『シャバはつらいよ』著者・大野更紗さんインタビュー(前編)

人生を変えるには「断捨離」が必要! 自らの難病をコミカルに描く30歳女性ベストセラー作家の“転換点”

人生を変えるには「断捨離」が必要! 自らの難病をコミカルに描く30歳女性ベストセラー作家の“転換点”

人生変えるには断捨離!30歳女性作家

デビュー作の『困ってるひと』(ポプラ社)が20万部以上のベストセラーとなり、世間にその名を知られた大野更紗さん。彼女は原因も治療法もわからない難病(筋膜炎脂肪織炎症候群という自己免疫疾患の一種)というハンディキャップを背負っている。

有名になったとはいえ、30歳の女性としての葛藤もあるだろう。彼女の抱える問題の難易度はあまりにハイレベルだが、ひとりの女性として生き方を模索し、周囲を冷静に見定めながらコミカルに表現する姿はいまも世間の注目を集めている。

そんな大野さんが最新刊『シャバはつらいよ』(ポプラ社)を上梓した。彼女はいまどんな状況でどんな将来を見据えているのか。日々の気付きとともに聞いた。

難病は変動の幅が激しくジェットコースターのよう

――世間一般では難病はハンディキャップだと思われていますが、世の女性たちは難易度の違いこそあれ、いろいろなかたちのハンデを背負っているはずです。大野さんは、自分の置かれている状況をどう捉えていますか。

大野更紗さん(以下、大野):一人暮らしを始めたのは2010年6月のことだったので、多少は慣れたと思います。普段は電動車いすで移動していますが、家の中では自分で歩いています。たとえば難病用語で一日の間に起こる症状の変動を「日内変動」と言ったりしますが、難病は変動の幅が激しいんです。

季節や年単位でも激しいのですが、一日の中でも身体能力や行動制限に大きく差が出ると言われているほどです。大体このくらいだろうと予測はつくこともあれば、ジェットコースターのような時も。自分の身体なんですがコントロールできなくて、でもコントロールできないのは仕方ないからどうやって暴れ馬に年中乗って暮らそうか、みたいな感じですよね。

難民研究を断念したのは断捨離行為みたいなもの

――もともと「難民」を専門に研究していた大野さんは、一度は病気を理由に研究を断念しながらも現在は再び大学院生として社会保障システムの研究を始めています。積み上げてきたものを一回リセットして別分野に飛び込むことはかなり大きな決断だったはずです。特に大野さんと同じアラサー世代は、自分が積み上げてきたものを一旦リセットして次の道に行くべきなのか、すごく考える時期だと思いますが、当時はどんな気持ちだったのでしょうか。

大野:別の研究を始めることについては、そんなに突拍子もないことでもなかったです。やっぱり自分が難病の当事者になって当然疑問に思うこともあって、それを自分で調べて納得したいなという気持ちがあったので。それでも、いざこれまでに集めてきた資料の整理を始めて、処分するときになって「本当に(難民の研究を)やめるんだ」と実感して、自分が予想していたよりすごく重かったですね。研究はライフワークだと思っていたし、自分にしかできない仕事だと思っていたから。誰でもそうだと思うんですけど、自分にしかできないと思ってやってきたことを、本来であれば一番盛り上がる時期である20代後半で捨てるというのは、結構それなりに辛いことなのかもしれない。

実は病気のことも、自分が難病になることでぶち当たる社会の壁とかも、考えることはそんなに苦痛じゃなかったんです。でも、研究していたミャンマーや難民のことは極力考えないようにしていました。多分一番考えたくないことだったと思うんですよね。

だけど今にして思えば、誰の人生にもある凡庸な人生の切り替えや、大きく変わらなくちゃいけないときの断捨離行為みたいなものだったんだと思います。

――あらたな道を進むことを選んだ大野さんにとって、治療に費やした期間は少なからずハンデや障害なったのではないでしょうか。研究者としての出遅れをどのように捉え、またどのように埋めようとしているのですか。

大野:確かに治療のために休んでいたという意味では不利なのですが、新しい研究分野は社会保障のシステムを扱っているので、患者として医療機関の中にいたという意味では究極のフィールドワークというか、患者になるという参与観察の経験でもあって、それはアドバンテージにもなることでした。

新しく大学院に入り直したときも、医療難民になったり入院していた2年間については「ロスしてた」という気持ちは実はあまりなかったんですよね。結構役に立っているという思いの方が大きいですかね。あまり複雑なことを考えられないタイプなので、すごく楽観的なのかもしれないですね。

SNSは必要とされている似たもの同士が惹きつけられる場

――体の自由が制限される生活の中で、SNSを活用していて、これまで大野さんを多方面に渡ってサポートしてくれた人たちと出会ったのもSNSでした。SNSを通じたコミュニケーションをどのように位置づけているのでしょうか。

大野:よく思うことなんですけど、SNSって開かれている場所のようでいて、実はそうでもないというか、必要とされている似たもの同士が惹きつけられる引きつけられる場だと思うんですよね。それがよりオープンな場で可視化されているだけかもしれない。昔のインターネットがない時代だったら、例えば患者会や家族会が、それしか情報共有する手段がないから一生懸命冊子とかを作って配っていたわけです。多分、その行動とほとんど似通っているんじゃないかなという感じがしています。

――SNSが出会いの場として活用されることもありますが、その辺りの事情についてはどのように考えていますか。

大野:SNSでわかることってある程度までで、その先はちゃんと現場を見に行かないとわからないので、とても便利だけど万能ではないですね。特に最近は若い学部生の方と直に接する機会が多いので、「若い人だ、若いな~」と新しく教わることばかりです(笑)。すっかりもみじのように枯れている感じなんですけど(笑)。

研究でも仕事でも子育てでも、なんでもいいと思うんですけど、何かを続けるためにはモチベーションを維持するエネルギー源って重要ですよね。それは家族だったり、純粋に研究や仕事が好きという気持ちだったりとかするのかもしれないですよね。だから、そういう場に出会いを求めるのもごく人間らしいというか、ままあることなんじゃないかと。

ただ、私は(恋人よりも)お嫁さんがほしいです(笑)。忙しくて大変なので、自分の言うことを聞いてくれて、手助けしてくれて、事務能力が高くて自分の研究もよくわかってくれる秘書的な人のほうがほしいわけです。おかげで今では夫や彼氏が必要だとは微塵も感じなくなってしまいましたね、枯れてますね、もみじですね。。

どうしようもない言い方ですが、たとえば恋人ができて一緒にご飯に行ったら、最低でも2~3時間は使いますよね。「2~3時間あったら(原稿を)2個くらい書ける!」みたいな(笑)、いまはそういう感じになっちゃってます。つまらない退屈な人間だなという自覚があります。でも、友人や他人が幸せそうにしているのを見るのは好きです。矛盾してますよね。

>>【後編につづく】「楽にハッピーに生きるにはどうしたらいいのかな」 難病を抱える30歳女性ベストセラー作家の“幸福論”

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