昨年3月に50歳でTBSを退社し、フリーランス人生がちょうど1年経った、堀井美香さん。
今年2月には、初の書著『一旦、退社。 50歳からの独立日記』を大和書房から上梓しました。
本書では、働くことについて、美容について、ノースリーブについて、ヒールについて、車について、朗読についてなどが、真摯に、かつ自由に書きつづられています。
「私は平凡、普通」とつねづね語っている堀井さんの魅力に迫ります。(全3回の第1回)
書きたいことが、意外とたくさんあった
——堀井さんが、50歳でフリーランスになるとポッドキャスト番組「OVER THE SUN」で発表したとき、「詳しく知りたい!」と思ったので本が出てとても嬉しいです。
堀井美香さん(以下、堀井):ありがとうございます。
——けど、早くも「断筆宣言*」されて。「人に読んでもらうためには、どうしてこういう感情になったのか、隙間の部分まで書かないといけないから、見たくないところもいったん俎上にあげて自分を見つめざるを得ない。なので書いているうちに自分の中で整理されて、書く前と書いたあとで見える景色が違ってくる……」というようなお話をされていたと思うのですが、「書くこと」の効能を知ったうえで、断筆を決めたのでしょうか?
*2023年1月27日配信「OVER THE SUN」Ep.121にて
堀井:すごくいい経験をさせていただいたのですが、今まで子どもの連絡帳や会社の評価表を書くくらいしか文章を書くことをしてこなかったから、たぶん慣れないことをするのに疲れたんだと思います……。いろいろなことをたくさん考えましたし。
書き始めたころは「後半はネタがなくなって苦しくなる」と思ったのですが、実際は後半にいくにつれて時間のかけ方も少なくなってきて。前半は1日がかりで書いていたので、少しは慣れたのかもしれません。
——誰かが読むことを前提にした文章なので、「こう見られたい」と他人の目を意識するようなこともあったのでしょうか。
堀井:「自分のブランドの見え方」のために情報とか考えとか気持ちを操作することはありませんでした。けれど、文体としてアホだと思われたらイヤだなというのはあったかな(笑)。文の構築の仕方とか、皆さんが「買って損した」と思わないように、文章としてちゃんと成立させるにはどうしたらいいんだろうと、最初は書いては止め、書いては止めの連続で。
——気になると筆が進まなくなりますよね。テーマはどのようにピックアップしたのですか?
堀井:退社前からの約9ヶ月のことを日記形式で始めたのですが、大きいテーマを抽出するというより、「歩いていたら蕎麦屋があった」とか、日々起こったことを書いていきました。途中でやめようとは思わなかったし、書き方がわかってくるとすごく楽しくなってきて。書きたいことは意外といっぱいあるんだなと思いましたね。
——堀井さんの話が聞きたいと、いろんな媒体からお声がかかっていることに対しては、どんなふうにお感じですか?
堀井:申し訳ない気持ちでいっぱいです……。
——えっ、なぜ?
堀井:うちの夫は私が取材された記事にまったく興味がないのですが、あるときふと表示された私の記事を1回読んでしまったばっかりに、(アルゴリズムの関係で)ネットを開くたびに私の記事が表示されるらしくて。「なんとかして欲しい」「どれだけ取材受けてるの(笑)」と言うんです。同じ状況に陥った方がきっといるんだろうなと思うと、申し訳なくて……。
でも、話を聞きたいと思ってくださるのはうれしいと思うし、今日みたいにコーヒーを飲んでみんなとおしゃべりして帰るというのは、すごく楽しい時間です。
——アナウンサーという職業柄、ふだんは聞くほうがメインですが、しゃべるとなるとどうですか? やはり戸惑いがありますか?
堀井:戸惑うというより……私は聞きのポジションに入るとラクなんですよ。だから聞きポジがすごく好きだし、それで相手がしゃべりたい人だったらお互いハッピーになるじゃないですか。だから、自分がしゃべる側になるときは、お互いハッピーになりたいから積極的に話します。でも、あとで自己嫌悪ですよ……。なんで私、あんなベラベラしゃべってたんだろうとかって。もうほどほどにしようと毎回思います……。
おばさんの話、聞きたい?
——「OVER THE SUN」は堀井さん、(ジェーン・)スーさんと同世代の女性にかぎらず、若い女性や男性のリスナー(互助会員)も多いですよね。堀井さんは「自分が20代のときには50代の女性、いわゆるおばさんの話とかは特に興味なかったけど、最近の子は興味あるんだ」というようにお話しされていましたけど、それはなぜだと思いますか? 時代の変化?
堀井:そうですね、文化とか洋服とか、割と年齢差なく、みんなで愛でられるようになったというのはひとつありますよね。昔は、「この年齢はこういうもの」となんとなく決まっていて、年齢でくくったグループも多かっただろうし。
今は、ひとつのグループやチームであっても、いろんな年齢の人が混ざっているのが主流じゃないですか。何か面白いものがあったときに、いろんな世代の人が同じように楽しめるっていう土壌は、なんとなくできてきたんだと思います。
スーちゃんとはよく「おばさんの話なんか聞かなかった」と言っていますが、振り返ってみると、私自身はおばさんと一緒にいるのがけっこう好きなほうでした。2、3歳上の先輩より、10、20歳年上の人の話を聞くのが好きだったんですよ。だから、今若い世代の人たちが私たち世代の話を聞きたいっていうのも、なんとなく理解はできるんですよね。
——堀井さんが年の離れた女性と話すのが好きだったのは、どういう理由で?
堀井:たぶん、2、3歳上の先輩だとちょっと生々しかったり、違う気持ちが入ったり。何か相談しても俯瞰して教えてくれるというよりも、私とその人の関係性、利害関係、感情も入ってくるから、あまり得意じゃなかったのかもしれないですね。
一方で、10、20歳上の人は、そういう感じが薄まるというか……世代が近い人たちよりも身構えずにいられました。だから、憧れの先輩にウロチョロくっついていましたね。なんとなく「自分も10年後はこうなれたらいいな」みたいな、道しるべみたいに感じていました。
——世代が近いと確かに生々しい嫉妬を抱いてしまうこともあるかも……。堀井さんは側から見るとキャリアもライフイベントも順調そうで、割と嫉妬される側ではないですか? もちろん堀井さんだって何かは抱えていると思うのですが。
堀井:同じステージで同じ環境、同じ状況にいるとライバルにもなってしまうかもしれないから、100%は応援できないこともありますよね。でも、めちゃめちゃ年上の人たちって、娘にするみたいにアドバイスをくれるので、それが心地いいんです。
今、「OVER THE SUN」を聞いてくれている若い世代の人たちが、何を求めて聞いてくれているのかは直接聞いたことがないのでわかりませんが、「自分たちが40、50になったときにどういうふうになるんだろう」「こういうふうになるのかな」と垣間見るような感じなのかもしれないなと思っています。
——個人的には、堀井さんとスーさんが楽しそうにワイワイしていると、大人になってもふざけていいんだというか、そんな安心感があります。40代、50代になったら健康の話とか介護の話とかに話題が固定されるかと思いきや、あんなに雑多な話ができるんだって。
堀井:最初はテーマを設けよう、まじめな話を3回に1回はやろうって言ってたんですけど、もうそれもなくなりましたね(笑)。野放し。何も決めてないんですよ! 「これ明日の収録で言いたい」ってLINEを送りあっても、たいていしませんし。私も忘れているし、スーちゃんも忘れてる。だからたぶん、全然価値はないと思うんですよ、私たちの話自体には(笑)。
第2回は3月18日公開予定です。
(構成:須田奈津妃、撮影:西田優太、聞き手:安次富陽子)