仕事、結婚、出産、社会からの抑圧……、悩みが絶えないアラサー女性たちが、自分らしく勇気をもって生きていくにはどうしたら良いのだろうか。かつて、自身も悩み苦しみ、辛い経験をし、その中で自分なりの正解を導き出した人生の先輩に聞いた。
お話を伺ったのは小説家の佐伯紅緒さん。文筆業に憧れながら20代、30代で大手百貨店、アパレル、料亭など様々な職業を経験。39歳の時、派遣社員として勤めていたIT関連企業での自身の体験をもとにした小説『エンドレス・ワールド』で小説家デビューを果たす。現在は小説を書く傍ら、ライターとして女性の恋愛や仕事、結婚に関するコラムを多数執筆している。
度重なる転職も「3秒以上は考えない」というシンプルなルールで決断
――佐伯さんの職歴は興味深いのですが、どのような経緯で転職されてきたのでしょうか。
佐伯紅緒さん(以下、佐伯):若い頃から、漠然と文章で身を立てたいと思っていました。物を書くにはたくさん人に会わなくてはいけない。人を多く見られる場所はどこかなと思い、老舗の大手百貨店の宝石売場に勤めました。
そこで5年働き、隣のロッカーが某有名ブランドのアパレルで働く子で、制服が可愛かったのでそこへ転職しました。次に着物が着たいとぼんやり思い、着物が着られてお金がもらえるということで料亭へ。その後、物書きはPCに詳しくなくてはと思い、派遣で大手IT企業に勤めました。その頃から働きながら通っていた脚本の学校の講師をしていた今の旦那さんに出会い、IT企業を辞めて結婚し、小説家として今に至っています。
――「この仕事は自分が本当にやりたいことなのだろうか」とタイミングや自分自身の状況で迷う人も多いかと思います。佐伯さんが転職を決断する時に大事にしていたものはなんですか?
佐伯:何か行動を起こす時は、「3秒以上は考えない」というのをモットーにしています。ベストは1秒ですね。考えると無数に選択肢が出てきてしまうので。悩んだらその時に無理に考えないで翌日にペンディングした方が良いんです。悩んで迷って決めたことって私の場合、大抵後悔するんですよね。
母に邪魔されるのが怖くて、結婚は事後報告
――女性の多い職場というのは敢えて選ばれたんですか?
佐伯:いえ、無意識ですね。ある時、なんで人付き合いが苦手なのに接客業、しかも怖い女性がいる職場にばかり行くんだろうと思った時に、母に似た人がいそうな場所を無意識に選んでいたことに気が付いたんですよ。
――「お母さんに似た人」とは?
佐伯:私は2人姉妹の長女なんですが、昔から母の期待や要望がすごかったんですよね。4年制大学を出してもらったことには感謝してるんですが、周りが大手企業に入社する中、私が百貨店で働くことになって泣かれたこともありました。
30歳の時、職場の人間関係がすごく辛くて実家に帰った時があったんですが、帰ると父がオロオロしている。母が、父がゴルフに行ったのが気に入らなくて押し入れに籠っていたんです。それを見て、実家はわたしの癒しの場じゃないと思って逃げるように家を出ました。その直後、「慰めてもらいたくて押し入れで待っていた」と母からものすごい数の電話がかかってきたんです。
今まではそういう母の要望に応えて慰めていたけど、ここを乗り越えないと前に進めないと思い、積もり積もって「ふざけんな!」と言って絶縁しました。今は和解してますが、当時、この呪縛から抜け出すには自分の意思を貫くしかなかったんです。
――転職については、随時お母様に報告はされてきたんですか?
佐伯:報告はしてましたが、唯一しなかったのは結婚の報告です。あの頃は母に邪魔されるのが怖くて、実家にはすべてが決まってから「結婚するから」と言いました。この手の問題を抱えている多くの母娘にいえることですが、私の母もまた、娘の幸せを願う反面、どこかで無意識に足をひっぱっているようなところがありました。だから旦那さん選びなどは特にそうですが、親が少なからず自分の行動を制限するとわかったら、物事は自分で決めた方が良いのかなと思います。
素直に苦手なものをダメって言えるようになって、生きやすくなった
――確かに親を大事にするあまり、親が気に入らない男性とは結婚できないという考えの女性は少なくないと思います。そのあたりはどうお考えでしょうか?
佐伯:『母がしんどい』(田房永子著・新人物往来社)を読んで、これは私だけでなく母と娘の関係においてどこにでもある社会問題なのだと思いました。真面目で頑張る女性ほど母親の期待に応えようと、精神的な檻に入っている人が多いんだと思います。そこから早く出ることが大事なのかなと。私は時間がかかってしまい、34歳で結婚しましたが、「ふざけんな!」をもっと早く母に向けていたら人生こんな遠回りしなかったのかもと思います(笑)。
――親孝行はしなくてはいけない、という過度な観念が知らず知らずのうちに自分を苦しめていたのでしょうか?
佐伯:親孝行って強迫観念でする必要はないと思います。私もずっと母親と仲が良いのだと思っていましたが、30歳の時に私この人のこと苦手なんだって気付きました。でもそれ以来、素直に苦手なものをダメって言えるようになったので、すごく生きやすくなったんです。母のことも、いったん苦手だと自覚した途端、かえって普通に接することができるようになりました。でも今、本当は嫌いなのに好きだと思いこんでしまう人ってすごく多いんですよね。
>>後編へ続く:「親孝行は強迫観念でするものではない」 “母親の呪縛”に苦しんだ女性小説家が、真面目な女性に伝えたいこと
(編集部)