レイプクライシスセンターTSUBOMI代表の望月晶子さんインタビュー(後編)

もしもレイプ被害に遭ってしまったら? 専門家に聞く正しい相談先、届け出、ケア対応など

もしもレイプ被害に遭ってしまったら? 専門家に聞く正しい相談先、届け出、ケア対応など

知っておきたい“レイプの正しい知識”

前編では、レイプクライシスセンターTSUBOMI代表の望月晶子さんに、日本での強姦・準強姦事件に対する司法や社会の扱いについてお話を伺いました。後編では、実際に被害に遭ってしまったときに知っておくべきこと、そして身の回りの人が被害に遭ってしまったときの理想的な対応について伺います。

>>【前編】「なかったこと」にされる性暴力 被害者支援団体の代表に聞く、レイプをめぐる社会の問題点

被害に遭ってしまったときには

強姦は、被害者の心身を傷つける犯罪。被害者は、強姦時に大変強い恐怖を味わうことから、被害後、精神不安定や不眠、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの精神的反応を経験することがわかっています。また、ケガを負ったり、妊娠や性病感染のリスクにさらされるなど、身体的な被害も深刻です。心のケアも重要ですが、被害直後は「まずは身体の安全の確保を」と、望月さんは訴えます。

被害後は、どうか72時間以内に産婦人科に行くようにしてください。たとえケガがなかったとしても、妊娠と性病の検査をし、自分の身体を守ることが大切です。検査の費用などは、警察に被害を訴えれば、負担してもらうこともできます

産婦人科では、妊娠を防ぐための緊急避妊を行うことも可能です。また、被害者の同意のもと、強姦を起訴する際に必要な加害者の体液・体毛などの証拠採取を行う場合もあります。ただし、こういった性暴力被害への対応に必要なスキルが不足していたり、被害者への配慮が十分といえない産婦人科があることも事実。神奈川県や福島県には、強姦被害に対する積極的な対応を打ち出している産婦人科のネットワークがあるので、上記二県に住んでいる場合、そういったネットワークに加盟している産婦人科にあたるとよいでしょう。他の地域では、性暴力被害者を支援する機関や、警察に産婦人科を紹介してもらうことができます。

強姦被害後は、上記のような産婦人科医療にとどまらず、相談・カウンセリング等の心理的支援、捜査関連の支援、法的支援等、多岐の分野にわたる専門的なサポートを受けることが望ましいです。そういったサポートを一か所で提供しているワンストップ支援センターが各地にあるので、被害後にそういった場所とつながることも大切です。レイプクライシスセンターTSUBOMIでも、ワンストップ支援を目指し、電話相談・メール相談を実施しています。

身近な人が被害に遭ってしまったら

友人や、家族が被害に遭ってしまったら……「助けになりたい」と思うことは当然ですが、正しい知識を欠いたうえで行動すると、被害者をさらに傷つけることになりかねません。望月さんいわく、周囲の人が気を付けるべきことは3つあります。まず、前編でも言及した、被害者を責めたり、強姦被害の責任を転嫁する言動はつつしむこと。

『あのときあんなことしなければ……』というような、被害者に事件の責任の一端を負わせる言動はさけてください。自分にも落ち度があったのではないか、と被害者自身が一番気にしています。『ああしてればよかった』などと、被害に遭ったあとに言ってもしようがありませんし、いかなる理由があっても、襲われていい、なんていうことはないのです

こういった、性暴力で傷ついた被害者を、周囲の人の言動がさらに傷つけるようなことを「二次被害」「セカンドレイプ」と呼びます。周囲の人による二次被害・セカンドレイプについては、アジア女性基金による冊子『レイプの二次被害を防ぐために(PDF)』に詳しいです。

次に気を付けるべきことは、本人の意思を尊重すること。本来ならば、すぐに病院に行ったり、相談機関に連絡するのが望ましいのですが、「思い出したくない」「誰にも会いたくない」などの理由で、本人がなかなか行きたがらない場合もあります。しかし、そこで被害者を無理やり連れて行こうとするのは逆効果とのこと。

本人の意思を尊重しない行動は、信頼関係が崩れてしまうことになりかねません。『被害届けを出しに行きたいんだったら、一緒に行くよ』という提案や、情報提供にとどめるのがベストです。被害に遭った方が『助けてほしい』と思ったときに、そっと手を差し伸べられるくらいの距離感でいるのが望ましいです

強姦被害者は、被害後、長期にわたって他人に対する不信感に悩まされる、という報告もあります。だからこそ、なおさら被害者との信頼関係を大切にしたいものです。

最後に、周りの人が気を付けたいのは被害者と「今までと変わらずに接すること」。望月さんは、事件が起こってしまったことを受け入れつつも、家族・友人として、今までの関係をつづけることが重要、と話します。

『腫れ物に触るように』接することは、被害者に『自分は変わってしまった』といった感覚をあたえてしまいます。事件をなかったことにはできませんが、事件に遭ったことでその人が変わってしまったわけではないのだから、変に特別に扱ったりしないでください。事件に遭ってしまったことで、その人の人生に何かが付加されたことも全部含めて、今までと同じように付き合い続ける。『昨日までのあなたでと同じではないかもしれないけれど、昨日も今日も、あなたはあなたなんだよ』と、被害者が丸ごと受け止められていると感じられるような関係性がいいと思います

いま、わたしたちにできること

日本における、強姦被害者へのサポート体制はまだまだ不十分なところばかり。強姦を事件化しにくい司法制度や、警察をも巻き込む、包括的な支援サービスの不備などについて改善が待たれています。さらに、学校での強姦被害についての教育など、公的な啓発活動も充実する必要があるといえるでしょう。

こういった制度上の不備が多い中で、被害者がつらい思いをすることを少しでも減らすには、まず、私たちひとりひとりが正しい知識をもつことが必要です。いまだ根強い、強姦を「存在しないもの」のように扱う社会の風潮や、強姦被害者に対する偏見も、正しい知識をもつ人が増えることで対抗できます。性暴力は、そもそも起こってはならないもの。いままでないがしろにされてきた、強姦被害について知ることは、自分や身の周りに人を守るだけでなく、すべての人にとってより安全な社会をつくる第一歩となるでしょう。

●取材協力:レイプクライシスセンターTSUBOMI

●性暴力被害についての相談窓口リストはコチラ

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