子役時代から注目を浴び、女優として既に20年以上のキャリアを持つ鈴木杏さん(31)。映画『花とアリス』(2004年)、『軽蔑』(2011年)などで個性的なヒロインを演じてきた鈴木さんですが、6月30日から公開される主演作『明日にかける橋』では、地方都市で暮らす一見平凡な30代OL・みゆきを演じ、振り幅の広さを見せています。
「今日を生きていくために、いろんなことを諦めた人」と、みゆきを分析する鈴木さん。『明日にかける橋』は、そんなみゆきが過去にタイムスリップし、かつての自分が忘れていたもの、諦めたものを取り戻していく物語です。
昨年30代の仲間入りを果たした鈴木さん自身は、30歳になってから「諦めがついた」と言います。その言葉の真意とは? お話をうかがいました。
演じたのは「いろいろなことを諦めた」ヒロイン
——映画『明日にかける橋』は静岡県の小さな町が舞台。主人公・みゆきはバブル景気に湧いた時期に高校生活を送りますが、ある事件をきかけに家族がバラバラになったり、バブル崩壊の煽りをうけて暮らし向きが厳しくなったりと、つらい経験をしてきた女性です。どんなふうにこの役を捉えて演じたのでしょうか?
鈴木杏さん(以下、鈴木):台本を読んだとき、家族を支えるために仕事もしなきゃいけないし、「今日」を生きていくために、いろいろなことを諦めた人なのかなという印象を持ちました。
たとえば恋愛だったり、自分自身の幸せみたいなことだったり。「これが人生なんだよね」というセリフが出てくるんですけど、「何も変えることなんかできない」と思って過ごしてる人なのかなと思って演じました。
——そんなみゆきが同僚たちと“願いが叶う”と伝えられる「明日橋」を渡ったことで、高校時代にタイムスリップしてしまいます。
鈴木:過去の家族に会って知らなかった彼らの一面を見たり、高校時代の自分と再会したりして、忘れてしまっていた部分や諦めていたものを引き出してもらうんです。
——ドラマ「青い鳥」や映画『花とアリス』などで制服姿の10代の鈴木さんを見てきた者としては、みゆきが高校生の自分と対峙するシーンは感慨深いものがありました。高校生の女優さんたちとのお仕事はいかがでしたか?
鈴木:(高校生のみゆきを演じた)越後はる香ちゃんや、(高校生のみゆきの友人役の)長澤凛ちゃんは映画出演が初めて。でも、そうは見えないほど堂々としていました。大人のみゆきが高校生のみゆきを見たとき、「あのときの自分はしっかりしてたんだな」と感じるんですけど、私自身も感心するばかり。そうと思えば、休憩中にサインを考えていたり(笑)、初々しさがありながらも頼もしいなと思いました。
この作品の現場では、田中美里さんや板尾創路さん、藤田朋子さんたちがいて、年齢的に私はちょうど真ん中だったんです。これまでは下に近い年齢だったので、真ん中ってあまり経験したことがなかったので、すごく新鮮でした。
30歳になることに憧れてた
——高校時代のみゆきは、高校時代、世間の「常識」に疑問を持ち、大人にもしっかり意見する女の子でした。鈴木さんは、ずっと芸能界で大人に囲まれて仕事をしてきたわけですが、みゆきのような反抗期はなかったのでしょうか?
鈴木:忙しかったこともあって、大きくドッカン! みたいな反抗期はなかった気がする。なんとも言えない感じなんですけど、思春期のモヤモヤみたいなものって、私の場合は10代より20代後半のほうが大きかったかもしれないです。
——30歳の誕生日の日のブログに、「長かった20代」「憧れの三十路」と書かれていましたよね。20代後半のモヤモヤと何か関係がありますか?
鈴木:20代後半は、子どもの部分はすごく子どもなのに、大人としても認識される年齢だし、とはいえ、自由かというと、生きていく上での物事の経験がまだ追いついてない。どっちつかずというか、自分の中ですごくもどかしさがあったんです。でも、30歳になったら一気に抜けたんです。諦めがついたというか。
——どういうことですか?
鈴木:ざっくり言うと、自己肯定力の低さみたいなところだと思うんです。「部屋の掃除が得意か?」と言われるとそうじゃないとか、「一週間のはじめに作り置きをちゃんとして、毎日お弁当を持って現場に行けるか」というと、「いや、できないな」とか(笑)。
そういう、他人と比べて自分が劣ってることのちょっとした積み重ねで、できないことがあるのを許しちゃいけない気がしたし、許せない部分もあった。でも、30歳になって「できるときにできたら、それでいい」という考え方にチェンジしていったら、少しずつ肩の力が抜けてきました。
できないこともひとりの人間の“味”。むしろできることを深めて豊かにしていったほうがいいんじゃないかなといました。体力も含めて、フレキシブルに動ける時期ってたぶん30代がピークだから、できないことにとらわれてウジウジしてる時間はないような気がしてきたんです。
30代は「常磐道を走ってるような快適さ」
——女性に話を聞いていると、「20代後半にモヤモヤした」という人は多いですよね。「30歳を過ぎると何かが終わる」みたいな根拠のない不安があるのかなと感じます。
鈴木:2歳上の友だちから、「30代の常磐道を走ってるような快適さを早く味わってほしい」って言われていて(笑)、今はすごく「わかる!」って思います。ちなみにそれを言ったのは蒼井優ちゃんなんですけど。「30になったらすごい楽だから! ホント、常磐道だから!」って(笑)。
社会的にも、いろいろなことが自分の責任になって、自分で自分の責任をどうとっていくかという年齢になるので、シビアではあるけど、それも楽になった原因のひとつかなと思います。
映画『明日にかける橋 1989年の想い出』は6月30日(土)より東京・有楽町スバル座、8月11日にテアトル梅田、9月1日より静岡県内ほかにて全国順次公開。(C)「明日にかける橋」フィルムパートナーズ
■ 初日舞台挨拶決定!
6月30日(土)10:30からの回上映後に初日舞台挨拶を実施します。
舞台挨拶登壇者(予定):鈴木杏、田中美里、越後はる香、藤田朋子、太田隆文監督
会場:有楽町スバル座(千代田区有楽町1-10-1 有楽町ビルヂング内)
※後編は6月30日(土)掲載です。
(聞き手:新田理恵、写真:宇高尚弘/HEADS、ヘアメイク:宮本愛/yosine.、スタイリスト:小山よし子)