男性にとって「不妊の原因はあなたです」と診断されるのは、存在を否定されたのと同じこと。とてもデリケートな「男性不妊」の治療を、パートナーとしてどのように支えていけばいいのか? 不妊に悩む人たちの支援を行うNPO法人Fine理事長・松本亜樹子(まつもと・あきこ)さんに、その秘訣を聞きました。
「不妊?」と思ったら、夫婦そろって病院へ
――男性不妊を乗り越える「男性妊活」について、アドバイスを教えてください。
松本亜樹子さん(以下、松本):よくあるのが、「子どもができにくい」とわかった時に「自分に原因があるのでは……」と、先に女性だけが検査を受けに行くケース。これはしない方がいいですね。なぜなら、男性が検査に二の足を踏むきっかけをつくってしまうから。もし最初に検査を受けた奥様に不妊の原因がなかったら……旦那様は検査を受けるのが怖くなってしまいますよね。だから、検査を受けるなら「夫婦そろって」がおすすめです。
――男性側が「検査を受けるのは怖い」「病院なんか行きたくない」とならないためのひと工夫ですね。
松本:男性の不妊治療のスタートラインには必ず「精液検査」がありますが、病院を受診すること自体を躊躇する男性が少なくありません。しかも妻側に不妊の原因がないとわかっている時、旦那様を病院に向かわせるハードルはさらに高くなるでしょう。だって、「あなたに原因がある」という確認をしに行くようなものですから。それならば、どちらに原因があるのか、ないのか、わからないうちに、一緒に検査を受けてしまった方がいい。
態度には出なくても、彼の心の中は…
――検査の結果、不妊の原因は自分にあるとわかったとしたら、その時の夫の心理は……
松本:もしかしたら、彼は態度には表さないかもしれません。けれど、心の中は深くえぐられたように傷ついていると思います。男性にとって「生殖能力の低さ」を告知されるのはアイデンティティを揺るがされるつらい事実。よく「種なし」なんていう言葉がありますけど、あんなことは冗談だから言えることであって、もしそれが現実だとしたらとてもひどい言葉ですよね。
――男性にとって、「男性不妊」が女性の想像以上にデリケートな問題であることを理解する。これがファーストステップなんですね。
松本:今では事前説明会が行われているクリニックもあり、どなたでも話を聞きに行けたり、相談できたりするシステムがあります。これなら男性にとっても、いきなり「精子の検査をするから」と連れていかれるよりは、心理的な敷居は低いと思いますよ。
男性不妊専門の泌尿器科を探して
――病院選びのポイントは?
松本:そうですね、男性不妊であることがわかったら「男性不妊」の治療を掲げている専門のクリニックか、もしくはそういった専門クリニックと提携している、あるいは専門ドクターが派遣されている病院の方が安心できると思います。
診療科目としては、泌尿器科になります。もし重度の場合は、手術に対応できる医療設備があることも重点ポイントになりますね。
これは不妊治療に限りませんが、インフォームドコンセント、インフォームドチョイスがきちんととれる病院かどうかも、一つの判断基準。「よくわからないまま、流されて治療をしてしまった」と思うと、あとあと大きな悔いが残ってしまいかねません。治療法や投薬の選択肢について理解できるようなわかりやすい説明があり、その中から自分たちが納得できるものを選べることが何よりも大切です。
(江川知里)