精神科医・名越康文さんインタビュー後編

「自分さえ頑張れば丸く収まる」と思いがちな貴女へ 楽しく自分を解放する方法

「自分さえ頑張れば丸く収まる」と思いがちな貴女へ 楽しく自分を解放する方法

ある程度キャリアも積んできて、使えるお金も増えて、それなりに自由なウートピ世代の女性たち。大きな不満はないけれど、ふとした瞬間に「あれ、このままでいいんだっけ?」と思うこともあるはず。

昔はもっと何を見ても新鮮で、ワクワクしていたはずなのに……。

「私の好奇心、どこ行っちゃったんだろう?」そんな疑問を携えて、先月『生きるのが“ふっと”楽になる13のことば』(朝日新聞出版)を上梓した、精神科医の名越康文(なこし・やすふみ)さんに話を聞きに行きました。

後編は、好奇心を持つためのコツについて伺います。

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私の「好奇心」はどこに消えたの?

——個人的な相談になるのですが、社会人を10年くらいやってきて、昔より好奇心が薄れている気がするんです。「私の好奇心はどこに消えた!?」って感じで。

名越康文さん(以下、名越):それはご多用だからでしょうね。あなたと比べたら僕は全然暇だから(笑)。でもね、50歳を過ぎた頃から好奇心が以前より旺盛になって困っているんです。やりたいことがどんどん出てくる。

——どうしたら名越先生のように好奇心が湧き出るようになりますか?

名越:ひとつは環境。まず、拘束されることかな。

——んん? 拘束ですか?

名越:この取材に来る前、映画の試写に行きました。話題の作品ということもあって満員だったんですよ。狭いところに人がひしめき合っているから、身動きがとりにくくて。もう、ひたすらスクリーンを見ていた。

映画を観るのにDVDもいいんだけど、途中でスマホを見てしまうとか、家には誘惑も多い。好奇心には欠落感が必要なんやけど、欠落感って普通は嫌な感じのするものなんです。自由な状況の中にいれば、逃げたり、はぐらかしたりできちゃう。だから、数十分でも逃げられない状況に身を置いてみるといい。

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時代遅れを恐れない

——確かに。映画館だと逃げられませんね。

名越:そう。映画館って不自由な場所なんですよ。足元は暗いし、咳をするのも気をつけないといけないし、袋がガサガサ鳴ったら迷惑になるし。画面に集中するしかない。

「うわー、この恋愛ツラすぎる。もう観たくない」って思っても、最後まで観ちゃうよね。そのうちに、「悲劇なのに主人公はスッキリした顔をしているな。何で、どうして? 私にはわからない……」って、自分には理解できないと思いながらも涙を流していたりしてね。欠落感の後に、“なぜ”や、感動がくるんです。

——家だと、「もう観たくない」と思った瞬間に停止ボタンを押せますね。WEBの編集の仕事って、スピードが速いから「常にアンテナを張って、次の企画になるものを……」と思うのですが、どちらかというと義務感が強くて。

名越:わかる。僕にもそれはすごくわかりますよ。その解決法は、時代遅れになることやね。

——時代遅れ……?

名越:時代遅れになっても構わないと思えるほど「時代よりももっと好きなもの」がひとつあったらいい。例えば、僕だったら仏教の研究や音楽。僕が作る音楽はジャズとブルースとロック。時代遅れです。でも、それを作っているのが楽しくて、ドキドキして、恐怖で、やめられないんですよね。

地味なことでいいんです。「自宅にちょっとずつサボテンを増やす」でもいい。そういうのありませんか? 2週間のうち13日は一生懸命役目を果たすんだけど、1日だけはどうしてもこれがやりたいって、うずうずしてくるような。

——本来の自分に戻る時間、みたいなことですか?

名越:つまりね、人間が生きていこうって思えるのは、学ぶことが楽しい時だけなんですよ。例えば、料理をしたくなる。そしたら、新しい料理を覚えたり、違う食材を使う工夫をしてみたりするでしょ。そういうのって全部学んでいるんですよ。楽しいから学んでいるっていう意識がないんやけど。

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楽しんで学ぶことに罪悪感は必要ない

——学びと聞くと、楽しい中にもツラさを伴うべきみたいなイメージがあります。苦しい時を耐えて成長する、みたいな。

名越:日本人やなぁ! 学ぶことってツラいこと、苦しいことって感じるのは、これまでの刷り込みだという気がするな。

——仕事もそうです。楽しいんですけど、楽しくていいのかなって、たまに思います。

名越:それはあなたにかかった呪縛やね。解いていきましょう。

——解かれたいです!

名越:僕らは何かしら刷り込まれているんですよね。勉強は苦しい、でもやらなければいけない。家事は大変だ、でもやらなければいけない、と。アリとキリギリスの話も微妙にそうかも知れない。最後はコツコツ頑張ったアリが勝つんだ!みたいな。でも、キリギリスがバリバリ仕事してたら一番ええと思わん?

——そうですね。

名越:僕だって、仕事をしていて「こんなに楽しんでいいのかな」と思う時があります。でもね、それは余裕があるって時なんですよ。それで、余裕があるのなら、その分人の手助けをしたらいいんです。

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人の手助けをしたら解放される

——手助け?

名越:そう。人を助けたら罪悪感が減りますよ。そうなると、楽しいことをする、人助けをしていわばギルティフリーになる、また楽しいことをする、また人助けをしたくなるっていう循環ができるんです。そうして罪悪感が薄れて、自分が解放される。

——その方法は今までの視点になかったです。基本的に自分の悩みは自分が努力して乗り越えるべきだと思っていたというか……。自分さえ我慢すれば、自分が成長すれば、って。

名越:わかります。そうやって内に入っていく人もいるよね。仕事をもっと完璧にしようとか。でもそっちじゃなくて、ある程度自分が落ち着いてきたら、内面が充実してきたら、それまでの経験値から人が困っていることに気づく。そこでちょっとだけ助言したり、手助けしてあげたりね。ただ、その時は全面的にやってあげちゃうと相手の成長を奪ってしまうから気をつけないとあかんよ。

——ちょっとわかる気がします。押し付けがましくなると、余計なお世話と紙一重な感じ。

名越:その通りやね。どんなに正しいことでも、自分のためだとわかっていても、人は他人から与えられたものは嫌なの。僕が高校生の頃、仲のいい友人に「この映画は観たらいいよ、絶対感動するから」って言われたことがあって。それは僕が映画好きだから、良かれと思ってまったく善意でなんだけど、僕はそれから30年、その映画を観なかった。

——なぜですか?

名越:言われた瞬間にふっと好奇心が無くなってしまったのかな。「絶対感動するよ」なんて結論を言われちゃっているから。これはまあ僕が天邪鬼だから友達のせいでは決してないんだけど。一般的にいうと、もう相手が大人なら特に、そこに至る主体性の芽を摘むのは相手のためとは言えないことがあるよね。

——主体性の芽を摘む。

名越:例えば僕が誰かに「私、こんな知識をつけたいんです。どんな本を読んだらいいですか」と具体的に聞かれたら「ほんならこれ」と伝えるよ。でも、そうじゃない限りは「あれを読みなさい」とは滅多に言わない。それぐらい主体性って大切やし、一瞬で奪われるものなの。

——あ……。最後に、この本の中でオススメの章を聞こうと思ったんですけど、そう言われたらもう聞けませんね(苦笑)。

名越:そうそう。勧めたらその人はもう読まない(笑)。あえて言うならば、トランプのカードを引くみたいに、パッと開いて引っかかるところを読む、みたいなことをしてもらえたら嬉しいです。

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(取材・文:ウートピ編集部 安次富陽子、撮影:青木勇太)

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