『脳医学の先生、頭がよくなる科学的な方法を教えて下さい』インタビュー・第2回

脳のクセをうまく利用する…「メタ認知」が人生の充実につながる理由

脳のクセをうまく利用する…「メタ認知」が人生の充実につながる理由

「資格の勉強を始めたけれど、昔に比べて記憶力が悪くなっている気がする」「昨日食べたものがすぐに思い出せない」--。

子供の脳や学力を伸ばすだけではなく、大人の脳の成長についても解説した『脳医学の先生、頭がよくなる科学的な方法を教えて下さい』(日経BP)が8月に発売されました。

大人になってから脳のパフォーマンスをあげることはできる?

著者で脳医学者・東北大学教授の瀧靖之(たき・やすゆき)さんに3回にわたってお話を伺いました。

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「メタ認知」を身につける方法は?

——前回のお話で「メタ認知」という言葉が出てきました。メタ認知とは、「自分のことを俯瞰的にとらえ、客観的な判断をくだすための力」ですが、なぜメタ認知を身につけるのが良いのでしょうか? また、メタ認知ができるようになるためにはどんなことを意識すればよいのでしょうか?

瀧靖之さん(以下、瀧):まず、メタ認知を身につける方法ですが、訓練に尽きると思います。ただ、訓練と言ってもそんなに大変なことではなくて、私たちの脳には「可塑性(かそせい)」と言って変化をする力が備わっています。少しずつ何かを努力すると確実に伸びるんです。知能だってそうです。考えて判断する力だったり、ピアノを弾いたり、外国語を話したり何でもそうなのですが脳が変化する力があるんです。だから、ちょっとずつでも訓練していってそれが積もり積もっていくと必ず変わります。

具体的に訓練といってもいろんなやり方があるのですが、例えば、嫌なことがあってイライラしたり落ち込んだりしたときに、ふと一段上から自分を見てみる。「今、自分はなぜこんなにイライラしているんだろう?」とか「なぜこんなに悲しい思いをしているんだろう?」というのを客観的に見る癖をつける。あとは周りの人や友人、家族に対して「この人の良いところってなんだろう?」と感情を入れずに見てみるのがいいかもしれないですね。

脳医学者・東北大学教授の瀧靖之さん

脳医学者・東北大学教授の瀧靖之さん

メタ認知が人生の充実につながる理由

——訓練していくうちにメタ認知できる癖がつくということでしょうか?

瀧:まさに脳の癖です。そうすると、とにかく人の良いところが見えてくるんです。「この人って何でこんなことができるんだろう?」って。するとまた良いことがあって、自分もその能力を獲得できるんです。私たちの能力は基本は模倣で獲得します。楽器を弾くのも外国語を習得するのも勉強のやり方も人生の価値観もあらゆることが模倣なんです。

——人生観も模倣なのですか?

瀧:模倣です。まさに周りに素晴らしい人がいると、その人の価値観や人生観を学べるじゃないですか。人って模倣で伸びていくんです。人の良いところに気がつくようになると、その人の良いところを真似できます。真似と言っても、しぐさを真似るとか表面的な意味ではなくて、考え方とか価値観、人生観を真似できる。これがすごく良いんです。

私自身も自分の能力はたかが知れていますが、周りに優秀な人たちがたくさんいたので常に観察していました。「なんでこの人はこんなに頭がいいんだろう?」とか「なぜこんなに勉強ができるんだろう?」とか。そうすると良いことずくめなんです。いろんな人の良いところが見えるからますます尊敬できる。しかも自分も能力を伸ばせるなんて良いことしかないですよね。

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苦手な人からも学べるものがある

——苦手な人からも学べますかね?

瀧:もちろんです。「この人はなぜそういう価値観を持っているのだろう?」と観察するんです。究極的には好奇心ですね。一番大事なのは好奇心で、人生におけるすべてのエネルギーというか原動力だと思うんです。やっぱり好奇心があるからこそ勉強もできるし仕事もできるし趣味にも没頭できる。好奇心があるから、他人に対してもその好奇心を向けられるんですよ。メタ認知と好奇心を組み合わせると、仲のいい友人も苦手な人も含めて「なぜそうなるんだろう?」と客観的に見られるんです。

他人なんて自分の思い通りにはならないんだから、相手をメタ認知で常に理解して尊敬できる人には、食らいついてでも常に後ろ姿を見る。どうしても合わない人はなぜ合わないのかを考えながら距離を置く。でもこれって難しいことではないんです。人に興味を持ってメタ認知を使うと案外できるんです。

——前回のお話でもあったように、尊敬できる人を観察したときに自分と比べないのも大事なのでしょうか?

瀧:相手の良さを見つけたときに「自分はそんな能力はないから」と考えないのは大事ですね。自分には自分の良さがある、この人にはこの人の良さがあるというのを客観的に見つめる。比べてはいけないし、比べる必要もないんです。この人はすごい友人がいて、すごい人望があるけど、自分は人望がない。でも、自分はこういうところが良いところがある。逆に「この人の人望が厚いのは、どういうことなのか?」を観察していくと、いろいろ見えてくると思うんですよね。「どんな人ともフランクに接してる」とか、必ず何かあるからそういう部分を見つけて、自分で静かに学習すればいいと思います。

(聞き手:ウートピ編集部:堀池沙知子)

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