「若草物語」×「若草プロジェクト」インタビュー後編

「生まれたときに背負った荷物を外してあげる」村木厚子さんに聞く“女性活躍”で必要なこと

「生まれたときに背負った荷物を外してあげる」村木厚子さんに聞く“女性活躍”で必要なこと

元厚生労働事務次官で、現在は「一般社団法人 若草プロジェクト」の代表呼びかけ人を務める村木厚子さんが9月に開催されたミュージカル『Little Women 〜若草物語〜』とコラボし、トークショーを行いました。客席はほぼ満席で、約600人の観客が村木さんとキャストの話に耳を傾けました。

村木さんが携わっている「若草プロジェクト」って何? と思った人も多いのではないでしょうか? 2015年に37年間勤めた厚生労働省を退官した村木さんが取り組んでいることとは? 村木さんにお話を伺いました。

【関連記事】村木厚子さんが登場したトークショーの模様

「一般社団法人 若草プロジェクト」代表呼びかけ人の村木厚子さん

「一般社団法人 若草プロジェクト」代表呼びかけ人の村木厚子さん

生まれたときに背負った荷物を外してあげること

——前回は、若草プロジェクトについて伺いました。『若草物語』の四姉妹のように、「自分らしくあっていい」を女性たちに伝えていくのはすてきなメッセージだと思いました。村木さんのお話を伺って思い出したのが、社会学者で東京大学名誉教授の上野千鶴子さんが東京大学の入学式で述べた祝辞です。

「がんばる前から、『しょせんおまえなんか』『どうせわたしなんて』とがんばる意欲をくじかれるひとたちもいます」(一部抜粋)にあった通り、「若草プロジェクト」が支援している少女たちの中にも「どうせわたしなんて」と思っている子は少なくないのではと思いました。

村木厚子さん(以下、村木):私は厚生労働省時代、ライフワークとして雇用機会均等法や女性活躍推進法などの分野で「女性活躍」に取り組んできました。でも、そのスタートラインにみんなが何の苦労もなく立てるかというとそんなことはないんですよね。

自分の生まれた環境という部分で、すごく荷物を背負っている子がたくさんいる。大人たちがその荷物を早く外してあげて、自分の人生をつくっていくというスタートラインに立てるようにしなければと思います。そうでないと、「女性活躍」が床に穴が開いたようなものになってしまう。

でも、支援は「かわいそうな人たちのため」にやるものではないんです。

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——どういうことでしょうか?

村木:5年ほど前に、OECDが「所得格差が拡大すると、経済成長は低下する」というレポート*を出して注目されました。要するに「人々の格差を埋めなければならない理由は、“かわいそうな人”のためではなくて、社会がよりよい社会になるための手段だから。支援は、子供や若い世代に資源を投入することが最善の方法」ということを言っていて、すごく感激したのを覚えています。
*https://www.oecd.org/els/soc/Focus-Inequality-and-Growth-JPN-2014.pdf

日本は高齢化社会なので、もちろん高齢者福祉も大事なのですが、高齢者福祉も含めて社会全体が住み心地が良くなるためには、若い世代や子供に資源を投入することが第一歩だと思いましたし、それを裏付ける実証的なデータが出たというのが励みになりました。だから、子供や若い世代のことを気に掛けるのは社会全体にとっても大事なことだと思います。

——支援は当事者だけではなく、社会全体にとっても必要ということですね。

「かわいそうな人」の役割を押し付けない

村木:それに、郵政不正事件の際に身をもって感じたのが、支える側にいると思っていた自分が、1日を境にして支えられる側に回ったということなんです。昨日までの自分と今日の自分は同じなんですよ? それでも一晩にして立場が変わってしまうことがある。

「支える側の人間」と「支えられる側の人間」という2種類の人間がいるのではなくて、一人の人間が支える側になれるときもあるし、支えられる側になるときもある。それを実体験したというのは、自分にとってすごく良い経験でした。

それに、助けられる側も、一方的に手を差し伸べられるだけではあまり救われない。自分にちゃんと価値があると思わないと頑張れない。社会福祉も、助ける側の人間と助けられる側の別々の人間がいるという前提では、きっとうまくいかないんだろうと思います。

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——「自分にちゃんと価値があると思わないと頑張れない」というのはどういうことでしょうか?

村木:あの事件のときに、「村木はどうも無罪になりそうだぞ」と分かった瞬間、報道のされ方が180度変わったんです。それまでは「悪い官僚」として報道されていたのが、一転して「悲劇のヒロイン」という描かれ方に変わった。「悪者」と言われるのももちろん嫌でしたけれど、「悲劇のヒロイン」というのもすごく嫌でした。

——それはなぜですか?

村木:「悲劇のヒロイン」は、ニコニコ楽しそうにしていてはダメなんですね。あくまでも「悲劇のヒロイン」としてそこにいて、悲しそうにしなければいけない。それはすごく力を奪われることなんです。

だから、「かわいそうな人」という役割を押し付けられて助けられるのは嫌だし、当事者の力をそぐものなんだと思いました。

支援を受ける側も、自分たちが何かできることをするというのが一番力が出てくる。若い人たちの支援をやっている団体を見ていると、かつては非常に苦しんでいた側がサポートをする側に回ったり、その中で自分の力を付けていったりというのがよく起こるんです。助けてもらいながらでも、自分も何かができるとすごいパワーになるんですよね。

——確かにそうかもしれないですね。

村木:だから「若草プロジェクト」の支援も、本人の気持ちを大切にする支援をしなきゃいけない。誰でも何でもそうですけれど、自分は支援をする側だと思っている人はすごく気を付けなければいけないところだと思いました。

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子育てで孤立しない仕組みを作ること

——もう一つ、伺いたいのですが、児童虐待事件で子供が犠牲になるたびに「なんで子供に暴力を振るうような男と結婚したんだ」「子供が虐待されているのを黙って見ていたのか?」と子供の母親や女性が責められます。個々のケースがあると思うので、ひとくくりに語るのは難しいし、子供を死なせてしまった、救えなかった責任は負うべきだとは思うのですが、彼女たちも周りに助けを求められない状況だったのかなと想像します。そういう人たちに支援が行き届くようにするためにはどんなことが必要なのでしょうか?

村木:困窮者支援の現場では、困窮者は共通点が二つあると言われているんです。一つは複数の課題が重なっていることと、もう一つは孤立をしていること。孤立をしているから、助けを求められないし、ここに行けば助けてもらえるという情報が届かないんですよね。だから、子供を持ったお母さんやお父さんが孤立をしない仕組みはとても大事だと思います。

子育てはみんな孤立してるじゃないですか。ワンオペ育児とか、密室の中で子供とお母さんだけしかいなくて「家族以外の人と話すのが3日ぶりです」という人もいますよね。

——います! 友人に同じことを言われたことがあります。

村木:ありますでしょ? 子供を持った途端に、孤立するという状況自体が、すごく良くない環境だと思うんですよね。

——児童虐待と言うと、すごく心が痛むと同時に、どこか自分とは関係ない出来事と思っていましたが、地続きなんですね。

村木:私はそう思います。そこにいくつかの問題が重なると悲劇が起きてしまう。普通のお母さんにも起こり得ることだと思います。イライラして子供に当たりそうになってしまうとか。そういうことはつながっていると思うし、だからこそ子育てが孤立しない仕組みを早く作らないといけない。行政の努力ももちろん必要だし、周りや地域でもできることが本当はもっとある気がしますね。

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■イベント情報

10月22日(火)に「大妻女子大学千代田キャンパス大妻講堂」(東京都千代田区)で「若草プロジェクト2019年シンポジウム」が開催されます。12時半開場、13時半開会、16時50分閉会。詳しくは公式HPまで。

(聞き手:ウートピ編集部:堀池沙知子)

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