好きな人とそうでない人と、料理は作り分ける? 平野レミの回答は…

好きな人とそうでない人と、料理は作り分ける? 平野レミの回答は…

料理愛好家の平野レミ(ひらの・れみ)さんによるエッセイ集『エプロン手帖』(ポプラ社)が2月15日に発売されます。

1995年に文化出版局より刊行された『平野レミのエプロン手帖』を大幅に加筆・修正のうえ、新たに原稿を加えて再編集。レミさんの、子ども時代の味覚の記憶から、両親や亡き夫・和田誠さんとの料理にまつわるおいしい思い出までをつづっています。

本の発売を記念して、ウートピでは「はじめに」と同書のエピソード「料理をおいしくするコツ」を公開します!

はじめに

「好きな人に料理を作るときと、好きじゃない人に料理を作るとき、どんなふうに作り分けていますか?」

先日、小学生からこんな質問をされました。私は「相手が誰だろうと全然関係ありません。いつもおいしく作ります」と答えました。だって、私も一緒に食べるんだから、おいしくないのは絶対に嫌です。人によって作り分けよう、なんていう態度はごちそうする人に失礼だし、料理にも、食材にも失礼です。食材にはいつも敬意をもって接したいと思います。

私はいつも「食材には人格がある」と言っています。例えばきゅうりの人格はシャキシャキの歯ごたえ。なすならきれいな紫色。れんこんみたいに調理方法によってネバネバしたり、カリカリしたり、ホクホクしたり、いろいろ変わる人格もある。料理をするときは食材の人格を尊重することが大切。そうすると食材たちにも気持ちが伝わって、自然とおいしくなるものです。

『エプロン手帖』は二十八年前に出した本をリニューアルしたもの。ちょうど子どもたちが成長して、私の手から離れた頃です。五十一の食材にまつわるエッセイを思いつくままに書きました。いちばんの思い出は、私が自分で写真を撮ったこと。料理を盛る器を考えたり、背景に和田さんのポスターや自分のブラウスを敷いたり、スタイリングも自分でやりました。

「明日の写真はどうしようかな、何しようかな」って寝る前に考えて、次の日の朝に写真を撮る毎日。仕事に行く前の和田さんを「ちょっと手伝って」なんて引き留めて。慣れない写真は緊張するし、忙しいし、大変だったけど、楽しかったな。また和田さんと一緒に写真を撮って、こんな本を作りたい、なんて思っちゃいます。

令和五年二月吉日平野レミ

料理をおいしくするコツ

料理をおいしくするコツは、味つけももちろんですが、気分よく食べることも大事だと私は思います。どんなにおいしい料理だって機嫌の悪いときに食べたのではおいしく感じられません。気分というのも立派な調味料です。

味以外に、料理をおいしく感じさせるものの一つに、食器があります。同じ食べ物を盛っても、器が変われば気分も変わってきます。おっかけ茶碗でご飯を食べるより、美しい茶碗で食べたほうがおいしいに決まっています。

でも、おっかけ皿でおいしい料理、という思い出もあります。私の祖父はスコットランド系のアメリカ人で、カリフォルニア州のサン・マテオという町のお墓で眠っています。そのお墓を私と夫がアメリカ旅行で見つけ、それまでアメリカに行ったことがなかった父をお墓参りに連れていき、しかもアメリカの親戚まで見つかりました。あちらも日本人に親戚がいたというので、驚いたり喜んだりして、食事に招いてくれました。野性のラクーンが庭で遊んでいる立派なお邸の、立派なディナーでした。ところがメインのお肉がのっていたお皿は、縁がかけていたのです。私は、どうしたんだろう、と不思議に思いました。実は歓待されていないんじゃないかとも一瞬思いました。ところが日系のメイドさんが日本語でそっと教えてくれたところによると、そのお皿は百年以上前のもので、その家に代々伝わっていて、いちばん大事なお客さんにだけ出してくれるのだそうです。それを聞いて、一見みすぼらしいおっかけ皿が、急に美しく輝いて見えたのでした。

父はミックスですが、日本の古い文化が好きで、各地の焼き物を大事に持っています。私も若いころから陶器が好きでした。偶然、夫の趣味も一致していました。

夫は自分で陶器を作ったり、お皿に絵を描いたりすることがあります。イラストレーターですから、描くのは得意なジャンルです。私も一緒に窯元へ行って、食器をたくさん作りました。夫は実用性のないものを作るのが好きですが、私は実用一点張りで、すぐ使えるものを作ります。私が形を作って、夫に絵をつけてもらうこともあります。

シロウトが作った食器ですから幼稚なものだけれど、自作の食器に自作の料理を盛るのは、ちょっとゼイタクな気分で、この気分もなかなか悪くありません。

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