“年上の彼女”を連れてきた同級生と彼氏のBMWで写真を撮る友達
スー:当時の早稲田って、スーフリ*が有名だった時期じゃないですか?
*イベントサークル「スーパーフリー」。のちに事件化する。
清田:確か掲示板の勧誘チラシかフリーペーパーか何かでその名前を知りました。ギラギラしたオールラウンド系サークルという印象でした。
スー:まだホモソーシャルという言葉は広く知られてはいなかったですけど、よく考えたら、大学のサークルは、そういうものの温床でしたね。
清田:スーさんがいたGALAXY**はどうでした?
**早稲田大学ソウルミュージック研究会
スー:ホモソがなかったとは言いませんけど、かなり強い女の人もいましたね。GALAXYには当時宇多丸さんという大先輩がいたわけですけど、その宇多丸さんに上野千鶴子さんの本を持ってガーっと詰め寄る女性の先輩がいたり。上野さんの名前を最初に知ったのはそのときでした。
清田:すごい。
スー:とはいえ、システムとしては部長は男性だし、副部長も男性だし。サークルで遠出するとき、車を運転するのもほとんど男性。本人たちの意思とは関係なく、性役割が今よりはっきりしていました。「そういうものだ」という空気ですね。男女ともに世間から渡された台本を読んでたようなところがあると思います。
数年前かな、GALAXYにも女子部長が誕生したそうで。時代の変化ですね。本人たちの意識というよりも、枠組みとか社会の認識が変わると自然に変わっていくものだなと思います。本当は、自然発生的にみんなの考えがまるっと変わって、その流れでシステムが変わっていくのがいいのでしょうけど。私は、当時のふがいなかった自分を責めるのはやめようと思ってて。気付けなかったことは仕方がない。清田さんは中高は男子校ですよね?
清田:日大豊山という、護国寺にある私立の中高一貫校に通っていました。当時人気だった「ストニュー」(*95年から2002年まで刊行されていた首都圏高校生向けファッション雑誌「東京ストリートニュース!」)に出てる先輩や同級生が結構いて、雑誌でも「イケてる男子校」みたいな扱いでした。文化祭には近隣の女子学生がたくさん訪れるような学校で、合コンの話もいっぱいあって。そんな中で、制服がかわいい学校とか、人気の女子校とか、そういうとこの女子と付き合うとステータスが上がるみたいな……そんなホモソーシャル的価値観がまん延していました。
スー:豊山! 人気校じゃないですか。清田さんの中に、男性性に対する懐疑の芽が出たのはいつ頃なんですか。
清田:思い起こせば子どもの頃から自分に自信が持てず、「自分が思う自分」よりも「人から見えてる自分」を信じてしまう気質がベースにあったように思いますが……より自覚的にそういうことを考えるようになったのは30代になってからだと思います。女性たちから恋愛相談を聞いてると、ひたすら質(たち)の悪い男性たちのエピソードを耳にすることになるわけです。「ひどいな」「つらいな」とは思うものの、一方で「俺も似たようなことを言ったことあるぞ……」って、ゾッとする瞬間が多々あって。
例えば僕は高校3年生のときに初めて恋人ができたんですが、当時やっていた交換日記が今でも残っていて、その中で彼女のことを「お前」って書いていて戦慄しました。面と向かって「お前」なんて呼んだことないのに、交換日記の中ではオラついてる。当時の感覚を振り返ると、「恋人をちょっと雑に扱うことがかっこいい」みたいなものがあったんですよね……。
スー:あーわかる。それが親しさのあかしとされていましたよね。ご著書にも書いてらっしゃいましたけど、誰に対してかっこいい自分でいたいかというと、彼女に対してではなく、男友達に対してだったという。足蹴(あしげ)とまでは言わないけど、彼女をちょっとぞんざいに扱うくらいがかっこいいって。裏を返せば、尻に敷かれる的な、女性にコンロトールされているように見えることが「かっこ悪い男ランキング」の上位に入っていたわけですよね。
そうやって小さな違和感の背景を全部ひっくり返して見ていくと、石の下から家父長制という虫がわーっと出てきそう。
清田:「男たるものこうあるべし」の呪縛ですよね……。当時はジェンダーという言葉すら知らなかったし、社会や文化から知らず知らずに影響を受けながら価値観が形成されているだなんてまるで自覚がなかった。
スー:「女なら女らしく」もありましたしね。生まれ育った社会の影響は、誰しもが絶対に受けますから。
清田:高校のクラスメイトで年上の彼女と付き合ってるやつがいたんですね。今思うと1歳しか違わないんですが、高校生のときの1歳差ってすごく大きくて、年上の彼女がいる時点で尊敬されてて。そしたらある日、放課後にみんなでマクドナルドへ行ったとき、そこに彼女を連れて来たんですよ。
スー:ほー! それすごい。誰に教わったわけでもないのに、高校生が自分のステイタスを表明するための道具として、ステイタスのある女性を使ったんだ。自分のランク付けを、女性を通してやってる。ランク付けには他者の目が必要だから、清田さんたちという観客が必要なんでしょうね。
清田:いわゆる「トロフィーワイフ」的なものですよね。すげーっていう俺らの目があって初めて完結するという。
スー:逆バージョンもありましたよね。私は女子高、女子大でしたけど、彼氏のBMWの前で写真を撮る人もいました。こういう行為に男女の性差はない。付属品で、自分の価値を高めようとする行為ですね。時計とかバッグと一緒だ。
※第2回は12月24日(木)公開です。