6月の菅官房長官の記者会見で次々と質問をして追及し、注目を浴びた東京新聞の望月衣塑子(もちづき・いそこ)記者(42)。ニュースで望月さんが菅官房長官に厳しく追及している姿を見たことがある人も多いのではないでしょうか?
このほど、駆け出し時代からの記者の歩みをたどりながら、仕事への思いや官邸会見出席して以降の顛末についてつづった『新聞記者』(角川新書)を上梓しました。
会見で注目されたのは知っているけれど、望月さんって何者? 「空気を読まない」で、バッシングを受けても自分のスタイルを貫くのはかっこいいと思うけれど、自分にできるかといったら自信がない……など、望月さんを見ていろいろな思いを抱く読者もいるでしょう。
ウートピ読者から見れば”先輩”にあたる望月さん。前半に続き、話を聞きました。
【前編は…】「特ダネだけがやりがいじゃない」と気づいて新しい道が開けた
バリバリ働いていた人ほど悶々とする?
——前編で望月さんのこれまでのキャリアについてお聞きしたんですが、出産の部分を詳しくお聞きしたいです。というのも、出産してもしなくても女子は一度は考えるテーマなのかなと思いまして。
望月衣塑子(以下、望月):そうですよね。私も産んだときも育休を取っているときも「これから先、仕事を続けていかれるのか」という漠然とした不安はありましたよ。
——望月さんでもそう思うんですね。
望月:仕事に没頭していた人ほど、育休中に資格を取ったり、違う道を考えたり、っていう人が多いみたい。知り合いの記者にも妊娠中に司法試験の勉強をして司法試験に受かっちゃった人とか、大学院に入った人とかいます。
記者や編集者って「資格」があるわけではないですから、手に職を持たないといけないんじゃないかって焦ってしまうんですよね。意外に勉強する時間もあるし(笑)。
私も実際、焦りが出てきて、一人目の出産後の育休中は、司法試験の教材を買って勉強してたりしましたよ。悩むんですよね、いきなり赤ちゃんが寝ているときにどさっと何をしてもいい時間が沸いてきて……(笑)。
——そうなんですね(笑)。望月さんは夫が単身赴任中と伺ったんですが、仕事をしながら子育てというのに「やっていけるのか?」という不安はなかったですか?
望月:そうですね。ただ先輩の小林由比記者は、当時、夫が単身赴任をして、親も遠くに住んでいるのに、18時以降はシッターさんにお願いして二人のお子さんを育てつつ、自分はバンバン原稿も出して取材もしていました。めちゃくちゃ仕事が速い記者なんです。なので、「とても同じにはできないだろうが、自分なりになんとかなるかな」って思っていました。
——まわりにロールモデルがいるってやっぱり大事なんですね。
おじさんは「忖度」して「空気を読む」ものだから…
——望月さんのお話を聞いていて、かっこいいなと思うんですが、最近は「仕事が好き!」と言うのがはばかられる空気があると思っていて。
会社員として見たときに会社は「忖度」と「空気を読む」ことで回っているんだなと思う場面もあって、歯がゆさも感じるんです。
望月:すべての場面で空気を読む必要はないと思いますし、一生懸命やっている人しか見えない世界も、のんびりの人しか見えない世界もあると思うんですよね。
私はどちら側の人にも政治に興味を持ってほしいと思って仕事をしています。どういう領域の人にも関心を持ってもらえるにはどうすればいいのかなって思っています。
——タテマエの上では「男女平等の社会」を掲げていても、まだまだ男社会だなと感じることもあります。
望月:それは社会に一回でも出たことがある人なら誰でも遭遇する問題ですよね。女性の政治家も男性の政治家に比べればバッシングを受けやすいし、男社会に女性が入っていくのは、まだまだ難しい部分があります。ただ、だからこそ女性ならではのやりやすさってあると思うんです。
——というのは?
望月:男性は、組織の中でどう生き残っていくかという思考が植え付けられちゃっているんですよね。中間管理職以上の先輩男性は特に。
でも、女性はそういうのがないと思いませんか。だから、下克上を狙える部分があると思うんです(笑)。空気を読まなくていいというか。むしろバッシングされてからがスタートラインともいうか。
私が尊敬する人材派遣会社「ザ・アール」の奥谷禮子会長なんて、「言いたいことはいつでも、どこでも言いますから!」という竹を割ったような方なのですが、どんな人と相対していても、その言動が変わらないんです。
これってなかなかできることではないですよね。本当にすごいことだと思いますし、言葉に噓がないから、信頼できる人と感じさせられます。
でも奥谷会長のような男性がなかなかいないのが、今の日本の社会の実情ではないでしょうか。そういう意味でも、組織を生き抜く男性陣は女性よりも大変なことが多いのだろうなとも感じています。
——そうですね。
望月:とはいえ、私も悩むこともありますし、イライラしてしまうことも多いです。「記者として当たり前のことをしているだけなのに、なぜこんなに批判されるんだろう。もう、会見に行くのやめようかな……」とか。
でも、奥谷会長に言われたんです。「空気を読んでいたら変わらないし、バッシングくらいで折れるな。そこからがスタートなんだよ」と。
——バッシングからがスタートラインか……。確かにバッシングや批判を恐れていたら何もできないかも。
望月:そうそう、男性は組織で闘ってきたDNAを持っているから忖度するし、空気を読むものだから、そういうものなんだと思うことにしました。それでけっこう割り切れますよ。
今やっていることに向き合って
——そう思うと気が楽になります。最後に働く女子に向けてアドバイスというか、メッセージをお願いします。
望月:バリバリ働きたい人もゆっくりしたい人も自分のペースでやればいいと思います。あの人はこれができるのに……とか、他人と自分を比較する必要はないのでは、と。その人には他の人には真似できない、個性や魅力が必ずあります。
そして、どんなに「どん底だ」と思っても、それが結果としては自分を成長させてくれていたんだなということですね。
今、自分がやっていること、向き合っていることは、決して無駄にならない。だから何かに悩む必要なんでないんです。やりたいと思うことをみつけ、真剣にそれと向き合っていくことが何よりも大切ではないでしょうか。
整理部の配属になって内勤になったときも、子育てで「夜討ち朝駆け」ができないとなったときも、必ず発見があったし自分のやるべきことを見つけられました。だから、「今ここ」に集中するのが大事なのかなと思います。
——そういえば、望月さんは中学生のときに劇団に所属していたそうですが、それもいかされていますか?
望月:そうですね、かつて警察回りをしていたころは声が大きすぎて「望月とはヒソヒソ話ができない」「声を小さくしろ!」ってよく怒られたんですが、今は会見でいきていますから、無駄にはなってないですね(笑)。
——確かに!(笑)
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)