから。やっぱり「見たことのないものにはなれないし、目指せないのかな」と思うと、もどかしくなりますね。

どう切り返すかイメージからはじめて

太田:今の世代の女性たちは苦労するかもしれないけれど、宿命を背負ってしまったと思って、パイオニアになるしかないと思う。そして、それを私たちは応援していかなくてはいけないですよね。「知らないものにはなれない」「見えないものは目指せない」という話でもうひとつ言うのであれば、やはり性暴力や性差別に対して発言をできる男性のロールモデルも、もっともっと増えてほしい。

アル:カッコいいな!と男の子たちに憧れられるようなロールモデルが増えれば、同じように行動する人も増えていきますよね。

ありがたいことに、私も読者の女性から「性暴力や性差別に怒るアルテイシアさんを見て、自分も怒っていいんだと気づいた」「怒れるようになって、生きやすくなった」と感想をもらいます。

太田:よくアルテイシアさんが言っている「プーチン顔」とか「ハシビロコウ顔」とか、笑っちゃうんだけどすごく正しくて。いざ性差別的発言を受けた時って、事前に準備しておかないと適切な言動ができないんですよね。ひとそれぞれに対応しやすい方法は違うと思うので、「こういう言葉や仕草だったら、ハラスメントに対抗できるのでは?」といったマニュアルが増えていくといいですよね。

アル:日頃からトレーニングしないとできないから、天才演劇少女になりきって、みんなでハシビロコウに擬態するレッスンをしたいです(笑)。

太田:それいいですね、1時間半くらいのワークショップで身につきそう(笑)。なんにせよ、できるだけ早いうちにハラスメントに対する切り返し術を学ぶこと、そして子どもたちにも教育していくこと。それが大切だと思います。

(構成:波多野友子、イラスト:中島悠里、編集:安次富陽子)

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