『脳医学の先生、頭がよくなる科学的な方法を教えて下さい』インタビュー・第3回/止

「もう遅い」なんてない! 大人だからこそ効率的に学べる理由

「もう遅い」なんてない! 大人だからこそ効率的に学べる理由

「資格の勉強を始めたけれど、昔に比べて記憶力が悪くなっている気がする」「昨日食べたものがすぐに思い出せない」--。

子供の脳や学力を伸ばすだけではなく、大人の脳の成長についても解説した『脳医学の先生、頭がよくなる科学的な方法を教えて下さい』(日経BP)が8月に発売されました。

大人になってから脳のパフォーマンスをあげることはできる?

著者で脳医学者・東北大学教授の瀧靖之(たき・やすゆき)さんに3回にわたってお話を伺いました。

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趣味は3日坊主でもオッケー

——趣味を持ったり、何かに没頭することが大人にとっての最高の脳トレとありましたが、いろいろ手を出しては飽きてしまったり、3日坊主で終わったりすることもしばしばあります。

瀧靖之さん(以下、瀧):世の中って無限に楽しむことがあるんですよね。その中で自分がハマれるものって、いくらでもあると思うんですよ。それを見つけるために動くこと自体が知的好奇心なので。だから、3日坊主でも1日でも、ちょっとやるだけでも良いと思いますよ。

——ジムに行かなくなってしまっても自分はダメだと思う必要はないんですね。「このやり方は私には合わなかったな」という感じでよいのでしょうか?

瀧:大丈夫です。やっただけでもその世界が分かって、時間がたって「また自分がやってみようかな?」と思ったときにすぐに取り掛かれますよね。だから、子供時代にピアノをちょっとやってみたけれどやめちゃったというのも全然もったいなくないんです。

大人のほうが子供より効率よく趣味を楽しめる

——子供の頃、ピアノや書道など習い事もいくつかやっていたのですが、月謝もバカにならないのに大成しなくて親に申し訳ないと思っていました。

瀧:楽譜が読めれば30年後にピアノを再開したときにすっとできますし、外国語だって一時的にやめたとしても必ず頭の奥底に残っているからまったくゼロからスタートするよりは確実にハードルが低く始められますよね。

——確かにそうですね。数年ぶりに外国語の勉強を再開したのですが、結構覚えてて驚きました。

瀧:前回も強調しましたが、脳には可塑性と言って変化する力があるので、何歳から何をやっても確実に伸びます。可塑性は80歳になろうが90歳になろうがあるので、80歳からピアノをやっても90歳から英会話をやっても確実に伸びるんです。ましてや、30代、40代なんてもう全然余裕です(笑)。もちろん、3歳からピアノを始めた人は、可塑性がものすごく高いので、ちょっと練習するとある程度のレベルまで達します。30歳からやるとちょっと練習時間がかかるだけなんです。

でも代わりに、私たちは長く生きている分、いろいろなことをやってきたし、興味関心が持てるじゃないですか。子供の頃にピアノを習っていた人はバイエルを仕方なくやるかもしれないけれど、大人はいろいろ知っているから好きな曲からやればいいんです。

——まさにピアノも先生に言われるがままバイエルからやって挫折しているので、身に染みます。

瀧:好きな曲からやるのの何が良いかと言うと、好きっていう感情と記憶に密接な相関が生まれるんです。扁桃体という脳の感情をつかさどる領域と記憶をつかさどる海馬という領域が密接な機能連絡を生みます。なので、好きなことって覚えやすいんです。大人って好きなことが明確にあるじゃないですか。これをやりたいとかこの曲が好きだとか……。ある意味大人のほうが子供よりも効率がいいんですよ。

——大人って子供に比べて、「点」がたくさんあるからちょっとつながるとあっという間に大きな地図になるみたいな感じでしょうか?

瀧:まさしくその通りです。だから私は大人になってから始めたものがいくつかありますが、子供の頃よりも圧倒的に効率がよいですね。可塑性が下がっていても楽しくてしょうがないから、それに対する興味関心やワクワク度がめちゃくちゃ高いから習得するのがすごく早いです。

——大人だと使えるお金も動ける範囲も大きいですもんね。

瀧:情報収集するためのツールもありますからね。だから大人になってから何かを始めるって素晴らしいことだと思います。「今からでは遅い」と考える必要は脳科学的にもまったくないです。

「自分には好奇心がない」と思い込んでいるだけ

——そもそも「やりたいことがたくさんあっていいね」と言われることもあるのですが、自分がやりたいことの見つけ方というのはあるのでしょうか?

瀧:それはまずマインドセットを変えることですね。「自分には好奇心がない」というのが間違いなんです。ないわけではなくて、ないと自分に言い聞かせているだけ。だから、「自分は好奇心がない」というマインドセットをまず変えること。おそらく知的好奇心がないわけではなくて、「あの人に比べて自分は低い」とか比べてしまっている可能性もありますよね。だからまずは、自分が素直に楽しいと思うことを見つければいいんです。

そのときにやっぱりハードルを低く始めるというのがポイントで。今続けていることをそのまま続けるというのはベストですし、そうでなければ昔やったことを再開してみる。例えば私みたいに、20数年ぶりにピアノを始めてみるとか。ゼロから始めるよりも楽なんですよね。5年くらいやれば何曲も弾けるようになりますよ。それでもダメなら、昔憧れたことをやればいいんです。それもハードルが低くできますから。私もちょうど全く初めてでドラムを始めたんですが、今度発表会に出るんです。ドラムは中高時代に憧れていたことの一つだったんです。

——初めてやったのですか?

瀧:まったく初めてです。スティックの持ち方すら知らなかったっていうところから始めて。もうガンガンやっています(笑)。憧れていることがあれば、それを始めるときにハードルが低いじゃないですか。何も興味がない、私にとって何の興味もないことを、「さあやりましょう」と言ってもなかなか。私は興味があるから何でもやりますけど、それでもやっぱりちょっとハードルが高いんですよね。だったら、昔やっていたことがなければ、憧れていたことをやってみる。

それでも、何かやりたいけど見つからない人は、周りのご友人とかご家族の方が楽しくやっていることを始めればいいんです。そうしたら、その面白さが分かると思うので。私はカメラはまったく分からないけど、周りに詳しい人が一人でもいれば、まあ分かるじゃないですか。「こんなレンズ買って、初心者が使うならこれがいいよ」とかアドバイスをもらえる。そんなふうに周りの人がやっていることを始めてもいいと思います。

(聞き手:ウートピ編集部:堀池沙知子)

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