『毒親』インタビュー・前編

“毒親育ち”だったとしても…自分を育て直すために大事なこと【中野信子】

“毒親育ち”だったとしても…自分を育て直すために大事なこと【中野信子】

「うちの親、ちょい毒親入ってるんだよね」––。

ここ数年、日常会話や友人との何気ない会話で聞かれることが多くなった「毒親」という言葉。元々は1989年に発表されたアメリカのスーザン・フォワードの著書『毒になる親』をきっかけに知られるようになりました。子供の人生を支配し、子供の成長にとって「毒」となる振る舞いをする親のことを指し、ドラマや映画などでも頻繁に取り上げられるように。

3月25日に新刊『毒親』(ポプラ社)を上梓した、脳科学者の中野信子(なかの・のぶこ)さんによると、毒親とは「自分に悪影響を与え続けている親その人自身」というよりも「自分の中にいるネガティブな親の存在」と言います。

大人になっても対人関係に影響を与え続ける親子の関係とは? 中野さんに前後編にわたって話を伺いました。

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なぜ「毒親」なのか?

——毒親をテーマに執筆された経緯を教えてください。

中野信子さん(以下、中野):人間の悩みのほとんど……と言ったら言い過ぎかもしれないのですが、かなりの部分が人間関係の問題で占められると思っています。

では、「人間関係の基礎の基礎」といえる部分がいつつくられるのかというと、生後6カ月から1歳半までの間なんです。子供は、親や養育者との関係の中で対人関係の基礎となる型を身に付ける。

この部分のキーワードは「愛着」です。この人は自分を重要視してくれるのだろうかという生理的な部分の素地ができてしまう。9割の人がそのスタイルを大人になってからも保持するんです。それを基にした、人間関係のいわばひな型のようなものを「内的作業モデル」と呼びます。

——親との関係性が大人になってからの対人関係にも影響するということですね。

中野:そうです。すると、対人関係をなかなか意思の力で変えようと思っても難しい。揺り戻しが必ずあるでしょう。そして、失敗するごとに「お母さんがこんなふうに自分のことを扱ったからだ」とか「お父さんにこんなことされたからだ」と親と自分との関係に原因を探してしまうことになるでしょう。

親を責めるだけで根本から問題を解決できるのならいいのですが、そうではないのではないでしょうか。私は、その感情をあおるような本を出したくはありませんでした。親がたとえ死んだとしても自分の中は生き続けている。そして、自分が解決できない限り、自分の選択や判断にずっと口を出してくる。その「自分の中の親」を、どう捉え、どう消化していけばいいかを掘り下げていきたいと思い、本書を刊行しました。

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自分の中にいる“毒親”から自由になるには?

——親から「おまえはダメだ」「おまえはいらない人間だ」というメッセージを受け続けると自分を肯定できなくなるばかりか、脳にダメージを負ってしまうと書かれていました。大人になってから、誰かと健全な関係を築いて愛着を結ぶ関係をつくるにはどうすればよいのでしょうか?

中野:まず、この本のテーマである「毒親」について確認しておきたいのですが、毒親は「親そのもの」のことではないと私は考えています。むしろ、子供と親との相性の悪さを示す指標的な概念と考えたほうがしっくりくる。

自分の親が毒親だったといって彼らを責めても、得られる効果は、自分の抱えた痛みを一時的に解消することだけなんです。それでは、苦しみは必ずぶり返してしまう。そのたびに、また自分の親は毒親だった、といって彼らを責め続けることになるでしょう。そんな無間地獄のような苦しみを増幅するために「毒親」という言葉があるのだとしたら、もうこれは、どちらも救われません。

本当は、その苦しみから解放されたいはずです。それならば、自分が抱えている傷がどれほど深いのかを知り、それを癒やしていくために、自分にとって親とは何だったのか、親との関係は何だったのかの決着をつけるためにこそ、「毒親」と向き合うべきなんじゃないでしょうか。

もしあなたが「毒親育ち」であったとして、当事者である親がいくら謝ったとしても、それは、実は最終的な解決にはつながらないのではないでしょうか。謝られたら、許さない自分のほうが悪いみたいじゃないか、なかったことにするな、と、苦しい気持ちはますます強くなってしまうかもしれません。

苦しいと思いますが、自分を解放できるのは親でも、恋人でも、友人でも、ほかの家族でもなく、自分自身だけなんです。絶対的な悪者がどこかにいるわけではなく、それがいるとしたら、自分の心の中にいる。だから、自分の中に存在するその姿をどうにかしない限り、外側にいる親に何かをしてもらっても根本的な解決にはならないんです。

それではどうすればいいのか。意識的に、自己肯定感を高くしよう、高くしようとがんばってしまうと、かえって逆効果になってしまうこともあります。ご提案したいのはこれからお話しする二つの方法です。

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適切な愛着をもってくれる人と関係を築く

中野:一つは自分のことを丁寧に扱ってくれる、適切な愛着を持ってくれる人を探すこと。この人なら信頼しても大丈夫、離れていてもいざというときには自分の味方をしてくれる、という相手です。友達とか恋人とかになるでしょうけれど、恋人には依存しすぎてしまうかもしれませんから、恋愛の対象にならない人のほうがいいかもしれませんね。愛着に傷を抱えた人は、なぜか自分をダメにする愛情を注いでくる人を好きになるんですよ……。

——ダメ男とばかり付き合う人とか……。

中野:そうそう。栄養にならない甘さ、みたいな愛情というかね。一瞬だけ効く甘さをくれるんだけど、すぐに別のところにいっちゃうような人。気まぐれに甘い言葉を送ってくるだけのような人。でも、そういう人ではなくて、常に淡々と、必要なときに栄養を与えてくれるような相手とちゃんと関係をつくれるようにすることが大事です。

——でも、それって自分で分かるのでしょうか? 分からないからこそダメな人とばかり付き合ってきたんですよね?

中野:なかなか、最初はそういう人には心引かれないかもしれないですね。そういう人には刺激を感じないというか。

——物足りないって思っちゃうんですよね。「真面目過ぎてつまんない」とか。

中野:そうですね。本当は淡々と愛してくれているってとても大事なことなんですけど。それには気付かないんですね。そういう人と運良く出会って、一緒になれればいいけど、なかなかうまくはいかないかもしれません。

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自分を大事にする練習をする

中野:そこで、他人に頼らない方法もお伝えしておきます。二つめ、というのがこれで、「自分を大事にする練習をすること」です。

自己肯定感が低い人って、自分には良いものを身に着ける資格がない、と感じているからなのか、身なりで分かるところがあるんですよね。バッグだけはブランド物だけれど、靴がボロボロの安物、とか、見えやすい部分は取り繕えているけれど、見えにくい部分はかなり適当、とか……。どこか違和感があるんです。

そういう人は、まず大事な人にプレゼントするような高価なものを、自分にプレゼントしてみてほしい。いくら以上のものを買えばいい、というのではなくて、自分に対してはそんなお金を使えない、というようなものを自分に対しても贈るんです。物欲を我慢できないときに言い訳として使う、自分へのご褒美、という感じとはちょっと違いますね(笑)。

日ごろから「ラペルラ」の下着を着けるとか、「ヴァン クリーフ&アーペル」のジュエリーを着けようとか。ちゃんと身に着けて、自分はこれに見合うすてきな人間ですっていうことを、ちゃんと自分自身に確認させていくんですよ。

不思議なことかもしれませんが、自分を大事にすることが難しい人って、身近にいる大切な人のことを大事にできないんですよ。たとえ、誰かが大事にしてくれても、それには下心があるんじゃないかと思ってしまって、その気持ちを、そのまま受け止めることができない。「こんなに素晴らしい人が本当に自分のことを好きになってくれるわけない」と、せっかくの縁を切っちゃうんですね。

——「何か魂胆があるはず」「私を利用しようとしている」と思ってしまうのですね。恋愛関係に限らず、普通の人間関係でも時々見られますね。

中野:そういう人は意外にたくさんいるような気がしますね。一方で、普段から自分を大切にしている人は、自分を大切にしてくれる誰かに出会ったとき「さすが、この人は私の価値を分かる人だ」と思えるんじゃないでしょうか? 自分の良さをこの人は理解できるんだ、そういう自信が自然と持てる。

「自信過剰の“痛い人”なんじゃないかって?」むしろある程度の年齢以上になったら、自分はダメだと思い込んで相手の信頼や好意を疑い続ける人のほうがもう痛いですよ(笑)。自然な自信を持てるか持てないかというのは、その先の人生を決めてしまうような大きなことですよね。自分を信頼してくれた人との縁が、しっかりとつながるかどうかが、それ一つで変わってしまうからです。

——中野さんも本の中で「昔は自己肯定感が低かった」と書いていらっしゃいましたが、自分を大事にする練習をやったんですか?

中野:やりました(笑)。大切な人にしか入れないようなおいしいコーヒーを自分にも入れようとか。ちゃんといい豆を買って、自分で挽(ひ)いてね。

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(聞き手:ウートピ編集部:堀池沙知子)

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