スイスはとっても自然が豊かな国。どこに行っても、『アルプスの少女ハイジ』の世界が広がります。身近な山や森や湖を利用して、1年中、体を動かすことが好きな人たちが多いです。そんな運動好きの人たちの間で、ここ数年、室内でするのが基本のヨガが一大ブームになっています。とくにチューリヒでは、数十メートル歩いたら次のヨガ教室がある、と言っても言いすぎではありません。
チューリヒエリアのイベント情報誌『チューリティップ』(2011年2月)も、チューリヒでのヨガ人気を取り上げて、「チューリヒには、ヨガがいたる所にある。ヨガブームは終わりがみえない」と書いています。
30代から50代の女性に人気
個人経営のヨガ教室や、フィットネスセンターのヨガクラスに通うスイス人の女性たちは、私のまわりにもよくいます。コースに通わずに、自宅でビデオを見て自分でという人も数人知っています。企業でもヨガは歓迎されています。つい最近も、私の家から徒歩5分のスイスの国際企業に勤める女性から、社員を対象に夕方週2回ヨガレッスンが開かれていると聞きました。ヨガのインストラクターをしているスイス人の女性も、近所だけで数人知っています。
こんなふうに、「この人も、あの人もヨガ実践者」です。先の『チューリティップ』では、チューリヒがスイスの中で最もヨガ実践者が多く、継続的にコースに通う人は推定2万人と書いています。チューリヒは、スイス最大の都市で人口が多いため(約39万6千人/2015年12月時点)、ヨガをする人も多くなるのは当然だと思います。
全国的な傾向としてもヨガの人気が高まっています。『スポーツ・スイス 2014』(②)という政府が実施した調査によると、国民の3.5%がヨガ実践者です。人気を支えるのは女性たちです。
全国的な傾向としてもヨガの人気が高まっています。ヨガのみの統計ではありませんが、『スポーツ・スイス 2014』(②)という政府が実施した調査によると、ストレッチ系・癒し系のスポーツ「ヨガ、ピラティス、太極拳、気功など」の実践者は、前回の調査『2008』よりも増加しました。男女とも増えましたが、とりわけ女性の増加が目立ち、人気を支えるのは女性たちです。それらのスポーツをする男女比は男性1.8%、女性11.8%で、およそ9割(全体の86.7%)が女性という結果でした。
下の図はそれらのスポーツの実践者を男女別・年代別に表したものです。15~29歳の女性の割合が最も伸びたという結果が出ました。
スイスのヨガの起源は…
先出の『チューリティップ』によると、ヨガは、ヨーロッパで東洋的な考え方に大きな関心が高まった1890年代後半にチューリヒに紹介されました。当時は、一部の人たちが実践しているだけでしたが、1935年に、クニ―という今もスイスで愛されるサーカスでヨガがパフォーマンスとして披露されて、一般の人たちにも知られることになりました。
チューリヒに最初にヨガ教室が登場したのは1949年です。インドのチェンナイ出身の男性が一般の人たちにヨガを教えて人気を博しました。この学校のことは、ほかのヨーロッパの国々にも知れ、国外からもチューリヒにヨギ(ヨガを実践する人)がやってきたといいます。
ストレス解消のためヨガに
スイスでも、ヨガは様々なタイプがあって、インストラクターによって内容が違います。チューリヒでは、毎年、少なくとも100人のインストラクターが生まれているそうです。先日、私もチューリヒ中心部とチューリヒ湖沿いの町の2カ所で、ヨガクラスに参加してみました。
1つは平日午前のパワーヨガ、もう1つは土曜午前のハタヨガでした。どちらも30人以上で、スタジオは所狭しといった状態でした。男性は2,3人で、やはり、ほとんどが20~40代と思われる女性。少し難しいポーズができている人もいたものの、ほとんどはインストラクターの動きを忠実に追うのに懸命といった様子でした。
どのヨガクラスに出席するにしても、なぜ、いまヨガの人気が高いのでしょうか。
私のまわりからは、こんな声が聞かれます。「フルタイムで働いているでしょう。週1回のヨガは何もかも忘れることができていいわね。ホント言うと週に何回も通いたいくらいよ」「とにかく気持ちがいいですね。小さい子どもが2人いるので忙しいけれど、この1時間だけは絶対に確保するようにしています」
女性たちにとっては、その忙しさから週に1時間や1時間半だけでも逃れ、ヨガで気持ちを静めることがさぞかし心のリフレッシュになるに違いありません。ヨガではないですが私はダンスに通っていて、ダンス仲間の女性たちはほぼ全員がスイス人です。毎回「楽しかった! 気持ちがスッキリした!」と言う彼女たちの顔は輝いています。
そして、ヨガには、言うまでもなく、体を強くする効果もあります。
寒さが厳しくても、ヨガなら気軽!
それにしても、スイスの女性はなぜヨガが好きなのでしょうか。明確な答えは、わかりません。推測ですが、ヨガは敷居が低いのだと思います。ハイキングコースまで出かける必要もなく、自転車やスキー用具もいらず、天気がすぐれずに走れないといったこともない、ヨガは近所や会社内のスタジオに行けばいいだけです。
とくに寒さが厳しい冬は、スキー系以外のアウトドアスポーツは不向きです(ちなみにですが、寒いため11月から3月まで休業する屋外レジャー施設も多いです)。心身のリフレッシュは日ごろこそ必要で、運動したい人が多いとなれば、天気に関係なく室内でき、精神性を重視するヨガは広まる要素がそろっているといえます。
日本でもヨガは女性たちの間で相変わらず人気ですが、ここまでヨガが必要とされるのはそれだけ現代人の心が疲れているということなのかもしれませんね。
【出典】
①『ZÜRITIPP』2011年 2月3~9日
②『Sport Schweiz 2014』 Factsheets Sportarten
18ページ 「Yoga, Tai Chi, Qi Gong, Pilates」