「二村ヒトシ×ジェーン・スー」第3回・止

自分に課された唯一の義務は自分を幸せにすること【二村ヒトシ×ジェーン・スー】

自分に課された唯一の義務は自分を幸せにすること【二村ヒトシ×ジェーン・スー】

心の穴の形を変えていくことができるのは自分だけ

スー:穴が埋まるとか、変わることはなかなかないんですかね。

二村:欲望というものはなくならない、なくなったらつまんない人間になっちゃうと思いますけど、例えば人から愛されやすい穴の形とか、自分を苦しめない穴の形とかに変えていくことは可能だと思いますよ。それには、なんで自分は生きづらいのか、自分で考えるしかない。

スー:他者の問題じゃないってことですね。

二村:他者との関係の中でしか自分の心の穴には気づけないんだけど、助けてくれるのは他者じゃない。

スー:標語にして貼っておきたい言葉です。他者はそばにいたり慰めたりはできるけど、苦しみから解放できるのは自分自身だけ。今はコロナもあって内にこもりやすい時期だから、自分と向き合うのにいい季節かもしれない。

私は、「他人の欲望にのっかっても自分は幸せになれない」というところまではわかったので、次は自分の欲望の形を知りたいんです。男の人は、自分の欲望がどこまで解放されているか、世間にどの程度受容されているか、だいたいわかってる。うらやましいです。

二村:恵まれてる男性は、そこに自分がゲタ履いてること自覚しないとですね。自分の加害者性をわかってる男となら、傷つくことなく、虐待搾取されることなく信頼のもとに関係できる。

自分の人生の課題である欲望に取り組むために、どんなことをやりたいのか。そのことを相手と話せるか、相手の欲望について同じように尊重できるか。例えば子供を産みたいとか絶対に産みたくないとか、それも本能じゃなくて「欲望」ですよ。生まれた子供を育てるのも半分は義務だけど半分は欲望。だから子供の心には必ず穴があいて、それで子供は人間になる。

欲望は他人を必ず傷つけるんだから、だからこそ他人との対話が必要なんです。欲望の擦(す)り合わせと言ってもいい。あなたと一緒に生きていくんだから、ここまでは許せるけど、ここから先はつらいとか。傷つけたときは「ごめんなさい」って言うとか。微調整しながら、いいバランスでお互いの欲望を満たしていけるのが「セックスがうまい」とか「恋愛がうまい」ってことなんじゃないですかね。心の穴のかたちに注意して自分の安全を確保しつつ、自分と他人の欲望に敬意を払うってことです。

あと、この人と一緒にいても傷つくし傷つけるだけだって思ったら、お互いに傷を残さないよううまく別れるとかね。恋愛がうまくなるってことは、幸せになるってことだから。

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スー:おっしゃる通りだと思います。自分は被害者でも加害者でもあることを認識して、自己をひとつに固定しないだけでも動きやすさは変わってくるでしょうね。私自身も30代半ばで被害者になろうとするのを意識的にやめました。

二村:社会的地位のある男だって、偉そうな顔をしてないで自分の心の穴をちゃんと認めて、失敗したときだけ同情引くために記者会見とかで“男泣き”するんじゃなくて、ふとしたときに自分の人生を思ってシクシク泣けばいいと思うんだよね。

女の人には、自分は何に興奮するとか、欲望を満たして心を癒(いや)すために何が必要かとか、そういうことを信用できる他人と共に検討できるような場が、もっとあればいいと思う。腐女子の人たち同士はそういうことを話せているようですよね。

スー:彼女たちはそこすごく自覚的ですよね。うらやましい。

二村:フェミニズムをわかっている腐女子の人たちは、自分たちにも加害の可能性があることもちゃんと認識してる。ポルノを消費している時点で加害だからね。

スーさんもさっき言ったけど、認めると整合性つかない場合でも、認めていいって僕は思う。あるときは加害者である人が、あるときは自分が受けた被害の不当さを訴えればいい。自分が加害者になることを恐れないで、自分の欲望の話をすればいい。

セックスって、好きになった同士で丁寧にやればすごく上達するし、喜んでもらえる。丁寧にっていうのは、いきなり自分の欲望を押し付けるんじゃなく、まず相手の隠された欲望に興味をもたなくちゃいけない。土足で入ってくんじゃなくて、優しく探らなくちゃいけない。「男はこうすれば喜ぶんだろ」「女はこうすれば喜ぶんだろ」ってマニュアル通りにやってもしらけるだけです。じゃあどうするのかっていうと、つまり、当たり前だけど他人は人間なんだって尊重する。ここから始まります。

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【第1回】自分の傷に無自覚だとどうなる?中年クライシスと「心の穴」の関係
【第2回】「弱さ」を見せるのは男らしくない、「欲望」を語るのは女らしくない?

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