ニュースを読み解く用語集/第9回 

昨年から導入された「個人視聴率」って何? ニュースがわかるビジネス用語

昨年から導入された「個人視聴率」って何? ニュースがわかるビジネス用語

メディアで見聞きするビジネスやIT、医療分野など、知るとよりニュースがわかりやすくなる用語について、その意味や使用例を連載で紹介しています。これまでに、「ホールディングス」「エビデンス」「ダイバーシティ」「人新世(ひとしんせい・じんしんせい)」「パブリシティ」「コンプライアンス」「ステークホルダー」について配信しました(リンク先は文末を参照してください)。

今回・第9回は、「個人視聴率」という用語の意味や、視聴率の分類、新しい指標について、大正大学表現学部の教授で情報文化表現が専門の大島一夫(おおしま・かずお)さんに、編集スタッフ・藤原椋(ふじわら・むく)が尋ねました。

視聴率は「世帯」から「個人」へ

m.fujis

私はテレビが好きなので視聴率に興味があるのですが、昨年(2020年)から視聴率のカウントの方法に「個人視聴率」が加わったと聞きます。

以前、ある番組の「世帯視聴率が低い」という記事のネットニュースに対して、いやそうではないという芸能人のコメントが話題になり、個人視聴率が注目のワードに上がっていました。どういう指標なのでしょうか。

k.ohn

まず、「世帯視聴率」とは、番組がどれだけの世帯で観られていたのかを「家」単位で示す数字です。これまでは視聴率と言えば世帯視聴率を指していました。

というのも、テレビ放送が始まったのは戦後です。テレビは高価で、ほぼ一家に一台となったのも1964年の東京オリンピック以降のことです。

視聴率の調査は1962(昭和37)年に始まりました。テレビのある家庭に測定器を設置して、何時にどの番組を見ていたかを記録し視聴率を測定しました。こうして視聴率は、世帯単位で調べるという方法で定着していったのです。

m.fujis

いまや、4人家族ならテレビは複数台あって、それぞれが別の番組を見ているでしょうね。

k.ohn

そのために視聴率も世帯単位ではなく、個人単位で測定した方が現状に近いと言われはじめ、個人視聴率が注目されるようになりました。背景には、視聴率の測定器の進化によって個人別の記録が可能になったこともあります。

m.fujis

世帯視聴率の場合、具体的には、ある番組を10世帯のうち6世帯が観たなら、60%と測定されますね。個人視聴率ではどうなのでしょうか。

k.ohn

個人視聴率の場合は、10世帯に合計20人の住民がいたとして、そのうち6人がある番組を観た場合は30%、8人が観た場合は40%となります。同じ10世帯でも、家の中で何人がその番組を観たかによって、数字はかなり変動するわけです。

all

個人視聴率も同時発表され始めた

m.fujis

視聴率の調査会社ビデオリサーチのサイトでは、世帯視聴率と個人視聴率の両方が公表されています。

k.ohn

このところ、メディアの報道でも、これまでの「世帯視聴率」に加えて「個人視聴率」を併記するようになってきています。

例えば、朝日新聞の東京本社版では、毎週木曜日に掲載するテレビ番組の週間視聴率ランキングで、世帯視聴率と個人視聴率の併記を2021年7月22日から開始しました。数字の違いが明解です。

m.fujis

個人視聴率の測定は、テレビ局や広告主にとってメリットがあるのでしょうね。

k.ohn

もちろんです。テレビ広告に億単位の費用を使う広告主はたくさんいます。民間テレビ局はその広告料を収入源として番組制作などを行うので、広告料の裏付けとなる視聴率はとても重要です。

また、視聴率の調査会社は、年齢層をしぼったより詳細な視聴率データを調べていて、テレビ局や広告代理店はその情報を購入しています。

多彩な個人視聴率を利用することで、広告主はよりターゲットを考慮したテレビ広告が可能になり、番組制作にも影響を与えています。例えば、13~49歳までの個人視聴率を、購買意欲が高い年齢層として重要視するなどです。

総合視聴率はリアルタイムと録画視聴を合わせたもの

m.fujis

「総合視聴率」という用語もあります。

k.ohn

総合視聴率とは、世帯視聴率や個人視聴率とはまた別の指標です。テレビ番組を「リアルタイム」と「タイムシフト」のいずれかで視聴すれば1カウントと集計して、視聴された割合を示します。2016年10月から、関東地区で測定が開始されました。

m.fujis

「リアルタイムは放送時に視聴すること」で、「タイムシフトは録画した番組を7日以内の視聴でカウントする」方法ですね。

k.ohn

そうです。つまり、「リアルタイム視聴+タイムシフト視聴-重複視聴=総合視聴率」となります。

録画機の普及でリアルタイムに視聴する人は減っているため、総合視聴率の測定が始まりました。番組のジャンルや時間帯別に、リアルタイムとタイムシフトのどちらが選ばれているのかもわかるそうです。

テレビ視聴には録画機だけでなく、インターネットの発達も大きく影響しています。メディアの王様といわれたテレビも安泰ではありません。インターネットに広告を取られる状況になっています。その意味でも視聴率は、テレビのメディアとしての実力を示す鍵となっています。

m.fujis

さまざまな指標を算定して、「リアルタイムの世帯視聴率」「総合視聴率の個人視聴率」などもわかるそうですね。視聴ニーズの変化に対応して視聴率の状況も変化していることがわかりました。これがテレビ番組の内容やありかたにどう反映されるのかも注目していきたいです。

次回・第10回は「サブスクリプション」についてお尋ねします。

(構成・取材・文・イラスト 藤原 椋/ユンブル)

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