産んだら「今の自由がなくなっちゃうんじゃないの?」「やりたいことを諦めなきゃいけないの?」産みどきに迷う働き女子なら誰もが感じる疑問。
オフィス移転支援を通じて「働く場」と「働き方」を提案する「ヒトカラメディア」で、同僚から“おかん”と呼ばれる、杉浦那緒子(すぎうら・なおこ)さん。杉浦さんは、「子どもがいるからできない」を「子どもがいるからできる」に変えたいと、自身もデュアルスクールに挑戦するなど、日々奮闘しています。
後半は、杉浦さんに、自分も周りもハッピーにする働き方について聞きました。
前編:バリキャリにも専業主婦にもなれない…中途半端を乗り越えるまで
「天秤」にかけることをやめた
——ひとつの会社で勤め上げる時代じゃないとはいえ、杉浦さんのように、正社員のほかに、パート、スタートアップのメンバー、フリーランスなど、働き方を転々としているのは珍しいなと思います。一番しっくりきた働き方ってありますか?
杉浦那緒子さん(以下、杉浦):今が一番、しっくりきています。フリーランスの方が時間を自由に使えるようにも思いますが、「黒字化って大変!」と頭を抱えたり、収支を考えつつ、やってくる仕事をコントロールすることの厳しさもあったりして。意外とのびのびはしていない。
——細かい事務作業や確定申告もしなきゃいけないですしね。
杉浦:そう。でも、フリーランスをやってみて、経営者視点で物事を考えられるようになったのはよかったと思っています。たとえば、今勤めている会社で人を採用すると、このくらいのお金が出て行くから、このくらいの売上は最低でもほしいなとか。ちょっと先回りして考えられる。それに今は、仕事と子育ての境目がないという感じなんです。
——というのは?
杉浦:バランスをとるって、シーソーとか天秤の片方に家庭や育児を乗せて、もう片方に仕事を乗せてってイメージ。でもそれだと、総量が決まっているから、天秤に乗る分しか乗せられない。
私はやりたいことがいっぱいあるので、バランスをとるのは諦めました。その分バタバタですが、睡眠時間をしっかりとることと、毎日笑って暮らすことだけは守れたらいいかな。
それに、仕事と家庭を分けて考えないほうが合っているって気づいたんです。その例がデュアルスクールです。
都会と地方で「デュアルスクール」
——保護者と一緒に移住して、都会と地方どちらの学校にも通えるというものですね。
杉浦:はい。私は、全国初のデュアルスクールモデル化事業の第1号として、徳島県美波町に行きました。1回の滞在につき約2週間、子どもは美波町の小学校に通い、私はサテライトオフィスで仕事をする。
つまり、プライベートでは子どもを地方で育てるということが実現できて、パブリックではリモートワークという働き方を試せる。さらには、新しい働き方を実現するために働く場を提供しているヒトカラメディアとしては、宣伝効果もある。あえて線引きしないことで、それぞれにいいことがあるんです。
——プライベートと仕事が緩やかに混ざりあうっていいですね。
杉浦:デュアルスクール以外にも、会社にいろいろ提案しています。たとえば、通わせている学童保育は小学4年生になると、通えなくなってしまうんです。民間の学童はあるけれど、保育園がやっと終わったのに、月に数万円の保育料がかかるのは家計も痛いなって。
そこで、小学4年生以上の子どもに限って、長期の夏休みか冬休みの間、子どものオフィス帰宅ができる制度を提案していて、今トライアルをしているところです。
結局「子育て」って何だろう?
——子どもの時に大人が働く姿を見られるのはいいですよね。お子さんを連れて出社されたことはありますか?
杉浦:はい。月初にあるキックオフやファミリーデーなどに連れてきたことがあります。
——小さい時に大人が働いている姿を間近で見られるっていいですね。
杉浦:そうですね。家庭の役割って、社会に送り出す人材の再生産もあると思うんです。子育ては、20年後ぐらいに、社会に働きかける人を送り出すということ。結局、仕事か育児かじゃなくて、やり方は違っても、最終的に社会に影響を与えるっていう点では同じだと思っているんです。
じゃあ、なんで私はこんなに自分が働くことにこだわるのかというと、一つは生活をしていくためにお金が必要。生活といっても、ただ家賃や水道光熱費を払うだけじゃなくて、選択肢を広げるために稼ぎたい。そしてもう一つは、私はせっかちだから、自分で直接社会に働きかけたい。育てた子どもを社会に送り出して世の中を変えようと思うと約20年かかる。お母ちゃんそんなに待っていられないよって(笑)。
私が育児に専念したらすっごい「お受験ママ」になると思うんですよね。受験って結果がわかりやすいから、そこに猛烈にパワーを使って依存しそうだなって。
——失礼ながら、なんとなく想像できます。
杉浦:そうでしょ?(笑)。子どもと自分の人生を分けて考えられなくなったら、お互いにツラいはず。適切な距離をとるためにも私は働いている方が性に合っているんです。
——パワーの分散って大事ですよね。
杉浦:独身の人だって、本当に会社に全てを捧げている!ということはないと思います。エステに行ったり、映画を観たり。なんらかの形でインプットとアウトプットをしながら帳尻を合わせていると思うんですよ。子育ても同じで、「全てを子どもに!」でなくていいんですよ。
「仕事の話」を子どもとできる環境
杉浦:実は私は今も実質ワンオペ育児のような状態ですが、食卓でも会社のメンバーの話が出るからあまり孤立感がないんですよね。母と子、二人の間に共通の知人がいるって大きい。
——その人の顔をイメージしながら話ができるっていいですよね。
杉浦:そう。たとえば、「メンバーのAさんが大変で、母ちゃんフォローに入ろうと思うんだけど、今週の夕飯手抜きになってもいい?」とかね。逆にメンバーからも息子が風邪をひいたと伝えると、息子のことまで心配してくれる。
——ひとりで抱えこまなくていい分、余計なことで悩む時間が減りそう。
杉浦:そうですね。時短とか、効率化っていうより、働きやすさを上げる、いい手段になっているなと感じます。以前、契約の件で、どうしても日曜日に出ないといけないことがあったのですが、子どもを預ける場所がどこにもなくて。それでどうしたかというと、メンバーに見てもらいました。「息子を映画に連れて行ってください」って。
——そのメンバーさんは業務時間外ですよね?
杉浦:別の時には、取締役に預けたりもしました。「えぇ!?会社の役員に子どもを預けるの??」って反応になりますよね。でも、たとえば、取締役のAという人は息子とよく遊んでくれて、息子もAさんのことをよく知っている、と考えるとどうでしょう。ご近所さんとか親戚の間でよくありそうな話になりますよね。実は、子どもの面倒を社内の同僚に頼むって、徳島では自然な流れだったりします。東京だととんでもない話に聞こえるけど、場所が変われば見方も変わるものだなと思いましたね。
「自分が自由なるためのアクション」を実行する
——でも正直、いいことばかりでもないのでは?
杉浦:それも見方によって、ですね。実際、徳島にいる時って通勤時間がないので、勤務時間は長くなっているんです。だけど、私も含めて、関わる人の幸せ度は上がっていると感じます。徳島で得たことを東京に持ち帰ることで、東京での働き方が変わったりもしています。
自分の働きやすさや自由を追求すると、わがままだと言われることもあるかもしれません。でも、自分が自由になるためのアクションが周りをハッピーにできたら嬉しいですよね。
私は、「子どもがいるからこそ、できる働き方」があると思っているので、デュアルスクールやリモートワークなど、自分自身がやってみて、これから子どもを産む女性や、働くママたちに「選択肢」を示していけたらいいな。
(取材・文:安次富陽子 撮影:面川雄大)