摂食障害とは、身体に異常がないにも関わらず、食事がとれない状態になってしまう症状(拒食症)と、食欲のコントロールが出来ずに食べ過ぎてしまう症状(過食症)の2つを指します。自覚できず病院にいくという選択肢を持たない潜在患者が多く、正確な数は不明ながら日本女性の100〜150人に1人はいるとも言われる摂食障害。日本では1980年代あたりから患者が急増しており、最近ではフィギュアスケート選手の鈴木明子さんやタレント遠野なぎこさんなど、芸能人もその過去を告白しています。摂食障害の原因はいったいどこにあるのでしょうか? 主に“やせ願望”へのとらわれが原因として知られていますが、摂食障害は、もともと心に葛藤や苦しみがあり、それが食行動として表面化した病。心のバランスを崩し、正しく食べられなくなる女性が増え続けているのはなぜか。そして回復することができる病気なのか? 治療に熱心に取り組まれている心理カウンセラー福山裕康さんにお話を伺ってきました。
反抗も非行もできない「いい子」が、摂食障害になりやすい
――摂食障害にかかる患者の性格や環境には、どんな共通点がありますか?
福山裕康さん(以下、福山):摂食障害にかかる患者の性格や環境は様々なのですが、例えば、よくある共通点としては、幼少期に「完璧でなければ愛されない」と思い込んでしまった人が、何らかの挫折をきっかけに発症するようなケースです。人間には生まれながらの“気質”がありますが、摂食障害になりやすいのは、主に「循環気質(愛されたい、注目されたい、という気持ちが強く社交的で明るい性格)」「執着気質(こだわりが強い、完璧主義)」「不安気質(心配症、思い込みが強い)」の3つの気質を持っている人です。その上で、厳格な親がいる環境で育つと、「完璧な子どもでなくては愛されない」という考え方が強化され、本当の自分や思いを押さえ込んで「仮面の自分」を作って対処し始める。心のなかでは、常に「本当の自分」との葛藤があるために苦しいのですね。
――「親」との関係性に原因があるということでしょうか。
福山:それは間違いないです。性格形成は親のもとで行われるからです。といっても、親との関係が悪い子ばかりではなく、むしろ親が大好きで、嫌われまいとして優等生になってしまった子が大変多いです。愛されたいから、親に迷惑をかけちゃいけない、ダメな自分は見せられない、となるわけです。勉強や習い事を頑張って結果を出せば、親に褒めてもらえるため、非常に頑張る。でもその分、「私は何かをしなければ親に愛されない」「ありのままの自分ではダメなんだ」と無意識に思い込んでいくのですね。
――なぜ「食行動」に現れるのでしょうか。
福山:誰にとっても、思春期は葛藤の多い時期ですよね。その時期、反抗も非行もできない子が、摂食障害になるように思います。持って行き場のないエネルギーの発散先が、食行動となるのですね。心の奥には「自分はダメだ」という思いがあり、その不安を解消するために、まずダイエットに走ります。なぜかというと、ダイエットは頑張ればきちんと「数字」として結果が表れるから。それに女の子は、痩せると周りに褒められますよね。痩せると褒めてもらえるので、安心感が得られる。その結果、ストレスが溜まると、どんどん痩せたくなってしまうのです。
――発症の直接的なきっかけになるのは、どのようなことが多いのでしょうか。
福山:高校生くらいで、大きな“挫折”を経験するタイミングが一番多いと思いますね。それまでは親の期待になんとか応えてきたけれど、進学校などに入り、うまくいかなくなってくる。でも、それまでにかぶってきた「優秀ないい子」の仮面はそのまま外せない、と思い込む。すると、「仮面の自分」と「本当の自分」がどんどん乖離していくので、葛藤も大きくなり、ついには爆発するのですね。摂食障害は「いい子」の仮面をかぶっている女性に多いですが、人に弱みを見せない「私は強い」という仮面をかぶる人や、心の中で他人とひどく距離を置く「逃避」の仮面をかぶる人もいます。「仮面の自分」として振る舞うたびに、そちらの印象がひとり歩きしていくので、本人はどんどん辛くなります。
ストレス解消のためにする嘔吐は中毒性がある
――大人の女性の間では、「過食嘔吐」がストレス解消になっている例もあるそうですね。
福山:ダイエットから拒食になり、その次に過食嘔吐になるケースが大変多いのですが、拒食の段階で処置ができると、まだ治りは早いかもしれません。拒食患者の願望は「痩せていたい」だけで、自分を許せて食べていけるようになれば治っていきますが、過食嘔吐は「痩せていたい」と「食べていたい」という、相反する強烈な願望に支配されるようになります。吐くと2つの願望が簡単にクリアできてしまう上に、言えない気持ちを言えたような感じがしてスッキリしたり、不安、寂しさ、怒りなど嫌な感情が少し麻痺したりもします。ひとりでできるストレス発散法になり、しかも中毒性があるので、嘔吐し始めると治りにくいです。10代からずっと過食嘔吐を続けて40代になる方もいますし、長い間ずっと精神的に我慢してきて、年齢を重ねてから突然発症する例もあります。
――自力で治すのが難しい病と言われる理由は?
福山:多くの患者は、どうにか「食」をコントロールしようとします。でも本当に必要なのは「メンタル」のほうのコントロール。過食嘔吐の人の場合、どうにかして食べないようにしたり、太らずにうまく食べようと試みたりしますが、自力ではなかなかうまくいきません。そういう病なのですから。そうして食をコントロールできないことにまた落ち込み、自分を責めてしまう。するとその自責のストレスで、また猛烈に食べたくなって吐いてしまう……。悪循環が起きるのですね。
>>【後編へ続く】恋愛では治らない! 摂食障害を抜け出すための「正しい自信」の育て方を心理カウンセラーに聞く
●福山裕康(ふくやま ひろやす)氏/心理カウンセラー・コーチ・コンサルティング
1961年生まれ。上場会社の管理職・経営企画を経験後に独立。ヘルスカウンセリング学会公認心理カウンセラー・ソーシャルスキルトレーナー。NLP(神経言語プログラミング)プラクティショナー。NGH(米国催眠士協会 National Guild of Hypnotists)認定ヒプノセラピスト終了。日本認知療法学会会員。日本トランスパーソナル学会会員。潜在意識へのアプローチから現実の問題(対人関係や様々なストレスなど)を解決する、確実なカウンセリングを提供している。臨床経験は2,000件を超える。特に摂食障害を専門分野とし、克服のための相談、勉強会やセミナー、ワークショップ等も多数開催している。
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