急な頭痛や筋肉痛、発熱、歯痛などで痛み止めの薬を買おうとドラッグストアに駆け込んでも、陳列棚には似たような効果効能を表示する製品が並び、どれを選べばよいのか迷います。たとえば、頭痛のときはこれ、筋肉痛ならこちら、眠くならない薬はあれなど、見分ける方法はあるのでしょうか。大阪府薬剤師会理事で薬剤師の近藤直緒美さんに聞いてみました。
市販薬と処方薬の違いは?
——まず、痛み止めの薬は、病院で処方されるものと市販のものでは何が違うのかを教えてください。
近藤さん 医療用医薬品の場合は、1つの薬に1つの有効成分が含まれていて、医師が診断した症状に応じて必要な薬を処方します。頭痛とせきという症状があれば、それぞれの薬と、胃の粘膜を保護する薬を合わせて処方します。
市販薬の場合は、1つの錠剤や1袋の散剤に複数の成分が配合された総合薬のタイプが多くなります。たとえば、ロキソニンSプラス(第一三共ヘルスケア)、バファリンプレミアム(ライオン)、イブクイック(エスエス製薬)などの鎮痛薬には、胃の粘膜を保護する成分の酸化マグネシウムや乾燥水酸化アルミニウムゲルなどが含まれています。
——市販薬と処方薬で、同じものがあると聞きました。どんな薬でしょうか。
近藤さん 市販薬の「ロキソニンS」や「イブ」のシリーズなどは、医療用の薬を市販薬として転用したものです。これを「スイッチOTC医薬品」と呼びます。
「OTC」とは、「Over The Counter」の略です。薬剤師の説明を受けて購入する「第1類医薬品」と、薬剤師や登録販売者の説明を受ける「第2類医薬品」、また、第2類の「2」の部分が〇や□で囲まれている「指定第2類医薬品」などに分類されているため、手の届きにくい場所に陳列されています。
例を挙げると、医療機関で処方される「ロキソニン錠」と市販薬の「ロキソニンS」、処方薬の「ブルフェン錠100~200」(科研製薬)と市販薬の「イブ」のシリーズ(エスエス製薬)や「ナロンメディカル」(大正製薬)は、製品名は違うものの、成分、添加物、形状などは同じです。
また、「ロキソニンS」のシリーズは「第1類医薬品」に分類されます。薬剤師に用法用量や副作用に関する説明を受けてから購入してください。
下痢、便秘、二日酔いに鎮痛薬が効かない理由
——市販の鎮痛薬はどれを選んでも「痛み」に効果があるのでしょうか。
近藤さん 市販の薬は、神経に痛みを伝達する「発痛物質」のブラジキニンやセロトニン、アセチルコリンなどがつくられる過程や、痛みを増幅する物質のプロスタグランジンの働きを抑えて痛みを和らげます。これらが原因となる頭痛、関節痛、歯痛、月経痛などには、同じ鎮痛薬でも痛みの箇所に関係なく一定の効果があります。
ですが、胃痛や下痢、便秘によるおなかの痛みなど、「発痛物質」が原因ではない場合は、市販の鎮痛薬では効果がありません。
——二日酔いによる頭痛には、鎮痛薬は効くのでしょうか。
近藤さん 二日酔いでは頭がずきずきする痛みがあるでしょう。これは、アルコールを肝臓で分解する際に生じる「アセトアルデヒド」という有害物質が脳の血管の周囲にある神経を刺激する作用です。痛みの原因が、お酒を飲んでいないときの頭痛とは異なるので、市販の鎮痛剤では緩和できません。
鎮痛薬を選ぶ3つの目安とは?
——では、鎮痛薬を選ぶための具体的な方法を教えてください。
近藤さん 目安として、まず、「痛みを抑える作用が早く強い」タイプ、「副作用として多い胃の負担を抑える」タイプ、「痛みの反応を鈍くする『催眠鎮静成分』が含まれず、眠くならない」タイプ、また、それらを複合したタイプがあります。
薬の主な名称が同じでも、シリーズとして違うタイプが出ているのはそういった用途が違うためです。たとえば、ロキソニンSは3種類のシリーズ、イブやナロンは5種類があり、それぞれ鎮痛作用の強弱や胃、眠気への作用が違うことを知っておきましょう。
そのうえで、いま自分がどういうタイプを必要としているかと、各薬の特徴をパッケージにある説明や、成分の表示を読んで把握し、選び分けるといいでしょう。具体的な鎮痛薬を次に整理しておきましょう。
(1)速く痛みを抑えたいとき……吸収が速く、即効性が高い解熱鎮痛消炎作用の成分を含むタイプ。主成分はロキソプロフェンナトリウム、イブプロフェン、アスピリンなど。
・ロキソプロフェンナトリウムが主成分の製剤……ロキソニンSのシリーズ(第一三共ヘルスケア)、バファリンEX(ライオン)など
・イブプロフェンが主成分の製剤……イブのシリーズ(エスエス製薬)、ナロンメディカル(大正製薬)、セデスキュア(シオノギヘルスケア)、フェリア(タケダ)など
・アスピリン(アセチルサリチル酸)が主成分の製剤……バファリンA(ライオン)、バイエルアスピリン(佐藤製薬)、ベネスロン(アスゲン製薬)など
(2)胃への副作用を抑えたいとき……「胃粘膜保護成分配合」と表示されたタイプを選びます。「胃にやさしい」、「胃への負担が少ない」といった表現の薬は、製剤法による場合があり、胃の粘膜を保護する成分を配合しているとは限りません。また、市販の風邪薬に含まれることが多い解熱鎮痛成分のアセトアミノフェンが主成分の薬は、空腹時にも飲める胃に優しいタイプです。消炎作用はありません。
・胃粘膜保護成分を配合する製剤……ロキソニンSプラス/ロキソニンSプレミアム(第一三共ヘルスケア)、イブクイック頭痛薬(エスエス製薬)、バファリンプレミアム/バファリンルナi/バファリンEX(ライオン)、ナロンエースR(大正製薬)など
・アセトアミノフェンが主成分の製剤……タイレノールA(ジョンソン&ジョンソン)、ラックル(日本臓器製薬)など
(3)眠くならないようにしたいとき……パッケージに「眠くならない」といった表記があります。成分は、催眠鎮静作用があるプロムワレリル尿素、ジフェンヒドラミン、アリルイソプロピルアセチル尿素などが含まれると眠くなります。これらの表示がないタイプを選びましょう。
・催眠鎮静作用のない製剤……ロキソニンS/ロキソニンSプラス(第一三共ヘルスケア)、ノーシンアイ頭痛薬/ノーシン錠(アラクス)、セデスファースト(シオノギヘルスケア)、バファリンA/バファリンルナi/バファリンEX(ライオン)など
——鎮痛薬を選ぶ目安を理解することができました。
近藤さん パッケージにある「速く効く」や「胃粘膜保護成分配合」、「眠くならない」などの特徴を探してください。成分名がややこしいいと思いますので、不明なことがあればぜひ、ドラッグストアに常駐の薬剤師に相談してください。
痛みが強くない場合は、即効性よりも胃の粘膜を保護する成分が配合されたタイプ、また、仕事中は眠くならないタイプを選ぶといった、鎮痛薬の選び分けをしたいものです。
鎮痛薬に関する疑問について、後編に続きます。後編では、痛みの種類による薬の選び分けについて、近藤さんがお答えします。
後編の内容
■成分の違いと痛む部位を考えて選ぶ
<頭痛>
<筋肉痛、腰痛、関節痛>
<歯痛>
<月経痛>
各症状別に聞いてみました!
(取材・文 小山田遥/ユンブル)