熱中症の体験談をもとに、適切な予防策について糖尿病専門医・臨床内科専門医の福田正博医師に連載でお話を聞いています。第1回は夜遅ラン、サウナ―、撮り鉄、第2回はプール、テレワーク中に発症した例を紹介しました。今回は、9月に入っても残暑バテなのか、熱中症になったというケースの対策について尋ねます。

福田正博医師
残暑の登山で熱中症に
<38歳・女性・会社員>
登山初心者時代の32歳のとき、9月初旬の登山で、残暑バテなのか熱中症なのか、ふらふらになりました。登山中、トイレが近いことやおなかをこわすことは最悪なので、水を飲む必要性はわかっていても、前日から水分摂取を控え、当日の朝食も少なめでした。
低山でしたが、山は秋の気配だろうと、新しく買った高山用のウエアを着たくて着用していました。ですが、30分ほど登ったところで、「暑い…。顔がほてる。くらくらする。上着を脱ぐのも面倒…。足の踏ん張りがきかない」となり、グループのテンポからどんどん遅れ、気持ちはパニックに。そのとき、ガイドさんが異変に気づいてくれて、すぐに休憩して凍結水や保冷剤で体を冷やしてもらいました。そして引き返すことを提案され、皆さんに守ってもらいながらなんとか歩いて下山しました。
福田医師:症状からして、軽症の熱中症と考えられます。前日から水分摂取を控え、朝食も少なめだった場合、当日は体内の水分量が不足する脱水状態で、体力も不足していたかもしれません。早めの水分補給と休憩、それに引き返す決断と行動によって、軽症ですんだ例でしょう。
お盆を過ぎると登山に出かける人が急増しますが、日本の残暑は厳しく、夏日もあり、山は街中より直射日光が強いです。「山でも涼しくなくてしんどかった」と受診される人もいます。
これらを教訓として、「登山日は、日にちより気温や湿度を見直す」「トイレの心配より水分補給」「おしゃれより適切なウエアをチョイス」「体調不良時はすぐに仲間に伝える」ようにしてください。
夏の夜の野球観戦で熱中症に
<43歳・女性・会社役員>
プロ野球のナイター観戦によく出向きます。球場は風が吹くので、スタンドの高い位置ではそう暑苦しくないと感じています。しかし、「バテバテだから球場でストレスを発散しよう」と思って夕方に到着した日、スタンドはカンカン照り。そこでビールをがぶ飲みしていたときです。
トイレに行くと、「尿が出ないな…」と思いました。席に戻ってもう1杯を飲んだあたりで、視界にモヤがかかったようにぼんやりし、吐き気やめまいもあり、空いていた席に倒れ込みました。友達が水を飲ませてくれて、救護室から医師が来てくれて、「熱中症では」と救護室に運ばれました。全身を冷やされ、経口補水液を飲み、1時間ぐらいで症状がおさまりました。残暑バテ解消に出かけて、熱中症とは…。
福田医師:「尿の量が減る」のは、熱中症の症状のひとつです。水分摂取不足や、体温調整のために大量に発汗すると、腎臓でこされる水分が減少して尿の量が減ります。色も濃くなります。起床時の尿の色が日中より濃いのは、就寝中に体内の水分が減少しているからです。
体内の水分が約2%減少するとのどがかなり渇き、約3%減少すると尿量も食欲も低下します。尿の色が濃い、量が少ないと思ったときは、夏に関わらず、すぐに水分を摂取してください。
また、視界が白っぽくなる、ぼんやりする、狭くなる、星がチカチカ飛ぶように思うこと、吐き気、めまいなどの不快感も熱中症の症状です。体も熱かったのではないでしょうか。
ゴルフのレッスン中に熱中症に
<39歳・男性・プロゴルファー>
ゴルファーは真夏でも朝にラウンドに出る、ウエアは襟付き、上着はボトムにインなどドレスコードを守り、首にタオルをかけるのもマナー違反です。9月なのに朝から暑いなあと思っていた日、食欲がなくて朝食はコーヒー1杯だけ、屋外でマスク着用でレッスンをしていました。
30分ほどして体がぐらぐらしてきて息苦しく、視界が白くて芝が回っているように見え、足のしびれで『え、いまごろ熱中症?』と思うと立っていられなくなりました。生徒さんは中高年世代で、いつも自分が熱中症注意を伝えていることや、もっとも若いプロの自分が倒れたのは痛恨でした。日ごろから血圧が高めで薬を飲んでいます。
福田医師:朝食抜き、炎天下、涼しくない服装、マスク着用でゴルフレッスンということであれば、水分とミネラル不足のうえに、暑さや気遣いなどで疲労も蓄積していたのではないでしょうか。また、前にも話したように(第1回参照)、高血圧、糖尿病の人は、とくに熱中症に注意が必要です。薬には利用作用があるものもあり、こうした状況では早めに水分とミネラル(塩分)の補給をしないと脱水状態になりかねません。
高血圧の人は日ごろから減塩を心がけていると思いますが、さらに発汗で体内の塩分が不足し過ぎると熱中症の原因になります。スポーツ時や屋外で発汗したときは、水分と同時に塩分補給も忘れないようにしましょう。
9月であっても炎天下ではラウンドやレッスンは避け、朝食は必ずとり、のどの渇きを感じなくても30分に一度は水分とミネラルを計画的に補給し、疲労感を覚える前に涼しい場所で休憩をしてください。
聞き手によるまとめ
真夏には控えていた屋外でのレジャーやスポーツも、暑さのピークが過ぎると活動したい気分が盛り上がってきます。ですが、9月になっても、高温、高湿度の日が続く地域も多いでしょう。とくに炎天下や暑い場所ではこれらの体験談に学びながら、真夏同様に熱中症や残暑バテ予防に気を配りたいものです。
(構成・文 藤井 空 / ユンブル)