寒気の到来で、インフルエンザの流行と新型コロナウイルス感染症の今シーズンの行方が気になります。同時流行はあるのでしょうか。ワクチンはどちらを優先して打てばいいのでしょうか。感染症や免疫に詳しく、『免疫入門 最強の基礎知識』(集英社新書)の著書で耳鼻咽喉科・気管食道科専門医の遠山祐司医師にお話しを聞きました。
アジアの亜熱帯地域でインフルエンザが流行
——2021~’22年のインフルエンザシーズンについて、日本感染症学会は9月末に、今シーズンの動向予測や「インフルエンザワクチンの積極的な接種を推奨します」と発信しています。
遠山医師:現在(2021年11月初旬)のところ、日本ではインフルエンザは流行していません。流行予想の参考になる南半球の国からの報告でも極めて少ないとされています。ただし、アジアの亜熱帯地域、とくに、インドとバングラディシュではこの夏に流行が見られたことが危惧されています。
日本感染症学会は、「海外への人の移動が再開されると、世界中へウイルスが拡散される懸念があります」と発信しています。昨シーズン、日本ではインフルエンザが流行しなかったことで、社会全体の集団免疫が形成されていないと考えられること、また、人の移動で海外からウイルスが持ち込まれると大きな流行を起こす可能性もあるとも伝えています。
——その可能性を前提として、インフルエンザワクチンの接種を勧めているのですね。
遠山医師:そうです。日本でいったん流行しはじめると、多くの人の抵抗性が低いので、感染しやすくなると思われます。
——新型コロナとの同時流行の可能性はありますか。
遠山医師:もちろん可能性はあります。新型コロナは第6波が懸念されています。緊急事態宣言が解除されて秋の行楽シーズンや年末年始の人の流れ、緊張の緩み、ワクチンの普及、海外との人の出入り、各自の感染予防の実践の状況に大きく左右されるでしょう。現在、日本では感染者数は減っていますが、海外では依然として多いまま、あるいは増えているところもあります。
インフルエンザワクチンは足りている?
——今シーズンは、インフルエンザワクチンが不足するかも、と言われています。
遠山医師:新型コロナウイルスのワクチンの製造で世界的に資材不足となり、今季のインフルエンザワクチンの供給が例年より20%ほど遅れているようです。かかりつけの患者さんだけ予約を受け付ける医院や、すでにいったん、予約を停止した医院もあります。
ただし、厚生労働省は、供給量は徐々に増え、12月には例年通りとなる予定としています。心配する必要はないでしょう。
——13歳未満の子どもは、インフルエンザワクチンは2週間以上の間隔をあけて2回打つ必要がありますね。新型コロナワクチンの供給が停止された時のように、困ったことにはならないのでしょうか。
遠山医師:すでに子どもの接種では医療現場は混乱をきたしています。しかし、先ほど話したように、12月にかけて供給は増えるので、あせらず、慌てず、感染の予防を実践してください。また、日本では現在のところ、新型コロナワクチンは12歳未満は接種できません。その年齢でインフルエンザワクチンが接種可能な人は接種しておきましょう。
ワクチン接種の優先順や、間隔は?
——インフルエンザワクチンはいつごろ接種するのがいいのでしょうか。
遠山医師:例年通り、12月中旬ごろまでが推奨されます。インフルエンザは日本では12月~3月に流行し、ピークは1月末~3月上旬ごろです。ワクチンを接種しても抗体ができるまでに2~4週間かかるので、12月中旬までの接種が望ましいわけです。
ただし、忙しい時期で接種しそびれた場合は、1・2月でも大丈夫です。とくに今シーズンは新型コロナとの同時流行の可能性もあるので、接種が強く勧められています。
また、インフルエンザワクチンの接種でできた抗体の持続期間は約5か月です。そのため、毎年の接種が推奨されます。
——では、新型コロナのワクチンをこれから接種する人は、インフルエンザワクチンとどちらを優先すればいいのでしょうか。また、どういう間隔で打てばいいでしょうか。
遠山医師:新型コロナウイルスのワクチンを優先してください。こちらは大人も2回接種するので、2回目を打った後、2週間後以降にインフルエンザワクチンを接種しましょう。厳密には、中13日以上の間隔をあければ接種が可能です。
——インフルエンザワクチンも、基礎疾患がある人は接種が推奨されているのでしょうか。
遠山医師:そうです。新型コロナワクチン同様に、糖尿病、心血管疾患、呼吸器疾患、肥満の場合はとくに推奨されます。また、妊婦や65歳以上の高齢者、乳幼児なども同様です。
——20~50代では、これまでインフルエンザワクチンを接種したことがない人は多いようです。「新型コロナのワクチンも打つし、たくさん打つことになって、副反応は大丈夫?」と心配する声も多いです。
遠山医師:インフルエンザワクチンの副反応は主に、接種場所の腫れ、赤み、軽い痛みが10~20%の人に、また、けん怠感、発熱、関節痛、頭痛などが5~10%の人に起こります。いずれも、2~5日間でおさまります。新型コロナワクチンのように、38.5度以上の高熱が出るケースはまれです。
——インフルエンザの予防法は、新型コロナと同じですか。
遠山医師:はい、そうです。つまり、感染予防を徹底することは、新型コロナ、インフルエンザ、風邪ともに予防することが可能になります。
そもそも、新型コロナの流行前から、インフルエンザの予防策として、ワクチンの接種、三密(密集・密接・密閉)を避ける、咳エチケット、手指の消毒、うがい、人混みに出かけないことなどは推奨されていました。
この冬はひき続き、それらに加えて、不織布などウイルスをブロックしやすいマスクの着用、外出後の入念なうがいと手洗いや手指のアルコール消毒、人との距離をあける、外食は少人数で短時間にして食事時以外はマスクを着用する、室内の換気、それに、栄養のバランスが良い食事、充実した睡眠、ストレスをためないなど、これまで実践してきたことをさらに徹底して継続しましょう。
聞き手によるまとめ
インフルエンザは、海外との移動が再開されると大流行の可能性がある、また、インフルエンザワクチンは12月には例年通り供給される予定、複数種のワクチンを接種する場合は2週間以上の間隔をあけること、副反応はいずれも数日でおさまるということです。インフルエンザも新型コロナも風邪も予防するために、ひき続き、対策を実践していきましょう。
(構成・取材・文 品川 緑/ユンブル)