「産むこと」にメリットって、本当にあるんですか? 第11回

「産んだら、もっとキレイになれますか?」 美人OLの疑問にワーママが突きつけた現実

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「産むことにメリットって、本当にあるんですか?」
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「編集長、産むことのメリットとデメリットを教えてください」今年で33歳になるワーカホリックなプロデューサーに、ワーママ編集長(私)が詰め寄られたことからスタートした本企画。

今回は海野Pのリクエストにお応えして、「産んだら美しくなる」という俗説は本当かという問題について考えていきたいと思います。

私(左)と海野P(右)

私(左)と海野P(右)

美人のさらなる野望

海野Pは、写真を見ればわかるように、美人です。

こんなに長時間労働で、こんなに不摂生して、お酒をガンガン飲んで、こんなに運動不足で、こんなにタバコをパカパカ吸って、こんなに野菜不足で、日がなパソコンに向かいながら「ハリボー(クマ型のドイツ製グミ)」を食べてばかりいるのに、美人です。

色白でお肌すべすべで、シミとか全然なくて、一緒に朝3時まで飲んだ翌日だっていつだって涼しくほほ笑んでいて、365日(たぶん)ベストコンディションの揺るぎない美人です。編集長として、美しいプロデューサーを従えてあちこち打ち合わせに行くのは、なかなかに誇らしく、先々で「かわいいでしょ!美人でしょ!いいでしょ!」と自慢して回りたくなります。

そんな美人の海野Pが先日、さらなる野望を覗かせました。

「産んだら、きれいになるって話を聞いたんですけど、本当ですか?」

「おまえ、もっときれいになりたいの?」と、その底なしの野心に驚くと共に、「おまえ、何言ってんの?」と呆れもしました。「産んだら、きれいになる」って、そんなの、あるわけないじゃん。ありえねーよ。

産んだら、そのすべすべの美肌にはイボやシミができ(特に妊娠中ね)、毎晩重さ1キロのフラフープをせっせと回して鍛えている、その腹筋は跡形もなく消え去るぞ。最悪、アンモナイトの殻の模様みたいな妊娠線も残ってしまうやもしれん。爆乳から微乳まで各種とりそろえている編集部(女性媒体の長とは思えぬセクハラ発言、ごめんなさい)の中で、もっとも均整のとれている、そのおっぱいも無残に変質するぞ。

妊娠中の密かな望み

まあ、でも確かに私も産む前は、密かに期待していましたよ。

産んだら、全身の血が入れ替わるからカラダが若返る。女性ホルモンがたくさん出るから肌が透けるようにきれいになる。グラマラスな体型になるなら、脂肪が増える妊娠・出産がチャンス。

そんな話をまことしやかにする人は、私のまわりにもいましたから。1回3時間も待たされる妊婦検診の時、待合室で読破するより他なかったプレママ雑誌にも、そんなことがいろいろ書いてありましたし。

特に、第6回で書いたように、月齢が進み精神的にどんどん沈んでいく中では、「産んだら、きれいになる」という噂には、一縷の希望を託していました。こんなに憂うつで、カラダは不自由で、行動が制限されて、酒も飲めず、脳は劣化して編集者のくせに原稿も読めず(集中力の著しい低下と眠気のため)という苦しい状況にあったので、「そのくらいのご褒美はあってもいいだろう」と考えていました。

実際、テレビ番組に出てくる子だくさんママは、みんなすっぴんで肌ツヤツヤだもんな。産んだら、きれいになるってホントかもな。そんなふうに、すっかりアホになった妊娠中の頭で考えながら、テレビの前でぼーっとノンアルコールビールを傾けていたものです。

話はそんなに単純じゃない

しかーし、産後、私のカラダは完全に終了しました。

その詳細に関しては、美しい海野Pにはショッキングで刺激が強すぎるので、割愛いたしましょう(というか、単に自分でも直視したくない)。ちょっと前に訪れた温泉宿で、脱衣場の全身鏡に映った自分の裸体を目にした時、産前に築かれた自己イメージからあまりにかけ離れていて一瞬自分だと気づかなかった、とだけ書いておきましょう。

産んで、カラダは終わった。

これだけならシンプルで話は早いのですが、今回のテーマは実はもっと複雑です。

というのも、産んで自分のカラダは明らかに醜くなったのに、周囲からは「きれいになったね」と言われることが増えたからです。

今回本当に取り上げたいのは、この相矛盾する現象の方。なぜ、母になると「きれいになったね」という褒め言葉をいただくようになるのか?という問題を考えていきたいと思います。

「きれいになったね」のあとに続く言葉

「きれいになったね」

このあとには、90%くらいの確率で次のような言葉が続きます。

「かわいい赤ちゃんがいて、幸福そのものね」
「ママらしくふっくらとして、優しくなって」
「満ち足りてツヤツヤとしていて」

要は「幸せそうで、きれい」ということなんですが、そうした言葉をかけられるたびに、私の胸中はモヤモヤとして、素直に受け入れられずにいました。

だって、その褒め言葉には「ママになった=幸せそう=きれい」という等式が、ガッチリ埋め込まれているから。仮に私が育児ノイローゼに陥り、夜な夜な赤子に暴力を振るうような状況に追い込まれていても、人は、たぶん「きれいになったね」という言葉をかけてくると思うんです。

そりゃ、私だって「肌のキメが細かくなって、きれい」「髪がツヤやかになって、きれい」と言われたら、普通に嬉しいです。でも「ママになって幸せそうだから、きれい」と言われたら、0.1秒後には即反発を覚えます。私は聖母マリア像じゃない!と心の中で叫びたくなります。そんなもんにはなりたくない!と保育園バッグを投げつけて逃げ出したくなります。

産後復帰したグラビアアイドルを見て思うこと

母というものは、美しい。
おなかの皮がたるんでも、美しい。
おっぱいが死亡しても、美しい。
骨盤がゆがんでピーマン尻になっても、美しい。
髪が抜けて帽子が手放せなくなっても、美しい。

いやいや、そんなわけないじゃん。

それは端的に「醜い」って言うんですよ。

仕事柄、時々エッチなグラビアが付いている写真週刊誌に目を通すことがあります。「見よ!産後半年とは思えぬこのスレンダーボディを!」「母になっても健在!現役ダイナマイトボディ♡」みたいな見出しと一緒に写っている、血のにじむような努力とレタッチの結晶を眺めていると、じんわり胸が熱くなってきます。

がんばれ、聖母に抗うんだ!

かくいう私も、「きれいになったね」という言葉を振り払うように、産後は産前のカラダを取り戻そうと、毎日1500メートル泳ぎ、朝晩50回ずつ筋トレをするなど、必死の努力を重ねていました(ウートピ編集長の職を引き受けたことで頓挫しましたが)。今から思うに、あれは美への執着というより、世の中から押し付けられる“聖母像”への反抗だったのでしょう。

オンナの欲望をそそる二つの形容詞

産むと、きれいにはならないけれど、「きれいになったね」と言われるようにはなる。

さて、どうするよ、海野P?

「母」なるものについて回る「美しい」「幸せそう」といった形容詞。どちらも、オンナの欲望をそそりまくる形容詞です。この二つに、オンナはとかく弱いですからね。そう考えると、母になることは、オンナに生まれた者が突きつけられる大きな大きな“誘惑”なのかもしれません。

(ウートピ編集長・鈴木円香)

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