「フリー編集長」と「社畜プロデューサー」というまったく異なる立場から、ウートピ編集部というチームを運営している鈴木円香(33歳)と海野優子(32歳)。
脱サラした自営業者とマジメ一筋の会社員が、「心から納得できる働きかた」を見つけるため時にはケンカも辞さず、真剣に繰り広げる日本一ちっちゃな働きかた改革が現在進行中です。
最近では、広報、人事、経理、マーケティングといった「文系総合職」のジャンルでもフリーランスが増えているそう。でも、実際にフリー転身を考えると、やっぱり不安なのはお金のこと。
そこで今回は、主に文系総合職の女性に向けてフリーランスという働きかたを提案している、株式会社Waris(ワリス)共同代表で一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会理事でもある田中美和(たなか・みわ)さんに相談してみました。
第1回:文系総合職はみんなフリーランスに転身できる?
第2回:会社員からフリーに転身するなら、この経験を積んでから
ズバリ、収入は今より上げられる?
海野P:フリーランスは、働く時間も場所も自由に選べてストレスが少なそうだし心底憧れるんですが、でもやっぱりお金のことは正直すごく不安なんです。実際、収入を下げずにフリーになれるんですか?
田中美和さん(以下、田中):Warisに登録しているフリーランス女性にアンケートを取ったところ、ひと月の収入は平均28万円でした。50万円以上稼いでいる人も11%いました。総額で言えば会社員時代より減る人が多いものの、1時間あたりの単価感は上がったと感じている方が少なくありません。
海野P:1時間あたりの単価感?
田中:「時間単価」と言えばわかりやすいでしょうか。実はWarisの登録者の7割はワーママなので、フルコミットでガッツリ働いてガッツリ稼ぎたいというよりも、自分の専門性を大切にしながらライフワークバランスを保ちたいというタイプのフリーランスなんです。実際に、アンケートを取ると月の稼働時間は80〜100時間の人が一番多いですね。20営業日で割ると、だいたい1日4〜5時間です。
海野P:1日4〜5時間だけ! 普通の会社員の半分ほどですね。
田中:はい。だから収入の総額は減っても1時間あたりの単価感は変わらないか、多少アップしているんです。登録者の平均だと、時間単価に換算して3000〜5000円ですね。
海野P:(てか、私の時給っていくらなんだろう……)
田中:会社員をやっていると、自分の「単価感」を意識することってまずないと思うんです。でも、フリーとして経験を積んで単価感を上げていけば、フルコミットできる時期に今より年収レベルを上げることは十分可能だと思います。
鈴木:つまり育児中は一時的に年収レベルでは下がるけれど、その時期が終わりフル稼働できるようになれば年収レベルを上げられる可能性がある、と。
田中:そうです。
「手取り」の1.2〜1.5倍が基準
海野P:収入も心配なんですけど、フリーランスになったら、年金や保険を自分で払わなきゃいけなくなるんですよね。それも本当に払えるのか不安です。
田中:そこは大事なポイントです。年金や健康保険など、社会保険料が完全に自己負担になるので、フリーランス転身後の収入を考える時、それは加味したほうがいいですね。つまり、今と同じレベルの生活水準を維持したいとなると、会社員時代の「手取り」のお給料の1.2〜1.5倍をフリーランス転身後に稼ぐくらいが目安になってくるかと思います。
鈴木:例えば、手取り32万円だったら、40万円前後稼いでこの生活レベルを維持できると理解する、と。
田中:そうです。よく「会社員時代と同じくらい稼げればいいんです」とおっしゃる方がいますが、そこから社会保険料が引かれると、手元に残るお金はお給料をもらっていた頃より少なくなります。フリーランスになるとスキルアップが目的の「研修」や「セミナー」受講もすべて自己負担になりますしね。それを理解した上で、総量としてそれ以上稼ぐか、総量は減っても単価を上げるかを考えていきます。
海野P:そこが怖いんです。今より稼げないと、今の生活ができないのか、って考えちゃうと……。
田中:そうですね、今の社会保険料のしくみは、会社員とフリーランスでは負担感に差がありすぎるので、すでに政府でも議論になっています。これは今後変わっていく可能性があります。
海野P:(ああ、やっぱり無理だわぁ……)
田中:会社員を辞めてフリーランスって、確かに勇気のいることかもしれない。でも、長い目で見たら自分の意思で働きかたを描くほうが、会社員を続けるよりもリスクヘッジになると思うんです。今の時代、会社の平均寿命は23.5歳*と言われています。でも、みなさんは100歳まで生きるとして50年以上働く。つまり会社の平均寿命より、働く期間のほうがずっと長いんです。
*倒産時の平均年齢。東京商工リサーチ、2015年。
鈴木:今すぐフリーになるかならないかの問題というよりも、「フリーになりたい」と考えた時に、自由にシフトできるようにしておくことが大事なんですね。
海野P:(そうか……フリーを経験しておくこともリスクヘッジなのか。いよいよ悩んでしまう……)
フリーはやっぱり孤独?
海野:すみません、フリー転身にまつわる不安はまだまだありまして。例えば、フリーランスって、すごく孤独で一匹狼なイメージがあるんです。何から何まで自分でやらなきゃいけなくて大変そう……っていう。
田中:確かに「フリー=ひとり」っていうイメージが強いですが、実際にはチームを組んで働かれているフリーの方も結構いるんですよ。例えば、経理や人事のフリーランサー3人がチームをつくり、案件を獲得しているケースもあります。「管理部門の立ち上げをマルッとよろしく!」という依頼はよくベンチャー企業からいただくので、そういうチーム型の体制を取っておくと受注できる仕事の幅は広がりますね。
海野P:そのカタチ、新しい! 全然孤独じゃないですね。
田中:それに一度フリーになったら、一生ずっとフリーのままという時代でもないんです。30代で何年かフリーをやったのちアラフォーで会社員に戻られる方も結構いるんですよ。理由としては、「大きな規模の仕事がしたくなった」「マネジメントを経験してみたい」という声が聞かれますね。あとは単にやってみたけど向いてなかったという方も。
海野P:ちなみに向いてなかった理由は?
田中:フリーランスには、どうしてもセルフマネジメント能力が求められるので、時間管理やタスク管理が苦手な人は向いていないかもしれません。実際にセルフマネジメントがしんどいからという理由で会社員に戻られた方もいます。働く場所と時間を決められているほうがラクだ、と。
今の職場に窮屈さを感じているなら
海野P:これまで内心憧れながらも「フリー、怖い。無理……」と漠然と思ってたのが、今回お話をうかがって印象がかなり変わりました。
田中:フリーランス転身、全然ありだと思いますよー!
鈴木:フリーランス、いいよー! 楽しいよー!
海野P:いやいやいやいや……(苦笑)。今すぐフリーになるつもりはないけれど、自分の経験値を広げて単価感を上げる努力はしたいなあ、と。
田中:いいと思いますよ。副業禁止であれば、プロボノ的に週末や終業後の時間を利用して関わって経験値を上げていくのもありですし。私も会社員時代は、あるNPOの広報をプロボノでやっていました。未経験の分野でいきなりお金をもらえなくても、腕だめしになりますから。
鈴木:フリーになりたいかどうかも、向いてるかどうかもわからない人も、今もし何か窮屈さを感じているなら、それを解放するために始めてみてもいいかもしれませんね。
広報、人事、経理、マーケティングなど、いわゆる「文系総合職」にまで広がりつつフリーランスという働きかた。その最前線を見せていただき、田中さん、ありがとうございました!
(構成:ウートピ編集長・鈴木円香)