映画『未来を花束にして』インタビュー

「女性がしんどい社会」は変えられる? 伝説の女性活動家のひ孫・ヘレン・パンクハーストさんに聞く

「女性がしんどい社会」は変えられる? 伝説の女性活動家のひ孫・ヘレン・パンクハーストさんに聞く

世界の先進国の中でも、男女平等の度合いが遅れていると言われる日本。しかし、不平不満を口にすることはあっても、日本の女性たちが、大規模なデモなど目立つアクションを起こして政府や勤務先に抗議するケースは稀です。

時をさかのぼって、20世紀初めのロンドン。女性に選挙権が認められていなかった当時の英国には、先鋭化する女性参政権運動に身を投じた“サフラジェット”と呼ばれた女性たちがいました。そんな彼女たちの闘いを描いた映画『未来を花束にして』(原題:Suffragette)(サラ・ガヴロン監督)が1月27日から公開されました。

運動のカリスマ的リーダーだったのは、メリル・ストリープさん演じるエメリン・パンクハーストという女性。その曾孫にあたり、活動家でもあるヘレン・パンクハーストさんが映画の公開に先駆けて来日。社会の意識改革や日本の女性の印象について語りました。

来日したヘレン・パンクハーストさん

来日したヘレン・パンクハーストさん

どんな女性も歴史を作ることができる

(C)Pathe Productions Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2015. All rights reserved.

(C)Pathe Productions Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2015. All rights reserved.

『未来を花束にして』の主人公・モード(キャリー・マリガン)は、洗濯工場で働く24歳の貧しい女性。同じ職場で働く夫と幼い息子の3人で暮らしています。どんなに劣悪な待遇で働かされ、虐げられても、それを受け入れるモードでしたが、下院の公聴会に出席し、職場の待遇や身の上を証言したことで「違う生き方を望んでいる自分」を発見する……というストーリー。

——モードが公聴会で自身の身の上を語るうちに、「もしかしたら、違う生き方があるのではないか…」と気づくシーンが印象的です。改めて感じたのは、「当たり前」だと思っていることに対して疑問を持つことの大切さでした。

ヘレン・パンクハースト(以下、ヘレン):そのとおりですね。どの社会にも、進歩的な考え方をする人もいれば、まだ途上の人もいるし、現状に疑問を持たず変わりたくないと思っている人もいます。

——今回来日されて、取材や講演などでさまざまな日本の女性の意見を聞く機会があったと思います。日本の女性は先進国の中でも男女平等の度合いや社会進出が遅れていると言われていますが、不満があっても表立って抗議しないという特徴があります。

ヘレン:確かに、おっしゃるような特徴を私も感じました。日本人の心理に内在している性質なのでしょうか。声を上げなければ、叶うことはないわけで、そういう意味ではよくないと思います。一方でよいと思うこともありました。他の国で感じるマッチョイズムや、女性が男性の暴力にさらされる傾向は薄いのかなと感じました。

——他国と比べれば、そうかもしれません。

ヘレン:ある歴史学者の、「礼儀正しい行動をとる女性が歴史を作ることは稀」という言葉があります。だけど私は、どんな女性も歴史を作ることはできる、物事を変えていけると思う。ただ、私たちはそんな女性たちがやっていることをちゃんと見て、そこに価値を見出して、認めなくてはいけないのです。

社会が変わるのは大多数から声が上がった時

ヘレンさん2s

——今、日本政府は「すべての女性が輝く社会」を提唱し、管理職への女性の登用などを呼びかけています。でも、まだまだ日本の社会には「家事は女がするもの」という意識が根強く存在し、そこへそらに「もっと働け」と負担を強いられているように感じている女性も多い。若い女性には専業主婦願望が強まっているという傾向も指摘されています。意識を変えるには何が必要だと思いますか?

ヘレン:簡単な答えはありません。ただ、これは男性の場合もそうなのですが、「家庭なら家庭」と一方に押し込むことによって、社会が払うコストはとても大きくなると思うのです。もちろん、専業主婦を望む方はそれはそれでよいのですが、意識は変えていかなければいけません。

では、どうすればいいのか? 方法はいろいろあると思います。たとえば、SNSやメディアをとおして経験を分かち合うこと。ロールモデルの存在も役に立つと思います。大切なのは、社会通念自体をシフトさせていくこと。

最初にお話ししたように、世の中にはいろんな人が存在します。進歩的に変化を受け取る人、まだその途上にある人、変わりたくない人。社会が大きく変わるのは、大多数から「これでは足りない」と声が上がった時なんです。その時がいつ来るかはわからない。だけど、我々全員が変化に向かう力になることはできます。

さまざまな“抵抗”を試みた先輩たち

(C)Pathe Productions Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2015. All rights reserved.

(C)Pathe Productions Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2015. All rights reserved.

——曾お婆さまのエメリンさんは、女性参政権運動を展開する女性社会政治同盟(WSPU)のリーダーとして活躍された女性で、サフラジェットのカリスマ的な存在でした。WSPUは、時に戦闘的な手段を用いることを厭わなかったと言われていますが、この姿勢についてヘレンさんはどう考えていらっしゃいますか?

ヘレン:実は、彼女たちにはあまり知られていない面もたくさんあって、戦闘的な手段にいたるまでには、メディアの注目を集めるために、ユーモアに富んださまざまな活動を行ってはいたんです。でも、映画など後日談としてサフラジェットのことを語ったり、簡潔に伝えようとすると、どうしてもネガティブな要素である武闘派としての面が重点的に取り上げられてしまうのです。

——さまざまな抗議を試みても改善されなかったがゆえに、過激な行動にシフトしていったんですね。実際、どのような活動を行っていたのでしょう?

ヘレン:ひとつ挙げると、1911年に国勢調査が行われたとき、サフラジェットたちは様々な形でボイコット活動を行いました。単純なものでは、調査員に戸をノックされても対応しなかったり、記入フォームに「No vote, No census」(選挙権がないなら国勢調査には答えない)と書き込んだり。また、記入フォームに健常者でない場合はその旨を申告する欄があったそうなんですが、そこに女性たちが抱える“障害”という皮肉をこめて「権利を奪われた者」と書き込んだりしたそうです。簡単に武闘派だったと片付けられがちですが、さまざまな活動をしていたということを、ぜひ伝えていただきたいですね。

映画はTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー。

(新田理恵)

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