風邪の対策に漢方薬を試そうと思い、漢方専門医で臨床内科専門医、また消化器内視鏡専門医でもある吉田クリニック(大阪府八尾市)の吉田裕彦院長に、「風邪の場合は葛根湯を飲めばいいのですよね」と聞いてみたところ、「そうとは限りません。風邪対策の漢方薬は複数存在します。どんな人、どんな症状でもいつでも葛根湯が効果的と考えるのは間違いです。症状や体格、体質によって自分に合った薬を選ぶ必要があります」という返答がありました。
では、どのようにして適切な漢方薬を選べばよいのでしょうか。詳しいお話を聞いてみました。
葛根湯は体格ががっちりめで体力がある人に
吉田医師はまず、漢方薬の選び方について次のように説明します。
「風邪に限らずどの症状でも、漢方では自分の体質や体格に合うものを考えます。体力や気力の状態、体型ががっちりしているか細身であるか、顔色は良いか悪いか、冷えやすいか熱しやすいかといったこと、そして、風邪なら咳が激しい、鼻水がつらい、おなかの調子が悪い、微熱があるなどの症状を考え合わせて選びましょう。
葛根湯の場合は体格がややがっちりしていて体力がある人に向くので、例えば、スリムで日ごろから血色が良くなく、疲れやすい人でなかなか風邪が治りにくい場合は、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)、またそういった人が鼻水の症状がきつい場合は小青竜湯(しょうせいりゅうとう)を試すなどと考えていきます」
風邪対策と言えば葛根湯と思いがちなのはCMなどによる影響かもしれません。漢方薬の選択肢は、体質や体格、症状によって複数あるということです。では次に、具体的な漢方薬が向く体格や体質、症状の特徴を吉田医師に挙げてもらいました。
<葛根湯(かっこんとう)>
・体格や体質:中肉中背、ややがっちり体型、比較的体力がある、食欲がある。
・症状:寒気を伴う風邪のひきはじめ、首や肩のこりがひどい、うなじや背中がはる、頭痛がする。
・働き:体を温める作用があり、症状を和らげる。
<補中益気湯(ほちゅうえっきとう)>
・体格や体質:体力、気力があまりない、ストレスが多く疲れやすい、日頃から胃腸が弱い。
・症状:下痢や胃痛を伴う風邪。
・働き:「中」は胃腸を指し、胃腸の働きを整えて気力を生み出し、抵抗力をつけるように働く。
<小青竜湯(しょうせいりゅうとう)>
・体格や体質:細身で体力や気力があまりない、血色が悪くて日ごろから水分代謝が悪く胃腸が弱い、体が冷えぎみ、むくみやすい。
・症状:水っぽいタンが出るせき、鼻水、花粉症などアレルギー性鼻炎。
・働き:葛根湯より体を温める作用が強く、水分を排出するように働く。
<麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)>
・体格や体質:女性、中年以上に見られやすい、体力がなくて細めの体型、病後、日ごろから手足が冷えやすい。
・症状:鼻づまり、頭痛、吐き気、咳、のどが痛い、熱はない風邪。
・働き:体を温める作用が葛根湯より強く、発汗を促す。
<麦門冬湯(ばくもんどうとう)>
・体格や体質:体力があまりない、日ごろから、皮膚が乾燥し下痢をしていない。
・症状:のどがからからと乾く、から咳がある、痰(たん)が切れない、咳がひどい風邪。
・働き:乾燥を防ぐために、粘膜や気道を潤すように働く。
<柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)>
・体格や体質:やせ型で体力がなくて疲れやすい、日ごろから、食欲があまりなく、寝汗をかきやすい。
・症状:こじらせて長引いている、風邪の中期から後期で、胸やわき腹が苦しく、胃に不快感がある、頭痛がある、寝汗や汗をかきやすい。
・働き:胸の症状と消化器症状、頭痛や発汗を和らげるように働く。
<麻黄湯(まおうとう)>
・体格や体質:がっちりした体型、メタボリック・シンドロームや肥満、肥満気味で、日ごろから食欲がおう盛、汗をかきやすい。
・症状:風邪のひきはじめで、悪寒がある。鼻が出て熱があり、体のふしぶしが痛むが汗が出ない。
・働き:体を温め、発熱作用を促すように働く。抗インフルエンザ薬とともに使用されることもある。
CMや情報源が不明のウェブ記事をうのみにしない
適した漢方薬を選ぶには、普段から自分の体調の傾向や弱み、例えば、疲れやすい、ストレスに弱い、睡眠不足がこたえる、むくみやすい、おなかをこわしやすいなどに関心をもっておくことが重要であるようです。
吉田医師は、セルフケアの際に医師から見た注意について次のようにアドバイスをします。
「体調の変化に気づきやすくなると、早めに手当てを始めることができます。ただし、自分の体力や体調への過信、また、CMや情報源が不明のウェブ記事をうのみにしないようにしましょう。
市販薬のパッケージには、向く体格や体質、症状についての記述があります。よく読んで参考にしましょう。迷ったときには必ず、薬剤師に聞いてください。また、服用しても症状が治まらない、症状が3日以上続いている、だんだん症状がひどくなるなどと異変を感じたときは早めに内科を受診しましょう」
漢方薬を選ぶことは自分の体の声に耳を傾ける行為でもあるようです。万病のもとといわれる風邪を長引かせないように、そのときどきの症状をよく見つめ、薬剤師や医師に相談しながら適切な薬を選びたいものです。
(取材・文 ふくいみちこ × ユンブル)