イラストレーター・あらいぴろよさんインタビュー前編

「何者か」になりたくてもがいてしまう… “イタい自分”との付き合い方

「何者か」になりたくてもがいてしまう… “イタい自分”との付き合い方

努力して、ちゃんとやりたいことをやっている。それなのに、満たされない……。ふとした瞬間に、なんとなく不安になることってありませんか?

コミックエッセイ『“隠れビッチ”やってました。』(光文社)で話題を呼んだイラストレーターのあらいぴろよさんも、「何者か」になりたくてあがいていた時期があったと言います。そんな自分を深く掘り下げた最新刊『美大とかに行けたら、もっといい人生だったのかな。』(光文社)で描かれた「イタい自分」との付き合い方についてお話をうかがいました。

「正攻法以外の抜け道が必ずある」と、あらいさん。

「正攻法以外の抜け道が必ずある」と、あらいさん。

自分に向いてないものを欲しがるから苦しい

——デザイン会社に勤務していたころ、イラストレーターになりたいのになれなくてもがいていたそうですね。

あらいぴろよさん(以下、あらい):そうなんです。蛯原あきらさんみたいなおしゃれなイラストレーターになるコネを求めてデザイン会社に入ったのに、なんで私こんな仕事しているの!?と、日々悶々としていました。業務の中にはエロ系の仕事もあったので、「なんで私が乳首の色とか気にしなくちゃいけないんだよ……!」とどこか気持ち半分でやっているところがあって、今考えると本当に失礼な仕事ぶりだったと思います。

——蛯原あきらさんのイラストは女性誌などでよく見かけますし、確かにおしゃれですね。

あらい:お恥ずかしいことに、当時は「私でも描けそう」って思ってたんですよ……。実際に描いてみてはじめて自分の実力の低さと蛯原さんのすごさを思い知るんですけど、当時は憧れだけが先行していて、何も見えていなかったんですね。見る余裕がなかったというか。見えてないから「なれるかなれないか」じゃなくて「なるつもり」でいて、結局それは自分に向いてないものを欲しがっていただけだから、いつまでたっても同じ場所をぐるぐるしているようで苦しかったです。

——憧れはあるけど手段がわからないときって、なんでもチャンスに見えますよね。だからすぐ飛びつくんだけど……。

あらい:飛びつくけど、結局手段が伴わないからつまずいてしまう(苦笑)。

——あらいさんの本全般に言えることですが、つまずいたときに努力だけでカバーしようとするのではなく、いったん立ち止まって考えてみるのが面白いです。

あらい:私は「違うアプローチないかな」「抜け道ないかな」と考えるタイプなのかもしれません。「美大とか行けたら」と思ってしまうのは、自分には正攻法の道はないとわかっているから。だから、目指す場所に行くには抜け道を探さなきゃいけないと常々思っているんです。

昔、勤めていた職場にはすごく絵が上手い人がいたんですが、今以上の場所に行こうとしない人が多くて。それで、「こんなに絵が上手いんだから、フリーランスになればいいのに、なんで踏み出さないんだろう」と感じて。そのときに「営業さえ上手くできれば、私にも歩き出せる抜け道みたいなものがあるのでは!?」と思ったんです。上手さでは勝てないから、営業とかスピードとか締め切りを守るとか、そういう方向で勝負しようと。

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イタさを「成長痛」だと思ってもがききるしかない

——絵が上手いのに一歩踏み出せない方の気持ちもわかります。本書にも「自分のつくったものが誰かに0か100で評価されて、一方的に無価値にされるのが怖い」と描かれていますが、他人からの評価は怖いですよね。つくったものだけでなく、自分自身を評価されたように感じてしまうとさらにツラいです。

あらい:ツラいですよね、本当に。でも、イラストレーターになりたい人はたくさんいて、みんな何かを欲しがってるから、そこを抜けるためには進むしかないんです。そうはいっても、フリーになるときは悩みましたね……。ただ、悩んでいるとき、上司に「おまえ、ホントにいいのか? 自分のつくったものを出す場がなくなるんだぞ?」「世の中甘くないぞ?」みたいなことを言われたんですよ。「んなこたぁ知ってるわ!!」、「この上司のもとにいたくないわ!」って辞める決心がつきました。上司さん、あのときは背中を押してくれてありがとうございます(笑)。

——思わぬきっかけになったと(笑)。

あらい:きっかけは、自分でつくらなくてもふとしたときに訪れたりしますよね。それを生かすのもありだし、見過ごすのもあり。そうやって無意識にいくつもの選択をして、そのせいでツラかったり苦しかったりしたこともあるけど、それは「成長痛」だったと今では思えます。

——今ならそう思えても、渦中にいるときはそれがわからないんですよね。

あらい:そうそう、だから「イタい」んですよね……。でも、成長痛だと思ってもがききるしかないですよ! どん底を経験しないと進めないから。浅瀬でもがいているときはパニックになったりもするんですが、沈みきると「あーこれ以上落ちられないなー。じゃあ、もうやるしかないな」って静観できる、というのが私の経験則です。

——浅瀬でもがいているときというのは、石橋をたたきまくって渡らない、みたいな状況でしょうか。

あらい:そうです! で、たたきまくった結果、石橋がヒビだらけで危なくってもう渡れない(笑)。そうなったら壊すしかないですよね。落ちるのももはや一興、それでも「渡るぞ!」って思えばいいのではないでしょうか。

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後編は4月19日(木)公開予定です。
(取材・文:須田奈津妃)

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