何の自覚症状もなかったのに、ある日突然に気分が悪くなって受診をすると、「高血圧ですね」と診断されて驚いたと言う人はたくさんいます。そこで、日本臨床内科医会常任理事で同会認定専門医の正木初美医師に、高血圧対策について連載で聞いています。
第1回は、高血圧と診断される基準について、第2回は病院や家庭で測定したときに数値が違う理由について、第3回は家庭で血圧をうまく測る方法について、第4回は高血圧が体にどう悪いのかを伝えました(リンク先は文末を参照してください)。今回は、高血圧の種類や治療法についてお尋ねします。
原因が複数ある「高血圧症」と、原因が明確な「二次性高血圧症」
——高血圧になりやすい人の傾向はありますか。
正木医師:日本人の高血圧の80~90%が、医学用語では「本態性(ほんたいせい)高血圧」と言いますが、これが一般に言う「高血圧症」を指します。原因として、塩分のとり過ぎ、肥満、運動不足、ストレス、加齢、遺伝的な要因などさまざまなことが影響し合って起こります。患者さんの数は中年以降に多いのですが、近年では20代にも増えてきています。
一方、原因が明らかな場合を「二次性高血圧症」と呼びます。その原因とは、「腎臓の働きが悪くなって塩分と水が排出されにくくなる場合」「副腎など内分泌腺の病気によって血圧を上げるホルモンが増える場合」「血管の病気が原因」「睡眠時無呼吸症候群が原因」「ほかの病気のために使っている薬が原因」となります。
そのため、二次性高血圧は原因を特定してそれを取り除くことができれば治癒が期待できます。また、本態性高血圧とくらべると若い世代に多く見られ、20歳代前半など若いときに発症した場合や急速に進行した場合などには二次性高血圧が疑われます。
生活習慣の改善の具体的目標は
——治療にあたり、血圧の数値の目標はありますか。
正木医師:まず、一般的な治療の目標は、75歳未満は診察室血圧(第2回・第3回参照)で130/80mmHg未満を、75歳以上は140/90mmHg未満を目指します。そうすると、前回(第4回)でお話しした、心臓、脳、腎臓への悪影響を防ぐことが可能になります。ただし、ほかの病気がある場合や、個人の仕事などの環境によって、厳格に下げたほうがよい場合と、逆に慎重に下げていくほうが良い場合があります。
血圧を下げるメリットと、薬による副作用などのデメリットを考えて、かかりつけ医と相談しながら治療を進めましょう。
——治療は、具体的にどのような方法になりますか。
正木医師:「食事、睡眠、運動など、生活習慣の改善」と、「薬の服用」の2本柱で治療を行います。軽症の場合には、薬の服用はなく、生活習慣の改善から始めます。具体的に次のことをポイントに進めます。
<高血圧の治療としての生活習慣の改善>
・減塩……食塩摂取量6g/日未満
・肥満の予防や改善……体格指数(BMI:「体重(kg)÷{身長(m)}の2乗」で算出)が 25.0kg/m2未満
・節酒……アルコール量で男性20~30mL/日以下(おおよそ日本酒1合、ビール中瓶1本、焼酎半合、ウィスキー・ブランデーはダブルで1杯、
ワインは2杯、 女性10~20mL/日以下)
・運動……毎日30分以上または週180分以上の運動
・食事パターン……野菜や果物(肥満や糖尿病の場合は果物の過剰摂取に注意。腎障害の場合は医師に相談)、魚に豊富に含まれる多価不飽和脂肪酸を積極的に摂取。飽和脂肪酸・コレステロールを避ける。
・禁煙……喫煙、間接喫煙(受動喫煙)を避ける
・その他……防寒、情動ストレスのコントロールなど
——薬の服用による治療はどのようにするのでしょうか。
正木医師:生活習慣の改善がうまくいかないなどで血圧の数値が変わらない場合や、中等症以上の場合などに、「降圧薬」を処方します。降圧薬とは血圧を降下させるための薬の総称です。多くの種類がある中から、患者さんの血圧値、ほかの病気の有無、全身の状態などによって最適な薬を選びます。
複数が必要なケースもよくありますが、最近では2種類以上の成分が含まれる配合剤が登場し、服薬の負担が少ないようになってきています。
<主な降圧薬>
・カルシウム拮抗薬……血管を広げて血圧を下げます。
・ARB、ACE阻害薬……血管を収縮させる体内の物質をブロックして血圧を下げます。
・利尿薬……血管から食塩と水分(血流量)を抜いて血圧を下げます。
・β(ベータ)遮断薬……心臓の過剰な働きを抑えて血圧を下げます。
——薬の服用を開始した場合でも、生活習慣の改善は継続ですよね。
正木医師:もちろんです。薬を服用しても、生活習慣が乱れていると薬の十分な効能は望めません。生活習慣の改善は高血圧のコントロールにとってとても有用で、血圧の数値次第では、薬の量を減らす、また中止することができる場合もあります。また、高血圧を予防する観点からも、生活習慣を見直すことは重要です。
聞き手によるまとめ
高血圧には、一般に高血圧症と呼ばれる「本態性高血圧症」と「二次性高血圧症」の2つのタイプがあり、多くは前者であること、また治療には、血圧の数値目標を持って、生活習慣の改善を具体的に実践し、必要があれば薬の服用をするということです。とくに生活習慣の改善がポイントであることもわかりました。
次回・第6回は、注意したいヒートショックについて紹介します。
(構成・取材・文 藤井 空/ユンブル)