もしあの女性(ひと)がオフィスにいたら…? 第9回

職場の紗栄子系女子との付き合い方 本当に成り上がるオンナは「野心」を隠さない

職場の紗栄子系女子との付き合い方 本当に成り上がるオンナは「野心」を隠さない

「もしあの女性がオフィスにいたら?」
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欲しいものは自分の手でつかむことがデフォルトのこの現代において、野心のある女性は決して少なくないし、むしろ「ガールズ・ビー・アンビシャス」でオッケーなはずだ。なのに、野心を隠さない女性はなぜか、「やり手」「腹黒い」と同じ女性からまだ叩かれたりもする。

最近、実業家との破局と、息子さんたちをイギリス留学させるとの発言で物議を醸したタレント・モデルの紗栄子さんは、まさにそういった「野心バッシング」を受ける代表格なのだが……。

世間が「成り上る女」を叩く2つの理由

……独身アラサー編集のY子が、パソコン画面から目を上げてこう叫びました。「河崎さん、紗栄子さんが『ZOZOTOWN』を運営するスタートトゥデイの前澤友作社長と破局して、息子さんの進学のために渡英ですって!」

私:またセンセーショナルな報じられ方をしていますね……。ネットでもとかく批判されますけれど、私の目から見ると彼女は、ひたすら努力を怠らない人だなぁと思います。自由に生きているように見えても、どこか、子どものために自分が稼がなきゃという覚悟で一本の太い軸が通っているように感じますよね。

批判すら栄養にして、実際に稼いでお金にしているし、男性の力なんか借りなくたって、紗栄子さん本人の年収だけでも相当あると言われています。感覚が完全にビジネスマンなんですよね。

Y子:でもとにかくネットは紗栄子さんを叩きたがりますよね。男性も女性も、紗栄子さんのこととなると歯に衣着せずに批判を噴出させます。なぜでしょう?

私:理由は2つあると思います。まず日本は「成り上がる女」が嫌いというのが1つ。地方出身で、頑張り屋だけれども学歴や問答無用の生まれ育ちの良さなどの「事前のブランド力」を持たない普通の女子が、自分のタレント性だけで名を成して、当時人気絶頂のスポーツ選手と結婚し、子どもを産み、離婚してなお「スキャンダルさえ武器に」活動を続けていく。そして資産家と交際してインスタで華やかな生活をアピールしつつ、破局しても渡英だなんて、それはひとえに彼女の努力によるものだけど「成り上がり」と捉えられるわけですよね。

Y子:成り上がりという言葉から感じる、したたかさが苦手なのかなぁ……。計算高く見えるというか。

私:日本って、誰々の娘だとか、どこの学校卒だとか、もともとのブランド力がある女性には「そのブランドなら」と受け入れるのに、ブランドを持たない女性をすごく格下に見て、実力を過小評価する癖がある。だから紗栄子さんは自分にブランドをつけようとしたんですよ。その野心を世間は嗅ぎつけて「計算高い」「腹黒い」と叩く。これが2つめの理由です。

Y子:若くして2児を持つシングルマザーで、努力家で野心家で……そういう女性が仮に同じオフィスにいたら、やっぱり女性の間では扱いが難しいかもしれません。

私:どうして?

Y子:何かこう、ソツがなさすぎて戸惑うというか。想像ですけど、男性と女性じゃなくて個人個人によって対応とかも完璧に使い分けていそうじゃないですか。たとえば付せんひとつにしても、動物好きなAさんにはアルパカ。几帳面なBさんには二つ折りタイプ……とか。いやぁ、私そこまでできないです。上司や同僚に「彼女を見習えよ」なんて言われた日には、朝まではしご酒するかもしれません。

私:
そうですねぇ。彼女のそんな気遣いと機転のあふれる対応に憧れる人がいる一方で、自分と比べて落ち込んでしまう人や、その器用さ、ソツのなさにこそ「腹黒いのでは」と違和感を感じる人もいそうです。それが強烈なファンとアンチを生んでいるのではないでしょうか。

Y子:きっと1対1で話すとめちゃくちゃ性格が良くて、好きになると思うんですよ。でも、彼女を遠くから見ているとモヤモヤしてしまいそう。

私:器用さや魅力があだになると言っては身も蓋もないですが、そこに人は憧れと同時に嫉妬も感じる。器用にうまくやっている人の中に野心を嗅ぎつけると、世間ではバッシングが始まります。でも、野心は悪いことなのか? ひょっとして、私たちは「女の野心はいけないことだ」「見苦しい」と刷り込まれているのかもしれませんね。それゆえつい足を引っ張るような見方をしてしまうのではないでしょうか。

他人の野心を挫けさせる女たち

確かに、野心にもいろいろある。野心を遂げる方法だっていろいろだ。でも、彼女が彼女の望む姿になりたいと、誰にも迷惑をかけず一人で努力している姿に、なぜ他人がこうもバッシングの手を緩めないのかと考えると、まさにネットにありがちな物言いである「〜のくせに」が原因なのだと思う。

「紗栄子のくせに」。

「女優としての代表作もないくせに」「女のくせに」「まだ29のくせに」「母親のくせに」。同じ物言いを、自分が向けられたとしたらどうだろう。私なら、絶対に負けるもんかと思うだろう。世の中に潰されるものかともがいて、毎日ひたすら自分の頭で考えて、努力するんじゃないだろうか。心細くて他の人を巻き込み、知恵を借りて、懸命に生き残ろうとするんじゃないだろうか。彼女の野心は、究極的には「彼女が考えた形での生き残り」なのだから。

そんな紗栄子的な同僚が職場にいたら、私たちは自分とは立場や生き方ややり方が違う彼女へ無理に共感したり応援したりしなくてもいい。彼女は自分なりの戦略で泳いでいくのだから。ただ私たちは、彼女のインスタでの華やかなアピールを目障りと感じたり、モテエピソードに嫉妬心を刺激されたりして、足を引っ張るような下品な真似だけはしないとだけ、心に決めておきたい。「ガールズ・ビー・アンビシャス」。他人の野心(野望)を挫くようなこすい女は、自分の野心(野望)だって遂げられるわけがないのだから。

(河崎 環)

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あの女性(ひと)なら、頭の固い上司にガツンと言ってくれたり、優しく悩み相談に乗ってくれたり、時にはライバルとして切磋琢磨しあったりするのかも。ワクワクするような想像を、コラムニストの河崎環さんが鋭い視点で分析していく連載エッセイ。

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