『足をどかしてくれませんか。』トークショー・後編

「女性専用車両を使う女は自意識過剰」を再生産してしまうテレビの罪

「女性専用車両を使う女は自意識過剰」を再生産してしまうテレビの罪

エッセイストやタレントとして活躍中の小島慶子(こじま・けいこ)さんと、BUSINESS INSIDER JAPAN統括編集長の浜田敬子(はまだ・けいこ)さんが執筆に参加した『足をどかしてくれませんか。―メディアは女たちの声を届けているか』(亜紀書房)の出版記念イベントが、2月4日に「代官山 蔦屋書店」(東京都渋谷区)で開催されました。

日本のメディアの現状について、インサイダーでもある2人が熱く語ったイベントの様子を、前後編にわたってお届けします。

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作り手がイメージする女性像が、視聴者にインストールされる

小島慶子さん(以下、小島):メディアの変化で、ひとつ潮目になったことが、2018年に起きた財務事務次官によるテレビ局の女性記者に対するセクハラ事件でした。この事件をきっかけに、いろいろなメディアで女性記者たちが連帯して、同時多発的にものすごく頑張ったんです。するとようやく、「#MeToo」やセクハラ問題が熱心に取り上げられるようになり、あらゆるハラスメントに報道の監視が向くようになったんですね。

それまでは、「女性が働くこと=ハラスメントに耐えること」だったけど、それは当たり前じゃないよね? と、一気にハラスメントをニュースで取り上げる頻度が上がった。今まで散々、苦しい思いをしてきた女性たちが、「今を逃したら、このままあと何十年間かはセクハラが当たり前の時代を生きていかないといけない。今こそ、変えるんだ!」と頑張ったことが大きかったですよね。

小島慶子さん

小島慶子さん

浜田敬子さん(以下、浜田):そうですね。「ヤレる女子大ランキング」を掲載した『週刊SPA!』に対して、ICUの学生さんたちが抗議したときに、『報道ステーション』がトップで取り上げたことにビックリして。価値のあるニュースだと思ったんでしょうね。

だけど、本質的に分かっているプロデューサーやディレクターがいなければ、戻るのは簡単だと思っていて。女性専用車両問題*みたいに、いつでもヒュッと入ってきちゃう。そのときも案の定、炎上しましたが、局内では「炎上しちゃった、テヘ(笑)」くらいの反応だったそうですよ。

* 2020年1月にTBSやテレビ朝日の情報番組で電車の女性専用車両でのトラブルや「女性専用車両に乗りたくない女性たちが増えている」といった特集が相次いで放映された。ネット上では「トラブルは一般車両でも起きる」「専用車両をネタにした女性たたき」などと炎上した。

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小島:さっきも言ったように、男性の作り手が多いと、「その話はもういいじゃん」となって、どんどん話題に上がらなくなる。そして、簡単に戻ってしまう。

浜田:やり口として汚いのは、そういった問題を取り上げたときに、女性に批判させるんです。男性は女性同士をリングの上で戦わせて、その周りで観客として見ているという構図をよく作るんです。

小島:女性が批判しているのだから、男性から女性への攻撃ではないと。すごく悲しいのは、メディアには影響力があるので、例えば、「女性専用車両を使う女は、自意識過剰だ」と発言した女性をテレビで見ると、自身の中に内面化してしまうんです。

つまり、作り手側が女性に言わせた意見が、視聴者の女性に内面化されてしまうことによって、作り手がイメージする女性像がリアルにインストールされてしまうという作用があります。テレビは、それを無自覚にやってしまうところがあって……。態度のモデルとして、人々に内面化されて、世の中で再生産されてしまうんですね。

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テレビの影響力は侮れない

小島:私がどの番組に出演しても気を付けていることは、「世の中にはテレビしか見ない人がいる。今でもまだテレビの情報が世の中の全てだと思っている人もいる」ということ。だから、他愛ないトークの中でも、その人たちに知ってもらいたいことを、無理やりにでも入れようと意地になってやっているんです。

テレビだけの世界の人がいて、テレビで知ったことを「世の中はこういうものだ」と悪気なく信じて、投票に行ったり、何か発言したりすることが、私たちの暮らす世界をつくってしまう。だから、テレビの影響力は侮れないと思います。

浜田:私がコメンテーターとして出演している『モーニングショー』では、参院選の動向や消費税、中東問題、米中貿易摩擦といった難しい問題をパネルで紹介するんですが、視聴率がすごく良いんです。視聴者の中には、難しい問題の内容を分かりやすく知りたいという欲求があると思っています。

ところが、選挙の話題でアイドルを登場させて、権威のある教授が教えてあげるという構図もしばしばありますよね。「ここが分からない」というところをきちんと説明することが大切なのに、若くてかわいいアイドルを入れてくる。視聴者への歩み寄り方が間違ってるんですよね。

浜田敬子さん

浜田敬子さん

“デキるサラリーマン”がコンテンツを劣化させてる?

浜田:小島さんは、今後、テレビはどうなっていくと思いますか? テレビの未来についてどうお考えですか?

小島:私は、職場の構造を変えないと、テレビの未来はないんじゃないかなと思っています。まず、内部事情をお話すると、テレビ局の正社員は、給料が高いから、なかなか辞められないんです。世間よりも高い給料をもらって、福利厚生が充実していて、子育てと両立できる環境は他にはなかなかないので、冒険ができない。ジャーナリストとしての使命よりも、組織の内輪の事情や理論のほうが優先されてしまうことが多々あるのかなと思っています。

でも、「それで本当に健全なジャーナリズムは育つのかな?」と、かねがね疑問に思っていますね。優秀なサラリーマンであることと、優秀なジャーナリスト、クリエイターであることは両立しないことが多い。サラリーマン的なメンタリティーであればあるほど、会社の理屈を取ってしまう。そういった会社員の習性が、テレビのコンテンツを時代遅れにしている面はあると思いますね。

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世の中に敏感でなくても生き残れる業界

浜田:私は仕事柄、「企業の最先端で何が起きているのか?」ということを取材することが多いのですが、企業は消費者の動向に敏感なので、何か問題が起きれば自浄作用が働きますし、そういった企業には優秀な人材が入ってくる。

ところが、テレビ局や新聞社は免許制なので、守られているでしょう? 世の中の動向に敏感じゃなくても、優秀な人材が入ってくるので、生き残っていけるんです。台風の目の中にスポッと入っているみたいに、世の中のことをまったく感じていないなと思います。

小島:確かにそうですね。聞くところによるとテレビ黄金期はお金の使い方もめちゃくちゃだったそうで、「予算内で仕事をしなければならないんだな」と気が付いたのは、2000年代。コンプライアンスが当たり前になったのは、ここ20年くらい。そういう意味で言ったら、やっと最近、普通の企業になってきたと思いますね。

私も昔は、「私はメディアの最先端にいるから、視野も広いし、物事も知ってるんだよね」と思い上がっていましたが、子供を保育園に通わせるようになってから、自分の世界がいかに狭かったかを思い知りました。男性であれ女性であれ、外の世界で、手も足も出ないという経験をするということが、視野を広げる第一歩かなと思います。

それと、視聴者の方には、良いと思った番組を、「良かった」と放送局に伝えてほしいですね。テレビの作り手側も「何がウケるのか」という不安を抱えているので、良い番組だったら「良かった」と伝えてほしいし、SNSで拡散してほしい。褒められると作り手の励みになると思います。やっぱり、たたかれるだけだとやる気をなくしてしまうので……。

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浜田:テレビは、外の世界がビュンビュン変わっていることに気が付いていないかもしれませんね。昔のテレビの面白さに引きずられて、ビクビクしなくてもいいと思う。NHKの『ドキュメント72時間』だって『サラメシ』だって、映像(え)は地味かもしれないけど面白いじゃないですか。私はこれからのテレビは進化してほしいと期待しています。

面白いのが、「普段はテレビを見てません」って言ってるスタートアップの社長が、テレビ局からお呼びがかかると、「明日、テレビに出ます!」って宣伝してるところ(笑)。

やっぱり、みんなテレビに出たいし、テレビはそれだけ魅力も魔力もあるんだなと思いますね。

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【前編は…】それでも女性の数を増やしたほうがいい理由

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