先日、極寒の日の夜中に入浴すると、バスタブを出た瞬間に不意にめまいがして座り込みました。そういう経験はありませんか。臨床内科専門医の正木初美医師は、「寒い日のお風呂、温泉、サウナではヒートショックに注意が必要です。危険なこともあります。とくに高血圧の人は気をつけてください」と話します。「高血圧と言われた、どうする?」の連載・第6回は、寒い日の入浴で注意するべきことと安全な方法について聞きました。
バスタブから立ち上がるとめまいが
——「ヒートショック」という言葉はよく耳にしますが、どういう症状を言うのでしょうか。
正木医師:気温の差が激しいと、血圧が急に上下に変動することがあります。すると、脳出血や脳梗塞(こうそく)、また心筋梗塞などの危険な病気や、貧血、失神、意識混濁などの症状が現れることがあります。これをヒートショックと呼びます。厚生労働省は、入浴時の事故で死亡する人は年間で推計19,000人としています。
——私(43歳・女性)が入浴中に体験しためまいは、ヒートショックなのでしょうか。寒い日だったので、バスタブで20分ぐらいつかってから立ち上がり、洗い場へ出た瞬間でした。吐き気もしました。
正木医師:ヒートショックの軽症の例だと思われます。バスタブに長くつかっていると血管が拡張して血圧が下がります。しかし、立ち上がった瞬間に急激に血圧が下がって脳への血流が低下し、脳貧血を起こしたと考えられます。バスタブからはゆっくりと出て、気分が良くない場合は体を冷やさないようにしながら安全なところで横になってください。
ヒートショックは高齢者で高血圧の人に多いのですが、血管が詰まる発作が起こったときにそのままバスタブで失神して溺れることもあります。めまいや短時間の失神でも、どこかに頭を打つなどケガの危険性も高くなります。
食後すぐや夜遅い時間の入浴、高温湯や高温サウナはNG
——ヒートショックを避けるために、安全に入浴するポイントはありますか。
正木医師:最大のポイントは「温度差を小さくする」ことです。血圧は自律神経がコントロールしていますが、医学的に温度差には7度まで対応しているとされます。しかし、冬の脱衣所の気温が15度で湯の温度が40度とすると、その差は25度にもなります。寒冷な地域ではもっと差が開くでしょう。この差に対応するために、脳と体の負担は大きくなります。
高血圧の人はとくに温度差によって血圧が乱効果しやすいので、次のことに注意しましょう。
・食後1時間以内の入浴やサウナ……食後は血圧が下がるため、食後すぐに入浴すると血圧が急上昇する可能性があります。
・お酒を飲んでの入浴やサウナ……アルコールの作用で血圧が低下しています。お酒を飲みながら温泉につかるという人もいますが、危険なので避けてください。
・降圧剤を飲んですぐに入浴やサウナ……血圧が下がっていると思われます。高血圧の治療中の人は、入浴前に血圧を計測しましょう。
・夜遅い時間や夜中の入浴やサウナ……1日のうちでも寒い時間帯の入浴は避けてください。可能であれば、昼食後1時間後ぐらいから夕方までの「気温が高い時間帯」に入りましょう。
・脱衣所が寒い……寒い場所で脱衣すると、血管が収縮して急に血圧が上昇します。暖房で調整してください。また脱衣所では脱がずに、浴室をシャワーなどで温めておいてから、浴室で脱衣して衣類はさっと外へ出すのが得策です。
・湯に一気につかる……寒いからといってかけ湯をせずにどぶんと湯につかると、血圧が急激に下がります。心臓への負担が強いので、足からそっと、腰までつかって徐々に湯温に慣れるように入りましょう。
・43度以上の高温湯につかる……脱衣所との温度差が大きく、自律神経のひとつの交感神経が優位になり、血管が収縮します。高温の湯に長湯は危険です。39~41度の湯に10分ぐらいつかるのが理想です。寒いと感じたときは血圧が上がっているので、お風呂場全体を温めておくことが重要です。
・20分以上の長湯をする……高温ではなくても、長湯をすると血圧は上がる、下がるをくり返します。温泉に出かけるとつい長湯をしがちですが、温まったなと思ったら湯から出ましょう。
・バスタブから急に立ち上がる……血圧が急に変化してめまいや貧血を起こしやすくなります。
・シャワーのみですます……湯船につからないでシャワーだけの場合、体が冷えて血圧が上がります。
・1日に2回以上入浴する……温泉地に行くと、日に何度も入浴することがあるでしょう。初日はとくにそれを避けて1回までとし、2日目以降に2回以上入る場合は、短時間で体に負担がかからないようにしましょう。
・高温サウナ、水風呂は避ける……同様の理由で、高温サウナに入ること、さらに、水風呂と交互に入ることは血圧の乱効果をまねきます。
・脱衣所で体をふいてはいけない……寒い脱衣所に出ると、体に付着している水分が気化して一気に冷え、血圧は急上昇します。脱衣所にはすぐに出ないで、まず、「浴室内」で体の水分をバスタオルで拭きとってから、暖房がきいた脱衣所へ出ましょう。
・高血圧、糖尿病、肥満、メタボリックシンドロームなど動脈硬化の可能性がある人、また、不整脈など心臓疾患がある人はとくに注意が必要です。
——入浴は適切であれば心身に良いものですよね。
正木医師:そうです。冷え対策、血流促進、内臓の活性化、リラクセーションなど多くのメリットがあります。それが寒いときに入り方を間違うと、危険な場所となる可能性があるわけです。できるだけ場所による温度差を縮めて、寒いと感じない工夫が必要です。トイレにも暖房をつけて、とくに夜中は注意してください。
聞き手によるまとめ
筆者の場合、深夜の入浴、長湯、急に立ち上がった、という条件が重なってめまいを起こしたようです。温泉では30分以上つかっていたり、1日に3回以上入ったりすることもありますが、確かにあとでかなり疲れます。入浴が危険な場所、時間にならないように、安全で心地よいものであるよう、正木医師のアドバイスを念頭におきたいものです。なお、日本気象協会はウエブサイト「ヒートショック予報」にて、日本各地の家の中でのリスクの目安を冬季限定で配信しています。
次回・第7回は、高血圧の治療…食習慣の改善で最重要な「減塩法」Q&Aをお送りします。
(構成・取材・文 藤井 空/ユンブル)